第1話:スカイ・スキッパー
『魔空船』の開発が始まったのは、八ヵ国統一国家が樹立される前の、約250年前の事だった。
当初、事業は天星国 (現天星州)の支援を受けて始まった。
だが、ノウハウが開発されるにつれ、水帝国 (現水帝州)単独でも製作できるようになった。
そして、個人用魔空船として、フライトカーが製作され、フライトカーレースである『E-1/2』も開催されるに至った。
時は、八ヵ国統一国家が樹立した後の水帝州。
王族傍系の貴族でありながら、魔空船技師であるサマリョートゥ・ウォーターことサマリは、|家庭用大型フライトカー《小型魔空船》の開発に着手していた。
需要があると云う、絶対の自信。それがサマリを突き動かした。
そこで、サマリが取った手が、『魔空船』の初期開発者たる、イワン・ウォーターへの弟子入りであった。
元々、サマリはフライトカーにも関わる、魔空船技師の一人であった。
だが、『魔空船』と『フライトカー』の中間に位置する機体は、コア・エンジンの搭載場所の関係で難しかった。
サマリはイワンに、その位置関係について、相談をした。
だが、イワンがサマリにした教えは、何ともアナログなもので、「機械をイジるな、風を読め」と云う教えであった。
当初、サマリはイワンの言わんとしていることを理解せずに居た。だが、フライトカーに試乗し、風の吹く先へと向かったところ、風神州へと辿り着いた。
サマリは風神州で、フライトカーレース『E-1/2』の数々の優勝を誇る伝説にして100歳を過ぎて尚、優勝候補最筆頭であるミヲエルに面会を申し出た。
季節は初冬、6月の始め頃の未の刻の話であった。
ミヲエルは、風神国の元王であるにも関わらず、フライトカーにも傾倒する魔空船技師のサマリの面会を、快く引き受けた。
そして、サマリは8人乗りを目指している、中型魔空船の製作に、何かのヒントを得ようとしていた。
するとミヲエルは仮の設計図の一部を指差してこう返した。
「エンジンルームを機体の中央部に位置させることで、7人乗りにはなるけれど、大分安定した疾走りを実現出来るんじゃないかなぁ?」
成る程、8人乗りであることを諦める事によって、発生する発想の転換である。
軽く演算する事で、強度的にも耐え得る事が判明した。
「ありがとうございます!これで、家庭用大型フライトカーの開発の目途が立ちそうです!」
ミヲエルはうーんと唸ると蟀谷を指先で叩きながら、こう言った。
「その、『家庭用大型フライトカー』って呼び名はどうかなぁ?
もっと、こう……他の案は無いの?例えば──『スカイ・スキッパー』とかって云うのはどう?」
指差して言ったミヲエルに、サマリは目を輝かせてこう返す。
「──採用させて頂きます!『スカイ・スキッパー』。良いですねぇ!」
──いや、そこは議論に持ち込もうよ。とミヲエルは思いながらも、敢えてそれは言葉にしなかった。
斯くして、『スカイ・スキッパー開発・製造プロジェクト』は始動した。
設計に一週間、製造に一ヵ月と考えても、7月末にはテストタイプが出来上がる筈だ。
その目処が立って、サマリは一先ずホッとした。
ミヲエルの案を水帝州に持ち帰って、イワンと相談する。そうして出来上がった設計図を、煮詰める。
そうして草案が仕上がる頃に、一つの朗報が齎された。
即ち──コアの小型化による、『マイクロ・エーテル・コア』の開発成功の報せだった。
従来のサイズの約1/5のサイズ。それは、コア・システムの搭載体積を1/5のサイズにまで縮小出来る事をも意味した。但し、理論値である。
実際には、強度を足したりなんだりで、1/3程度が精々だ。
製造は寒気の真っ最中に行われるが、元よりソレが仕事である。製造ラインの確保も問題無かった。
問題になるのは、最初期の売り出し先である。
各州の王家には当然として、風神州、天星州、光朝州の大商人にも売れるだろう。
逆にコレを利用して、伸し上がろうとする画策する商人も出ても可笑しくはない。
特に、最近、金鉱を掘り当てたと云う地底国辺りは、もっと豊かになる筈だ。
魔空船と云う大規模輸送路の他に、『スカイ・スキッパー』と云う中規模輸送路が確立されるのだ。各国民にとって、朗報である事は間違い無かろう。
『スカイ・スキッパー』の製造中の期間に、サマリにはキロコアを搭載した、オートドライブも可能な超高速のレース用フライトカー、『空帝』の製造の依頼も舞い込んできた。
俄に忙しくなって来た。そして、サマリは最近のフライトカーレースで問題になっている、『沈み込み走行』に因るタイムの短縮に、リミッターを設けるべく、『空帝』のオートパイロットや走行補助演算システムの改良も進めようとしていた。
具体的には、水平方向の推進に関するコアのリミッターの、時速1000キロと云う制限の設定等にあった。
ソレの設計が終わった時、サマリはイワンに設計図を見せて、意見を求めた。
「うん、良いんじゃないかな」
それは7月の頭頃の話。遂に、全州的に『空帝』への搭乗に因る、風神州と対等に近い条件でのフライトカーレースの開催へ向けて、事態は動いていくのであった。




