第6話:苺バブル
『黄金』シリーズに限界を感じたカルは、次は『白金』シリーズの生産に取り組んだ。
大根辺りならば、出来そうなものではあるが、付加価値は甚だ疑問だ。
ならば、『白苺』を品種改良しての、『白金苺』の生産ならば、ウケるのではないか。
だが、既に試験用の畑は無い。ノウハウを提供する程のものを見出した訳では無いのだ。
ただ、このアイディアは、ともすれば氷皇国に手柄を奪われかねない事案であった。
何しろ、光朝国のトレードカラーは『黄色』であり、氷皇国のトレードカラーが『白』だったからだ。
結果、カルは氷皇国の土地を少し借り、『白金苺』の生産に着手した。
土地柄、作物は育ちづらいが、光朝国に近い土地の為、『白金苺』には適した土地だった。
結果から言えば、『白金苺』は僅か一年で生産に成功し、生産のノウハウも二年経たない内に確立した。
カルはその初期生産分を、光朝国に7割、氷皇国に2割献上し、1割は自分達で消費した。
今度は、甘さが際立った苺だった。「練乳要らず」とまで言われる程に。
寒冷地が、甘さを凝縮させたのだ。その一方で、光朝国に近い分、大地が凍て付く程の寒さも無い。
生産に、成功してしまった。そう、当初はノウハウを得る為に、失敗を繰り返すつもりだったのだ。
コレが、良い事ばかりではない事は、氷皇国から納品の命令が下された事からも明らかであろう。
生産量の、実に4割を持っていかれた。1割は生産者特権で消費。5割が光朝国への納品だ。
但し、当然ながら代価は頂くのである。卸値とあって、それは然程高くは無かったが。
そして、カルが危惧していたことを氷皇国はした。──納品した『白金苺』の輸出である。
本来ならば、光朝国が独占出来ていた筈の『白金苺』である。当然、光朝国は抗議した。だが、氷皇国には農地を『貸し出した』実績がある。
結果、価格競争で『白金苺』の価格は暴落するが、それはカルの知ったことでは無い。
社会の風潮は、『白金苺』だけならば、氷皇国に譲ってしまっても良いのではないか、と云うのが大半の意見だった。
だが、これを通じて、氷皇国は『白金苺』の風神国と天星国への直通トレードの販路の確立へと至った。
一般のルートでも、『白金苺』の価格は暴落。遂に光朝国は、カルへの、『白金苺』の生産中止令を下した。
それならば仕方がない。カルは『白金苺』の生産を止めるのと共に、ノウハウを氷皇国に高値で売り渡した。
実に、氷皇国の国家予算の1%をも占める金額だったが、氷皇国は値引きを早々に諦めて、その値で買い取った。
一方でカルは、光朝国にも『白金苺』の製法のノウハウを売り払った。実に、氷皇国に売った1/10の価格で、である。
その結果、どうなったか。
氷皇国では、極一部の土地でしか、『白金苺』を生産出来ない。光朝国は、『白金苺』の最大の特徴である、『甘さ』が再現出来ない。
そうなった。
結果、『白金苺』は氷皇国の品種として、『氷白苺』として名産品に。光朝国は、色しか『白金苺』を再現出来ず、『光白苺』として市民の食物に。
見事に棲み分けが済んだ。
棲み分けが済んだ事で、氷皇国は再び高値での『氷白苺』のトレードへと移行したが、その一方で、氷皇国に利したとしてお説教を喰らったカルが、『白金』シリーズの生産を取り止めた。
コレは、氷皇国にとって目に見えない痛いダメージでありながら、目に見えないからこそ、そのダメージに気付くことは無かった。
氷皇国が、光朝国を見習って『白金』シリーズの特産品を作る事に動く派閥があったが、カルと云う手出し出来ない存在によって、ノウハウを得ることは、しばらく無かった。
次第に、カルは『黄金南瓜』の生産と、『黄金苺』との生産体制を入れ替えた。
結果、『白金苺』を駆逐するが如く勢いで売れる『黄金苺』。実際、国全体では、『白金苺』の10倍もの『黄金苺』が流通していたのだ。
それも、独占出来るからと云って、高値で売り捌いた。転売は許さぬ!と云う勢いで。
一方で希少な品種である『白金苺』は、当初の約束通りの値と量で『風神国』と『天星国』に売れるだけで、後は『売れる程度に』と云う気持ちで安く売ったのが災いし、転売ヤ―が現れた。それを知るや否や、『白金苺』の値を吊り上げるが、それでは売れない。転売ヤ―も手を出さない。故に、『御勤め品』としての売却が相次いだ。
加工品としては、圧倒的優位品種である『黄金苺』は、『白金苺』の倍に近い値で、それでも早々に売り捌かれた。『黄金苺』の価格は、黄金比とでも言うべき美しい値段で売り捌かれ、僅かな転売ヤーも居るものの、転売ヤーの売る『黄金苺』は品質が保証されていないが故に、殆ど売れない。
最大限の儲けを出す『黄金苺』と、中々大きな利益を出せない『白金苺』。ただ、『白金苺』はその甘さこそが武器で、とある商人が、「これは商売になる!」と『白金苺』を買い占めたその商人が作ったのが、『氷白苺酒』であった。
コレが、中々に好評で売れたのだ。
後に氷皇国は、『氷白苺』の販売を止め、その全量を『氷白苺酒』に加工し、高値で売りに出したところ、『黄金苺』との組み合わせが絶妙で、加工品用として売りに売れた。
氷皇国は賢明にも、『氷白苺酒』を『黄金苺』の加工業者にしか売らず、殆ど全量が光朝国に売れた。
そして、光朝国は『黄金苺』を用いたスィーツに『氷白苺酒』を用い、そのスィーツを輸出品目としたのだ。コレが、風神国と天星国に良く売れて、消え物として消費されるのだった。
だが、風神国・天星国共に、その程度の費用では国庫が傾く筈も無く、『お金』と云う虚しいもので、『スィーツ』と云う消え物に消費する事で、大変な満足感を覚えていた。
次第に、そのルートは専売のルートが確保され、光朝国は俄に『苺バブル』に沸いた。
後に、『光朝国台頭の引鉄』と言われるその『苺バブル』によって、光朝国全体が少し贅沢な暮らしを出来るほど、豊かになった。
だが、バブルは弾けるもの。数年の間、『苺バブル』に沸いたが、弾ける時は一気であった。
風神国と天星国、ほぼ同時期の、『黄金苺スィーツ』の値下げ要求。呑めない場合は買い取り中止。それが『光朝国』の栄華の終わりであった。
それは同時に、氷皇国の『苺バブル』の終わりをも意味した。
値下げさえされれば、豊かな二ヵ国は喜んで買う。故に、完全なバブルの崩壊では無かった。
単に、単価が相場相当に落ち着いただけの話である。
一時的な異常な値。それが『苺バブル』の正体であるのだから。
どれだけ、人がお金に踊らされるかが良く分かる事態であったのだ。
そして、『氷白苺』の値も、徐々に落ち着いて来る。何も、光朝国だけの『苺バブル』では無かったのだ。同時期に、『氷白苺』のバブルも発生し、同時期に弾けたのだ。
これにより、風神国と天星国の富裕層は手軽に『黄金苺スィーツ』を食べられるようになったのだった。
裏側に存在している、カルと云う黒幕。彼も、流石にココまでは計算していなかったのだった。




