表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八国史〜『新約魔書』世界一のワーストセラー〜  作者: 月詠 昼光
~水の章~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/97

第8話:ラヂオ

 遂に、サマリは時間的余裕を得る事に成功した。


 それは、『風神』の納入を終えた後の事だった。


 季節は4月、秋の寒さを迎えた頃の話だった。


 ラヂオの発明の好機だ。

 早速、サマリはラヂオの基礎設計に取り掛かった。とは言え、殆どが『龍血魔法文字命令』に因るプログラミングにも近い行為がメインとなるのだから、難易度は、魔空船程では無い。


 電波塔の設置、放送局の設置、放送者の雇い入れ等の作業も必要とされたが、何はともあれ、ラヂオの設計と製造だ。


 ラヂオの製造数が集まれば、自然と技術者たちはその利便性に気付き、電波塔の設計から製造・設置まで、放送局の確保も行なわれよう。


 兎に角、最初の一台の製造が、この事業の肝だ。


 肝心要の、絶対条件だ。この際、音質の良し悪しは特に問わなくても、キチンと聞き取れれば充分だろう。


 魔空船シリーズに仕込んだ、オートパイロット機能の応用。後は、スピーカーの製造程度を行なえれば、充分に機能するだろう。


 この際、録音機能は未だ仕込まない。それは、ラヂオが充分に普及してから設定を行えば良い機能だ。


 初期機には、外付けで録音機能を備える為に設計を行なっておけば、録音装置もその内に売れるだろう。


 最初は、本当に小規模に。放送局を備えて、王都内で聴き取れれば充分。その後に、その電波を拾って大規模に拡散する電波塔を設計すれば良い。


 アイディアはあったとは言え、最初の一台を作るのには、かなり苦労をした。だが、その甲斐あって、スピーカーに補助機能が少し付いた程度の設計で、ラヂオは完成した。


 後は、電波を飛ばすだけである。


 この際に、誤算が判明した。

 国の諜報機関が、既に電波を使った通信のノウハウを持っており、国家機密を簡単に訊き出せてしまったのだ。


 これは、大きな誤算だ。


 サマリは、水帝王に進言した。事実をありのままに。


「……そうか。御苦労であった」


 サマリを責める言葉は、この際、返って来ない。

 それが逆に不気味だった。


「国の諜報機関については、データを暗号化してやり取りさせることで、何とか対処しよう。

 それよりも、コレは単独では機能しないであろう?」


「はい。放送局と、後に巨大な電波塔が必要となりまする」


「成る程、それによって、国の諜報機関の情報も大規模に拡散する、と」


 サマリは、自分の失着に気付いた。逆鱗に触れた、程では無いが、虎の尻尾を踏んでしまったのかも知れない。


 対処の術は、諜報機関に因る大規模な暗号の複雑化を要する。


 果たして、水帝王はそこまでして、大規模な電波塔の設置や、ラヂオの普及に手を貸してくれるだろうか?


「して、このラヂオの普及には、どんな価値がある?」


「主に、情報の提供と娯楽の提供でしょうか」


「フム……で、あれば、他州を巻き込む規模の計画が必要になろうな」


「ハッ」


 今、何と言われた?他州を巻き込む規模?そんなもの、他州の諜報機関の情報の抜き取りを意味するに違いない。


 そして、高度に暗号化された自国の情報も、やがては筒抜けになる。


 だが、ラヂオの商品化は、国を文化的に富ませる。その手柄を、他人に譲りたくは無かった。


「予算を提供してやろう。それにて、放送局の設備設計を急げよ」


「ハッ、ハハァッ」


 先ずは、土地を確保する必要がある。それ自体は、大した問題では無い。

 問題は、放送を担う人手、その人件費にある。


 だが、こう云う真新しいものには、飛びつく人も居る事は事実である。

 早速、サマリは人員募集の貼り紙をしたが、季節はこれから更に寒くなる冬へと向けて、人の心を凍らせてゆく。


 サマリは、放送開始に向けて、スポンサーの募集も同時に貼り紙した。一社15秒。その時間の、音声のみによる広告時間の確保である。


 人員募集は、何とか確保出来そうな見込みが立っていた。スポンサーは……まぁいい。当面は富裕層へのラヂオの売却益にて賄えば良いだけである。


 最悪、国営放送でも良いのだ。国にとって都合の良い情報のみを提供する手段とすれば、何らかの効果は見込める。


 ただ音楽だけを流す番組を作っても良い。と云うか、ある程度の規模が見込めたら、他の放送局が他の周波数で民営で現れる事も折り込み済みである。


 仕込みは流々(りゅうりゅう)、結果を御覧(ごろう)じろ、と云ったところだ。


 と云うか、音楽プレイヤーも無い世界に、いきなりラヂオを投じて、聴者の希望に応じて音楽を放送する番組でも作れば、それだけでラヂオが売れる事は、恐らく間違いない。


 そして、希望する音楽の募集の広告を、極稀に挟めば、希望者は投書して来るに違いない。


 ココまでは、サマリの計画から、大きく外れていない。


 さあ、ここからが勝負だ。


 技術の粋を尽くして、ハイデザインのラヂオ機を量産する。


 そして、売り出したその日から、放送を開始する。


 店先で、音楽を鳴らすラヂオを試聴展示販売をするのだ。

 この際、放送は深夜に至るまで流す。


 聴きたくない時には、電源を切れば良いだけの話だ。


 販売員は雇った人の中から捻り出せば良い。


 この際、ラヂオの操作には、細かい説明をする必要がある。その為、社員教育と云うものが必要となった。


 販売員には向いている者、意欲のある者に任せれば良い。


 そして、販売実績に従ってボーナスを支払うのだ。


 コレが、八ヵ州世界に於ける、最初のボーナス制度となった。


 販売員はその眼に情熱の炎を宿して販売に臨むようになった。


 聴者率については、データ採取システムを導入している。放送者は、聴者率に基づいたボーナスが支払われた。


 だが、放送者は情報を発信出来る、その特権に酔い()れていた。


 聴者からの要望にも、確かに要望に沿った曲を流していたが、それが必ずしも聴者の要望の全てに従う訳では無い。


 放送者が、聴者の要望の中から、適切なものを選んで、その曲を流すのみである。


 最初はサマリも、不公平な特権だなと考えていたが、その選曲の案件には、裏側に潜んだ何かの意図があった。


 そもそも、ミュージシャンと呼ばれる職業の者が、未だ随分と少ないのだ。舞台で演奏するオーケストラ位のものだ。


 その曲を録音して流す。最初は、そのようなやり方で曲を流していた。


 だが、次第に時代は変わるだろう。独自の音楽を提供するミュージシャンの発現と云う現象を伴って。


 やがて、八ヵ州全土に広がるだろう。サマリはその有様を想像するだけで、身震いするほど、酔い痴れていた。


 未だ、ラヂオの普及が始まったばかりである。


 そんな中、サマリは決まっていた事柄のように、テレヴィジョンの発案と云う申告を国に通した。


 ラヂオの果たした成果に応じて、サマリには予算が割り振られた。


 これからである。これから、芸能界と云うものを築いていくのである。


 サマリは、その特権を一手に担っていた。


 その事実を以て、サマリには名誉王族の特権が認められた。


 『不老の加護』。確かに、その位は無いと成し遂げられない偉業かも知れない。


 そしてサマリには、表彰と勲章が贈られるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ