第8話:必要なもの
うーん……少し短いのですが、下手に引き延ばすより良いかと判断し、掲載致します。
何だ、結局頑張れば掲載出来るじゃないか。
迷宮では、やはりハプニングがあった。──ヴァイスが脇腹を魔犬に噛まれ、仮死状態になった。
シュヴァルツ曰く、百年〜千年の刻を掛けて回復し、復活するのだと云う。
ヴァイスはシュヴァルツが背負って迷宮を出て、次の方針が問題となった。
「回復させるとしたら、『龍血魔法文字命令』を用いた、『龍の血』をポーション化した薬が必要だ」
ヴィジーは寡聞にして聞き齧りの情報だが、と断りを入れてからそう言った。
一行にしてみれば、それに頼るしか無い。
「だが、その為には『鳳凰』の羽を用いた羽ペンが必要になる」
「鳳凰……『火王国』の聖獣じゃないか!
大陸の反対側じゃないですか!」
「故に、『光朝国』及び『闇夜国』を突っ切るのが最短ルートになる」
そして、光朝国でミアイと合流すれば、と云うのがヴィジーの目論見だった。最初から、氷皇国での合流は悪手だとミアイに宛てた手紙に記してある。
「幸い、儂は『天龍』に頼んで血を分けて貰うと云う手が取れる」
天龍は天星国の聖獣だ。アイヲエルもそれは知っている。竜人なら兎も角、ちゃんとした龍は、感覚が鈍いので、多少傷付けられても気にしない。
「ポーション瓶に、『龍血魔法文字命令』を龍の血で書いてポーション化するんだ。
シュヴァルツ、出来るか?儂が代わっても──」
「出来るのだす!」
シュヴァルツは力強く言い放った。
「難しい術式だぞ?」
「千年は学んだのだす!」
「失敗したら、儂が代わると云う事で構わないか?」
「絶対成功させるのだす!」
「──良し!」
ヴィジーは念の為、カード占いをした。
「『甲午』に『庚午』、『壬午』まで揃っておる!中々この上ないぞ!」
そうと決まれば、後は馬車の調達だった。
人伝に馬車を借りる場所を聞くと、丁度、ココに来る時に借りた馬車とその馭者が揃っていた。勿論、頼る事にする。
「光朝国・闇夜国を突っ切って、火王国まで。頼めるだろうか?」
「料金は、前回と同じで構いませんか?」
「すまない。助かる!
一度、光朝国で待ちたいが、構わないだろうか?」
「支払いさえして貰えれば、何処へでも!」
「有り難い!」
そうして、しばらくの馬車での旅となった。
「アイヲエル、光朝国に着いたら、旭の昇る瞬間を眺めると良い」
どうやら、それもまた、絶景らしかった。
アイヲエルはふぅん、とその発言を流す。
どちらにせよ、アイヲエルは外の風景を眺めて過ごすのだ。
奴隷二人娘はヴィジーと共にカードを遊ぶのだが、アイヲエルが参加しないことに、自分が遊んで良いものか気にしていた。結果、あまり盛り上がらずにカードを遊んで、時間を潰した。
食事の時以外はそんな様子で過ごし、食事は馬車の外で料理をして食べる。夜は休んで、アイヲエルとヴィジーが交代で見張りをする。
そして、何日目かの夕方に、光朝国へと入った。
宿を取り、そして、日が沈む瞬間。アイヲエルはその瞬間を宿の窓から眺めていた。──日が紅く空を染めて、沈み切った瞬間、街が一瞬、紫に染まった。その後に、徐々に暗くなって来る。闇夜国に変化したのだ。
「外には出ない方が良かろう。
儂一人なら、遊びに出るのじゃがのぅ……」
「皆で出掛ければ大丈夫じゃないですか?」
「アイヲエル。お主に闇夜国での遊びはまだ早い。
せめて、神王を務め終えて引退した後ならのぅ……」
「俺はもう成人です!」
「ミアイ嬢に怒られる遊びは止めておけ」
ここで何故ミアイの話が出てくるのかは解らない。
「それとも、キレーなオネーサンの接待を受けたいか?」
「いいえ、とんでもない!」
アイヲエルはようやくこの闇夜国での遊びと云うものを理解した。
「まぁ、明日の旭の昇る瞬間を待つ為に、早めに休んでおけ」
「そうですか……。そんなに見せたいものなので?」
「光朝国に来て、あの光景を観ないのは、ココに観光に来た甲斐が無い」
そう言われて、夕飯も早めに食べてしまい、アイヲエルはサッサと眠ってしまった。ヴァイスはベッドに横たえ、シュヴァルツとフラウも早々に眠る。ヴィジーも、部屋の鍵に魔法の鍵を重ねて、意識を保ちながら身体を休める。そして、真夜中を少し過ぎた時間に、アイヲエルを起こす。アイヲエルは、折角だからと、シュヴァルツとフラウも起こしてカードで時間を潰した。ヴィジーは夜明けが近付くまで、西側の窓の外を眺める。そして、白じんで来た頃合いで皆を呼ぶ。
「いいか、日の昇った一瞬の景色だ。見逃すな!」
やがて、空が朝焼けて来て、ほんの一瞬だった。
旭が差した一瞬、街の屋根や壁が、七色に輝いた。まるで、虹を鏤めたような光景だった。
だが、ほんの一瞬の輝きで、キラキラと旭の日の欠片をほんの僅かの時に散らして、朝の明るい光景が広がるのみとなった。
「はぁー、凄かった!予想以上に」
そして、風神国の方角から、一台の馬車が駆け抜けてくるのだ。
その馬車は、異様だった。それもその筈、その馬車を牽くのは、八本足の馬なのだから。空も駆けるとまで言われる馬。風神国の軍用の馬だった。
ヴィジーにはそれに乗っている者が判ったが、敢えて秘しておいた。
その馬車の中では、衝撃吸収作用のある構造の馬車でもかなり揺れて、一人の女性がこう叫んで光朝国を目指しているのであった。
「待ってなさいよー、アイヲエル〜!!逃がしませんわよ〜」
その姿は、化粧もドレスも見事でありながら、確かに田舎者の姫様の姿だった。
鬼嫁。そんな言葉が良く似合っているのかも知れなかった。
ヴィジーは『ようやく、だが、予想より早い!』と思っていた。
一方でアイヲエルは、皆を率いて朝食を摂りに食堂へ降りてゆくのだった。
雷の落ちる、30分前のことだった。




