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八国史〜『新約魔書』世界一のワーストセラー〜  作者: 月詠 夜光
~天の章~

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第2話:アルバス脱出

 『精神支配の術式』への封印は、かなり厳重なものだった。


 だが、アーチュウは諦めなかった。


 そして、師匠であるリルーの癖を見抜いて、術式の入手まであと一歩にまで迫った。


 その時、アラートが鳴った。──侵入者を報せるアラートだ。


「何奴?!──アーチュウか!ココで何をしている!?」


「何、師匠の研究の成果を発揮させてやろうと思いましてね」


 そう云ってアーチュウが手にした『精神支配の術式』に、リルーは戦慄する。


「止めろ!それは決して使ってはならぬものだ!」


「ならば何故、破棄する事も無く、厳重にしまってあったのですか?


 コイツにも、存在意義を与えてやらなければならない。──違いますか?」


「忠告する!それは貴様の命を奪うものだ!」


「何の成果も出せずに死ぬならば、せめて成果を出して死ぬと云うものよ!」


「止めろ!ソレは人を不幸にしかしない!


 必ずや悲劇が起こる!手を出してはならないものだ!」


「フフン。だから貴女は成果を出せないのですよ」


 アーチュウは『精神支配の術式』を手にすると、消え去った。転移の魔法でも使ったのだろう。


 ──何処へ向かった?


 リルーの問いの答えは、直ぐに出た。


「アルバスだ!警備兵、アルバスの奪取を防げ!」


 一方でガブリエルは、アラートに気付いたものの、アルバスの前を離れるべきか、迷ってアルバスの前に居た。


「クルルゥ」


「……ん?お腹でも空いたのかい?人参でも持ってこようか?」


「クルルゥ!」


 アルバスはより一層喜ばしげに鳴いた。


「待っててね。人参を持ってくるよ!」


「クルルゥ!」


 ガブリエルが去った後、アーチュウがその場に現れた。


「ハハハッ。貴様は今日から、儂のものだ!」


 すぐさまに、『精神支配の術式』が展開された。


「グルルゥ……グララァ……ガアアァ!」


 アルバスが、禍々(まがまが)しい気を放つ。


「良し良し、その調子だ……。貴様は我が命に従い──」


「グララアアァァァァ!」


 アルバスはアーチュウの命に逆らうべく、暴れ狂った。

 ソレは、ケージを破壊し、アーチュウの命を奪う程のものであった。


「ガアアアァァァァ!」


 暴れ狂ったアルバスは、研究所を飛び出し、外へと去った。


「アルバス!どうした!?」


 異変に気づいてガブリエルが戻った時には、時既に遅し。そこには、アーチュウの死体が転がっているだけであった。


「叔父上!一体何を……!」


「ガブリエル!」


 そこに、リルーも駆けつけた。そして、転がるアーチュウの死体と、滅茶苦茶に壊されているケージを見て、全てを悟った。


「やはり、目的はアルバスか!」


 だが、アルバスは既にその場には居ない。


 ルナも駆けつけるが、何の役にも立てそうに無かった。


「師匠、アルバスの行き先は……」


「アルバスの魔力の波長は記録してあるな?


 持って来い。行き先を限定する!」


 行き先を限定しても、『精神支配の術式』の影響下にある事からの解決にはならないのだが、兎も角、何処に向かったのかを限定しなければ、追う事も出来ない。


 そして、リルーは判っている限りのアーチュウの暴挙を明らかにした。


「莫迦な……自分の命を犠牲にしてまで、そこまでする理由が何処にあるのか!?」


「あの術式は、完成寸前で開発を取り止めた。余りの危険性に気付いて、な。


 だが、アーチュウにとっては、必要なものと判断したのだろう。


 実際、アルバスはアーチュウによるコントロールに逆らった」


 大きな地図を広げ、リルーは水晶玉のようなものを持って、アルバスの魔力の波長を水晶玉に流し込み、地図の上を彷徨わせた。

 すると、やがてある一点で、水晶玉は強く輝いた。


「『星降る谷』か……。かつての天星国の聖地だが……厄介だな」


「モンスターの巣窟になっている、のでしたっけ?」


「ああ。何とも、不穏な場所に辿り着いてくれたものだよ。


 どうする?」


 ガブリエルはリルーに問われた。どうするもこうするも……。


「勿論、助けます!」


 当然、そう答えるであろうことが、リルーにとって厄介だった。


「護衛の冒険者を雇え。それも、凄腕の、な。


 当然、かなりの費用が掛かる。


 ……それでも助けたいか?」


「『星降る谷』に居る事が、アルバスの本意で無いのならば!」


「判った。費用については研究所が一定額を負担する。


 ……必ず、生きて帰ってこいよ」


「──はい!」


 当然の事だ。生きて帰らねば、アルバスを連れて帰る理由が無くなる。


 そして、御せぬキマイラなぞ、生かす価値も無い。


 それが果たして、ガブリエルには理解出来ているかどうか……。


 リルーは一つだけ、ガブリエルに教えを説いた。即ち──


「『錬金術と云うのは、支配の術式では無い。理解の術式だ』この言葉を、良く覚えておけ」


「はい!」


 アーチュウと違い、ガブリエルは素直で善良な、リルーにとって良い弟子なのだった。


 果たして本人がそれを理解しているかどうかは、甚だ謎だった。


 ガブリエルはリルーの教えを頭の中で反芻し、繰り返し自分自身に教え込んだ。


 恐らくは、アルバスの奪還に対して、それは重要な情報なのだ。


 彼を知り、己を知れば百戦危うからず。


 故に、ガブリエルは自分の理解から始めた。


 そして、七割程を理解したつもりになったところで、アルバスを知ることを試みた。


 ──従順な、良い子の筈だ。少なくとも、その本質は。


 問題は、『精神支配の術式』によって、アルバスがどう変貌を遂げているかと云う点にあった。


 そればかりは、実際に会って知るしか、方法は無かった。


 そして、──ハッとアルバスの名で気付いたことがあった。


 アルバスも又、支配の名前の持ち主である事に。


 アーチュウに因る術式で、アルバスは覚醒に至ってしまったのかも知れなかった。


 つまりは、現状がアルバスの本性だとするならば、連れ帰るのは最早不可能なのかも知れなかった。


 それでも、ガブリエルはアルバスのことを信じていた。本性は、優しくて良い子なのだと。


 時として、現実は残酷だ。だが、ガブリエルがアルバスを信じなければ、他の誰もアルバスを信じることが出来なくなる。

 その事態は避けたかった。


 避けたところで、何が変わるかは判らない。でも、アルバスが信用されていなければ、飼うことは出来なくなる。


 危険過ぎるペットは、時として牙を()く。


 そうなれば、誰もアルバスを庇い立てる事が出来なくなる。


 故に、『精神支配の術式』の解除は、必須条件だ。


 ガブリエルは、リルーから『精神支配の術式』についての詳細を訊ねるが、リルーとしてもその情報は断片的にしか教える訳にはいかない術式なのだった。

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