第4話:必然的生産
『特別監査官』アンナ・ライト。
彼女の他に、適当な人材が他に見つからなかった。
だが、彼女の手を以てしても、光朝王家の血を引くカルの監査は難しかった。
傍系とは言え、王家の血筋なのである。だからこそ、手柄を立てる素養も備わっいたと言わざるを得ないが。
だが、『特別監査官』は光朝王の勅令である。王族であっても、隠し立てれば罪となる。
皆が、一様に沈黙した。ココで正当で無い手柄を申し立てれば、バレた時に割と重い罰が下される。程度は判らないものの。
そして、口封じされている情報の訊き出しを、アンナは企てた。
結果、集束するのは、手柄の全てがカルであると云う、一点のみである。
だが、カルは昼間は農作業で忙しく、夜はキチンと眠らないと、早朝からの作業に支障が出る。
当初は、その言い訳で監査を逃れていた。だが、次々に明らかとなる、カルの手柄。
まず、本物の『黄金芋』を生産し続けたと云うのが、その時点で既にヤバい。
『黄金芋』の収穫量を高めたと云う功績が、既に表彰又は勲章モノの手柄だ。
そして、極めつけに『黄金南瓜』の最初期生産者であると云うヤバさ。
アンナは、包み隠さず光朝王に報告した。
だが。
カル本人が、「表彰も勲章も要らない」と言い出す始末。
序でに、『黄金ポタージュ』の製法も、彼が編み出したと云う、俄には信じ難い事実。
だが、ベアトリクスに最初に齎された『黄金南瓜』は、添えられていたメモ程度のレシピに従って作られた。コレに関して言えば、ベアトリクスの専属メイドの証言もある。
カルは、遂に光朝王勅令で呼び出された。
「──して、この手柄は貴様のモノでは無いと申すか」
「はい、先人の研究の過程から、ノウハウを頂いて完成したのが、『黄金南瓜』であり、『黄金芋』の生産維持の秘訣に御座いますれば、その先人にこそ、その名誉は相応しかろうと、愚考する次第で御座います」
「しかし、本当に作り上げたのは、貴様が最初である点は否定せぬな?」
「……恥ずかしながら、先人の智慧に乗って、成果を出したのは自分であると、認めざるを得ない点は多々御座います」
「──して、新たな作物でも作り上げる智慧でも、貴様は持ち合わせておるな?恐らく」
「……アイディアと原案程度は御座いますが、農地・時間共にこれ以上は難しい点が御座います」
「ならば、『特別監査官』にその智慧を一つ残らず、報せる事を命ずる」
「しかし、現実的には報告の時間も余裕が無いのも事実でして──」
「農閑期、と云うものがあるのではないか?無いとは言わせぬ。……だが、次の繁忙期に向けて、休養の必要もあるのは確かか……。フム……」
光朝王が、悩み始めた。
「確か、先人の智慧を基に、と申したな。ベアトリクスに調べさせよう。
『黄金芋』と『黄金南瓜』の生産、期待しておる。せいぜい、期待を裏切らないように、な」
「残念ながら、休耕期と云うものが御座いますれば、在庫が尽きた場合、一年は待っていただかねばなりませぬ」
「……『休耕期』?」
「はい。『黄金芋』も『黄金南瓜』も、約4年に一度、休耕期を設けませねば、その黄金色の輝きは失われるかと」
光朝王は困り果てた。黄金色の輝きを放ってこその『黄金芋』と『黄金南瓜』。その価値が失われるのであれば、その休耕期を許さねばならない。
「……何か、策は無いのか?」
「畑を四分割してローテーションを組めば解決致しますが……年の収穫量が半減致しまする」
「4年に一度か、半分……。確かに、農閑期を設けた方が総収穫量では多いな。
もう良い。仕事も忙しかろう。時間を取らせて貰って、助かった。
仕事に精進せい」
「ははっ!」
そうして光朝王は、ベアトリクスを呼び出し、旧い資料を漁らせ、新たなる名物の生産を目標化した。
だが、ベアトリクスとて研究者なのだ。そんなに簡単に新しい名物を、と言われても、早急には難しい。
むしろ、今回の『黄金南瓜』こそが、最新の研究の成果なのだ。ソコを褒められずに、次の手柄を急げと言われても、それは難しいと云う話だった。
尚、もうじき『黄金南瓜』の在庫も、二年モノが保管・熟成されていく筈だ。休耕地の問題は、それで解決する筈だった。
三年モノとなると、腐敗するものが出て来る。だが、一番美味なのは、二年モノなのだ。ベアトリクスも、作物の熟成に関する論文を読んで知っていた。
だが、輸出量がこれ以上増えると、二年モノの熟成した『黄金芋』も『黄金南瓜』も在庫を確保しておくことが厳しくなる。
問題は、獲得する外貨とのバランスだ。今現在は、絶妙なバランスで成り立っていると思うが、これ以上の輸出は厳しい。
風神国は、ルールに厳しいが故に貯蔵・熟成の方法を守ってくれる。二年モノはサッサと消費してしまう。だから産物としての価値を保ち続けられる。
問題は、天星国も含む他の六ヵ国だ。キチンと指導した貯蔵・熟成の方法を守り、光朝国から派遣されたシェフに調理を任せてくれなければ、名物にならないどころか、クレームモノだ。
なので、天星国に少量を輸出している他は、五ヵ国には輸出していない。風神国と天星国の外貨を獲得しておけば、充分だと云う事情もその中にはあった。
だが、輸出の催促の連絡が、無視出来ないレベルで多かったのだ。
そんな中、『黄金南瓜』の輸出が始まったら……。
ベアトリクスの腹痛が病む。頭痛も止まらない。
「なんて厄介な名産品を作ってくれたものだ……」
今後、ベアトリクスは『黄金南瓜のポタージュ』を、穏やかに飲むことは難しそうだった。
むしろ、頭痛と腹痛がマッハで訪れる事は予想に難くない。
「こんな時こその『黄金芋』だったのに……私は、もう『黄金芋』を食べる事を愉しむ事も出来ないのか……」
涙がちょちょ切れん事態だった。それもこれも──
「アーベントデメルング~!!」
光による闇への侵略。そんな愚かな魔法さえ行使していなければ、何もかも問題は起こらなかったのかも知れない。
ところで、カルは実は四輪作を既に行なっており、畑の二つは『黄金芋』と『黄金南瓜』の生産、一つが休耕用の家畜への飼料、一つが試験栽培用なのだ。王家に対しては、咄嗟に法螺を吹いたのだ。
それは、カルが根っこから農家であり、研究者でもあったからだ。
勿論、試験栽培用の農地が無駄になっていることが判明すれば、責められる事は間違いない。
そもそも、栽培用の種芋の確保が充分では無いのだ。ベアトリクスは絶妙なバランスと思っていたが、種芋を計算に入れると、今現在は既に足りないのだ。
だから、カルにはイザとなったら言い分を通せる。王家傍系で、強く責められる事は、王家への反逆意識を持たせる結果に繋がる。
カルとて、末端の生産者に近い体制を取りながらも、空いた農地の活用には積極的だったのだ。
ただ、この先が難しい。『黄金南瓜』は、偶発的に一個だけ生産された記録があり、その種から芽吹いた苗が育った後の種を──と云うサイクルを繰り返した後に、たまたまカルが『黄金南瓜』生産のノウハウを記録していたが故に再現出来たものだ。
中には、『白金玉葱』とか、あと幾つかのアイディアをカルは資料から見出していたが、再現は難しかろうと予想していた。
カルは、『偶発的』と云う生産を、心底嫌っていたのだ。お陰で、再現にとてつもない労力が発生すると、嘆いてもいた。
必然的に作れるまで、カルの努力は止まるところを知らない。




