第7話:レインボーベリー
黄金芋が、飽きられ始めている……!
そのニュースは、一週間足らずで光朝国全土に響き渡った。
芋としては、最上級の味と食感。だが、所詮は芋。むしろ、今までよくぞ高価格を維持してくれたと云うものだ。
だが、光朝国は決して黄金芋を安売りしなかった。
安売りする位ならば、自国で消費する。そう云う名目で市場に流れ、結果、少し下がった値で風神国や天星国に売れてゆく。
ただ、これだけの外貨獲得の機会があれば、光朝国は『豊かな国』の一員として見做される程には、潤っていた。
全ては、『光朝国の芋娘』こと、ミアイ・ウィンド(元ライト)の評判故のことだったが、当然、生産した農家、特に新種を作り上げたカルには、表彰が行なわれることになった。
勲一等として、光朝大綬章と云う勲章も得た。コレは、国からの年金すら支払われる、光朝国の最高級の勲章だった。
それ程までに、カルの作った産物は光朝国に利益を齎したのだ。事、ここに至って、カルの手柄の全てを看破する程度には、光朝国の諜報機関は優秀だった。むしろ、突き止めるのが遅いと叱咤された程だ。諜報機関が奮起しない訳が無い。まして、国内の出来事なのだ。叱咤されるのも当然と言えた。
カルが表彰される事で、『黄金種』や『白金種』の栽培方法が明らかにされた。カルは、全責任を放り出すべく、全ての情報を吐き出した。
すぐさまに、『白金大根』が出来る事で、それの正しさは証明された。何なら、『黄金パプリカ』も生産されている。
カルはまるで、『金の卵を産む鶏』であった。だが、情報の全てを放出する事で、解剖される事態は避けられた。或いは尋問される事態も。
だが、カルは未だ秘めたネタがあった。『虹色種』の生産の可能性である。
幸い、『黄金南瓜』は量産が然程必要でも無く、然して高値が付く訳でも無いので、南瓜畑が試験用の畑に回す余地があった。
『虹色種』。夢のような品種である。だが、カルには可能性の鱗片が見えていた。だが、具体的に作る品種が思い付かない。
そこで試されたのが、ブルーベリーであった。
青一色は、元々備わっている。同一の苗に、残り六色のベリーが出来れば完成だ。
品種改良は、至難の業であった。まず、二色目を出すところが難しい。逆に言えば、二色目を出せれば、そのノウハウを利用して他の色も作れる、筈だった。
カルは、先ず『黄金種』と同じ過程を踏んで、『黄金ブルーベリー』、即ち『ゴールデンベリー』の作成に成功した。
だが、先ず一色、違う色のブルーベリーを作っただけで、青い普通のブルーベリーとの共存も出来ていない。
そこで、『黄金種』と同じ過程を踏みながら、『白金種』と同じ過程も、出来るだけ両方を共存させる形で育成を試みた。
結果、出来たのが『ブルーベリー』と『ゴールデンベリー』と『プラチナベリー』の共存だった。──奇跡が起きたのだ。二色目を生み出すより早く、三色目が出来てしまった。
だが、育成記録を付ける事で、三度の再現性も実証出来た。後は、他の色を加えるだけである。
そこで、カルはその『三色ベリー』に苺を掛け合わせる荒業を繰り出した。
結果、出来上がったのが、苺の赤、苺の赤に金色を混ぜた橙に近い色、同じくプラチナカラーを混ぜた、ピンクに近い色の三色を加えた、『六色ベリー』の誕生だった。
ココから、七色目を創り出すのは、生半可な苦労では済まない。カルはそう思っていたが、『六色ベリー』の三度の再現性の確認の際に、ブルーベリーの青と苺の赤を混ぜた、『紫』のベリーの追加による、『虹色ベリー』の完成に、残念ながら偶発的に出来てしまった。
偶発的要素を突き止めようとしながらも、『虹色ベリー』の三度の再現性には成功し、その七色の実の成った苗を、カルは光朝王に献上した。
「天晴れである」
お褒めの言葉を掛けられるも、コレは、どうしても『観賞用』としての側面が否めなかった。
故に、主に観賞用として、七色の実の成った苗を、光朝国は風神国と天星国に一度のみ提供した。すると、やはり高値を付けられて買い取りの希望が出される。
だが。一つ一つの実の成熟度合と云う観点から見ると、七色が揃うのは、殆ど奇跡のような出来事だった。
元南瓜畑に百の苗を植えて、七色が揃ったのは、僅かに七株。
求められている数を確保できない事から、光朝国は主に風神国と天星国を相手に、オークションでその苗を売り出した。
最高価格、金貨100枚。平均価格、金貨70枚。『奇跡』に対して支払われる代金として、その価格は立派と言えた。
だが、カルは『虹色品種』の生産の困難さから、次なる『虹色品種』の生産への試みを諦めた。そして、全情報を光朝王に献上した。
因みに、六色ベリーとなると、グッと値が下がる。試しに八点をオークションに掛けるが、最高価格、金貨7枚。平均価格、金貨一枚と云う始末だった。
だが、六色ベリーは非常に好まれたのだ。主に、子供へのおやつとして。
オークションも、国が栽培して出来上がったものを掛けても、せいぜいが金貨10枚が良いトコロであった。やはり、初回の印象は強過ぎたらしかった。
後に、『奇跡の農家』として名を馳せるカルの、最高傑作だった。
だが、コレを機にカルは農家から引退してしまった。後世は、儲けた金と年金を頼りに、細々と生きたとされる。
本当のところは、殆ど誰も知らないが、研究を引き継ぐ後輩の育成に力を注いだのだった。
だが、『虹色種』の完成まで頑張れた後輩は、遂に現れない。
ただ、後世にこう伝わる。彼の偉業に年金を与えたのは当然の手柄だが、それによって引退させたことは、『光朝国』にとって、大きな悪手であった、と。
ただ、『レインボーベリー』だけは、彼の一派が後世に至るまで続けたとされるが、年に3苗出来れば良い方だった。
だがしかし、ソレの味が色によってそれぞれ違う事は、実際に与えられて食べた子供しか知らなかった。
そう、カルは『レインボーベリー』に関して言えば、味の違いを出すまでの苦労を重ねたのだった。
後の光朝王は、子供の時に食べた『レインボーベリー』の味を、こう喩えた。
「七色全部を一度に食べれば、天国の味がする」と。
毎年1苗、王家に献上された『レインボーベリー』は、「絶やしてはならぬ」と、カルに王家の『不老の加護』を与えて遇し、後輩が自力で『レインボーベリー』の育成に成功するなど、カルに与えた『勲一等』の上の勲章を作り与えるべきだと言われたが、年金を与えれば与える程、カルは楽を覚えると、遂に二度目の勲章は与えられなかった。
又、カルは後に旅行を趣味とし、旅先で『名産物』の作り方を伝授するなど、逸話の絶えない人物であった。
こうして、世界各地に名産品が増えて行ったのであった。
そして、光朝国の経済力は、既に『貧しい国』と呼べる程ではなく、国民全員が豊かな訳ではないけれども、充分に『豊かな国』として、三ヵ国目として数えられるのであった。




