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八国史〜『新約魔書』世界一のワーストセラー〜  作者: 月詠 夜光
~水の章~

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第3話:『空帝』

 『スカイ・スキッパー』の粗い試験運転による欠点の洗い出しが済んだ。


 今度は、細かな欠点の洗い出しだが、それは専門の者に任せるしかない。


 今回の場合、サマリが担当しているフライトカーレーサーのマクシム・ウォーターだった。


 水帝州王家に多い特徴の、『水髪』と言われる水色の髪と、『碧眼』と呼ばれる蒼い虹彩の目をしている。因みに、サマリもそうだ。


 サマリの場合、切る時間も惜しいと云う理由から、腰まで伸ばして後ろで一つに纏め、垂らしているが、マクシムは「レースの時に邪魔!」と云う理由で刈り上げている。


 髪なぞレースに勝てるなら幾らでも切ってやる!と思っているマクシムは、髪を切る時の選択肢は一択、『五厘刈り』だった。


 逆に伸ばせば勝てるのかと思えば……と云う仮定は、明確に邪魔になるから、伸ばす選択肢は無い。


 そんなマクシムにとって、『スカイ・スキッパー』は早く片付いて欲しい課題だった。それだけ、『空帝』の基礎設計理論には期待していた。


 風神国──現風神州が表彰台を独占している理由は、一つは『風の加護』によるものも大きかったが、何よりも『キロコア』の採用にこそミソはある。


 但し、前提条件として、先ず耐G訓練に耐Gスーツを着用して人間の限界近くまで、と云うトレーニングを行なっていることを、水帝州の者は知らない。


 だが、その内、気付くだろう。耐Gトレーニングを積まなければ、極限の速さを発揮できない事を。


 ただでさえ、風神州に対抗しようとして、加速し過ぎて意識を失い、オートパイロットでスタート地点に戻る者も中には居るのだ。


 そして、スターの編み出した、『沈み込み走法』。ソレは、落下速度を計器に誤魔化して水平方向へも加速させることで成り立っているが、『空帝』が完成したら、その走法は通用しない。


 尤も、『沈み込み走法』と云う戦法を封じられるとあっては、スターを始めとする風神州のレーサーは、『空帝』を嫌うかも知れない。


 だがそこは、上限速度のリミッターを『時速1100キロ』に変更する事で、差異を付けて売り込めば、恐らく問題は無い筈だ。


 それは、フライトカーレース『E‐1/2』のルール改正をも伴うかも知れないが、そもそも、落下中の速度の限界は、元は設定が難しかったのだ。


 それを、『空帝』になったらリミッターを利かせるのである。


 リミッターを外す事へもルールを厳しくすれば、あとは機体の性能差は無い。実力の秀でる者が勝つのも当然、となる予定であった。


 現実問題として、風神州のレーサーが耐G能力に於いて人間の限界近くに挑んでいると云う事実が横たわっているが、それもまた、実力だ。『空帝』の採用に際し、責められる謂れは無い。


 『空帝』の設計そのものは、既に済んでいる。あとは、製作するのみなのだが……。


「来年のレースに、『空帝』を実装するのは無理のある話では無いか?」


 製造担当者は、首を傾げてそう言い放つ。


「再来年ならどうですかね?」


 口元を右手で覆ってから、サマリはそう訊ねた。すると製造担当者は。


「再来年なら、八州各一機の手配は難しくない」


「……八州各三機は?」


「もう一年欲しいな」


 即座にそう答えた。一月一機のペースで製造すれば、その位の数字になる。道理だ。


 現実問題として、『空帝』が風神国を(おび)かしてくれないと、設計理念からコケる事になる。それだけは避けたかった。


「ただ、来年のレースで言えば、水帝州の三機は何とかなる!」


 と云うか、その位を目指さなければ、『空帝』を設計した理由が頓挫するのだ。製造責任者も、その位は判っている。


 そして、『E-1/2』のルール改正で言えば、今からでもギリ間に合う時期である。


 『E-1/2』は、風神州において春の半ば頃、水帝州において秋の半ば頃に行われる。時季の差は、北半球と南半球に於ける違いである。又、時刻にも12時間程の時差がある。


「なら、その三機を試験採用機として、製造してくれないか?」


 『空帝』の鮮烈なデビューを思い描いて、サマリは言った。


「なら、ルール改正の点については、ソチラにお任せしても良いのかい?」


「うん。それに向けて動こう。


 ──ただ……」


 サマリには、一つ疑念があった。


「……何だよ。訊かせろよ」


 サマリは両手を開け放って、こう言う。


「ただ、風神州もルール改正の報せが届いたら、現行機に積んだリミッターを変更するだろうな、って、それだけだよ」


 『それだけ』と言うにしては、問題が大き過ぎたが、確かにそれだけの悩ましさなのであった。


「……強度的にも問題無いし、もし事故っても、リミッターを勝手に変更したせいだと云う事で済ませる事は出来るが、風神州を敵に回すのは賢い選択とは言えないな」


「大丈夫だろう!そもそも、この『八ヵ州世界』に於いて、風と水は敵対属性なんだから」


 敵対属性である理由は、『目に見える動き』と『目に見えない動き』を司っていると云う側面があるが、この際、問題では無いだろう。


「ただ……風神州が『目に見えない動き』を司っている事から、此方(コチラ)の『目に見える動き』に対して、『目に見えない反応』を返して来る可能性はあるが……。


 そんなものを今更気にしたって、司る属性に従うものなんだ。仕方が無かろう?」


 サマリは口許を左手で覆って、少し考え込んでから。


「まぁ、ルール改正に関しては、決定次第、各国に報せられるだろうから、ソレを把握していなくても、ソレは彼方(アチラ)の問題だ」


 そう言って、今回の件に関しては、動いてから反応を見て対処しようと考えたのであった。


 音速は、時速1225キロ。恐らくは、時速1200キロまでは、速度の上限を上げても、恐らく問題ないのだろう。


 そう思いながら、サマリは『E-1/』のルール改正の報せに向かって、一度引き返した。


「速度の上限、時速1200キロでも構わないか?」


 そう、製造責任者に確認する為に。


 音速を超えなければ、問題ない筈だ。その回答を得て、速度の上限を時速1200キロでヨロシク!と言い放って、サマリはルール改正の手続きに向かったのだった。

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