第4話:不具合
「『スカイ・スキッパー』に不具合!?」
サマリはその一報を訊いて動揺した。慌てて椅子から中腰で立ち上がり、気を落ち着かせて椅子に深く座ってから、「発生した不具合を確認しよう」と詳細に訊き出すに至る。
「壊れ物の荷物が破損したとかで、補償の願い出が出されています」
サマリの部下の一人は、その一報を簡素に纏めて伝えた。
「そりゃ、壊れ物を固定せず、急加速や急ブレーキを掛ければ、壊れるだろうよ!」
「はい。そのように応対し、それでも補償を求めて来るのならば、詐欺の疑いで風神州に決裁を求めると通達し、向こうも怒り心頭。
ただ今、機体の性能に因る不具合でない事を、確認を取っている次第です」
「はぁー……っ。そもそも、商品を破損したく無いなら、加速・減速には気を付ける筈だろうがよ」
「故意の可能性も念頭に入れ、慎重に捜査しています」
「故意──ワザと、って事か。
全く、『スカイ・スキッパー』は『国王の大広間』じゃねー、っての!」
むしろ駄々っ子だ、とサマリは『スカイ・スキッパー』を評価していた。駄々っ子と云うか、跳ね馬だ。
速度は出る。但し、レース用では無いので、リミッターはかなり厳しい。壊れ物を壊した、と云う事は、その限界近くまで無理をした可能性が高かった。
「ただ……壊れた物の価値が高いとかで、文句を言ってきています」
「──具体的に、何が壊れた?」
「壺、だとかで」
「『壺』!ハッ!」
軽くサマリの笑いのツボにハマったようで、サマリは軽く笑った。
「『良い壺』だったから、それに相当する対価を、ってか?
判った。その『壺』に関しても、厳しく調べるように。
俺からの指示は、以上だ」
「ハッ!」
恐らく、問題にすらなるまい。恐らく、古くて安い壺を、『歴史的価値がある!』とか言い出してイチャモンを付けて来る筈だ。そしたら、仕入れ原価を割り出してみれば良い。
そもそもが、『スカイ・スキッパー』を貶める為に、悪意を以て為された行為なのだろう。
ならば、返品を受け入れる迄の事だ。メンテナンスを少ししてから、他の買い主に売れば良い。新車に近い値段でだ。しかも、曰く付きと云う話をすれば、用心深く運用して、納得してくれる筈だ。『スカイ・スキッパー』には、それだけの価値があると、サマリは自信を持って言うことが出来た。
事故すら起こした訳では無いのだ。それに対しても、一部オートパイロットによって、近隣の『スカイ・スキッパー』の運用状況を調べ、事故を回避するべく運転される性能まで添えてあった筈だ。
もしも、件の──恐らく商人が、それ以上の文句を言って来たら、『スカイ・スキッパー』のお買い求めを断るだけの話だ。
補償なぞ、しなくても良い筈だ。
それに関しては、設計理念を訊いた時から、考えてあった、「起きうる問題」の一つだった。
だから、予定通りに対処すれば、それで済む筈だった。
ココで風神州による決裁を願った場合、訴訟に敗北した側は、訴訟に掛かった費用の全額を支払う義務が生じる。
相手にとっても、その損害は避けたい筈だ。
しかも、『スカイ・スキッパー』を回収の上、再度の販売は二度と行わない、なぞと言われては、決定的な商機を逃す。
『スカイ・スキッパー』を買えた時点で、商人として勝ち組の筈なのだ。ソレを取り上げられるとあっては、訴えを退けざるを得まい。
だが、その商人は、『スカイ・スキッパー』の返品を受け入れ、再度の販売も二度と行わないと約束した。
その上で、風神州の裁きを願った。
こうなれば、後には引けない。7月の寒い日の出来事だが、1月の暑い時期までには片付くであろう。
むしろ、風神州へ行って、寒くない時期の間に片付けてしまった方が、快適かも知れない。
正直、商人はナメていたのだ。風神州の裁きを。
ソレは、むしろ国を護る為に働く性質のものだった。
だから、水帝州に不利益を与えるような行為なぞ、許される訳が無い。
ただ、風神州の裁きと云うものをよく知らないから、自分の正当性を主張し、損害賠償で儲けようと思っていたのだ。
私利私欲に対して、風神州の裁きは厳しい。ソレを、商人は知らない。
飽く迄も、八ヵ州を護る為の裁きなのだ。
だから機会が少ないし、州側が負ける可能性もかなり低い。
イチャモンを付けて国から金を引き出そうと云う狙いであれば、間違いなく敗訴する。そして、訴訟に掛かった全費用を負担する。
恐らくは借金になるだろう。それでなくても、商人として成功するには手遅れだ。
この訴訟について、詳しくは記さない。だが、水帝州が勝訴し、商人が辛うじて借金を背負わずに済んだが、商人として終わった事だけを記しておこう。
水帝州としては、ソレですら未だ不満だった程だ。特にどの点が、とは記さない。
兎も角、水帝州は次の『E‐1/2』に於いて、自国の三機と、風神州への三機の提供を以て、手柄とし、性能に対するフィードバックを求めるのだった。
風神州への提供は、勿論、裁きに対する謝礼と云う名目でだ。試験運転をして貰うのにも、丁度良い相手だった。
本当のことを言えば、本来なら、風神州に勝利の秘訣を訊き出して、各国が耐Gトレーニングや沈み込み走行をしていれば、勝てない相手とまで言うほどの大きな差にはならなかった筈なのだ。
そこらへんは、マス・メディアの発展が遅れていると云う事情もある。
何しろ、ラジオ放送すら行われていないのだ。技術的に、可能であると云う反面。
映画館は、辛うじてある。舞台演劇の方がメジャーだが。
何しろ、『龍血魔法文字命令』で撮影装置を作らなければならないのだ。ソレは、量産出来なくとも仕方があるまい。
一説には、光朝国が最初に発明し、広めたと云う話だ。そう、本来なら、『~光の章~』で触れていなければならない内容だった。
勿論、音声も録音して再生している。連動して。その技術の出処は、風神国だったと云う話だ。
ただ、楽器が高いが故に、『ミュージシャン』と云う存在が随分と少ない。王家に連なる者、とか位の資産力を必要とするからだ。
当然、国が雇う『ミュージシャン』と云う存在もあったが、技術的に高いのは、やはり不老長寿である王家に連なる者の方だ。
王家に連なる者が、国から雇われて『ミュージシャン』になるケースは少ない。他国なら兎も角、自国の王家に連なる者となると、やはり先祖になってしまうからだ。
楽器の設計者と製造者は、サマリ達とは別に独立して存在している。
お互いにデリケートな技術であると云う共通点はあるものの、やはり、デリケートの方向性が違っている。
サマリ達の技術には、人命が掛かっている。楽器の方はそんな事は無いが、高い音質を出すには、やはり、デリケート過ぎるぐらいにデリケートだった。
因みに、楽器の設計者と製造者は、風神国に多い傾向が見られる。
よって、これ以上詳しくは記さない。
ただ、サマリ達の技術が国を富ませる為に存在する技術だとしたら、楽器は国が富んでいる証拠として、楽団と共に存在しているのであった。




