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八国史〜『新約魔書』世界一のワーストセラー〜  作者: 月詠 夜光
~火の章~

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第11話:男児出産の裏事情

 ユメナはずっと待っていた。火王国からの報せを。魔導士の謝罪の報せを。


 ユメナはそれを以て『火巫女』に復帰するつもりでいた。


 そんな中、その噂は齎された。

 即ち、『件の魔導士の死体、国境の町で磔にて晒される』と云う凶報が。


 誰がそうしたのかは伝わらない。ただ、ある日の朝、唐突に国境の町の風神国側の端にて、件の魔導士の死体が磔にされて晒されていたと云う情報が齎されたのだ。


 風神国王ミスターは、即座に弔いの命令を下した。


 事態は、思っていたよりもずっと悪い方へと向かっていた。

 この舵を切り替えるのは、生半可な腕では舵取り出来ない事態だった。


 現場の判断で、即座に「石投げるべからず」の看板は立てられた。近寄れぬよう、柵を設けて衛士も見守るようにした。


 だが、コイン投げだけは防げなかった。

 結果、然して多くも無い金額が投げ銭としてユメナに捧げられるが、ユメナには全く有り難さは無かった。


 許せられない罪人だとしても、こんなに簡単に人一人の命が奪われるのでは、ユメナも報われない。


 命の対価としては、集まった投げ銭は余りにも少なかった。


 数えてみれば、銅貨ばかりが108枚。煩悩の数に等しかった。


 銀貨の一枚も混じっていなかったのは、投げる価値としては高過ぎたと考えた者ばかりだったのかも知れない。


 そんな中、金貨がたった一枚。


 ユメナはその全額を、魔導士の弔いの費用として風神国に寄付をした。


 責任の所在は、これで無くなってしまった。


 なので、魔導士のルーツを辿り、水帝国に疑惑の目が寄せられた。

 勿論、水帝国には魔導士の行動も、その処分の責任も、全て濡れ衣だった。

 だが、国際的にはそんな事で済まされる事態では無かった。


 そこで、水帝国内でも魔導士に水魔法を教えた者の所在を探ったが、そんな簡単に判る訳が無い。

 占いで限りなく疑わしい人物の特定は出来ても、その証拠は何処にも無い。


 占いで疑われたのは、水帝国王族傍系。その内の誰か迄は特定出来なかったし、特定出来てしまってもそれもまた問題となっただろう。


 当然、名乗り出る者は居ない。


 ただ、風神国から水帝国に輸出される食品は目に見えて減った。元々、繋がりの然程強くない国家間とあって、食品は風神国より天星国に頼っていた。だが、それがほぼゼロになると云うのも、厳しい話だったし、責任を取れない水帝国としては、咎める訳にもいかなかったし、ただ只管困り果てた。


 水の攻撃魔法と云うのは、最弱のものだと人間に対しては濡れる以上のダメージは見込めない。

 故に、水の確保の手段として、水帝国の王族 (傍系含む)がよく教えるものであった。

 それを悪用された……。水帝国としては、その魔法を教える事を厳しく取り締まる必要が出て来る事態だった。


 勿論、タダで教えるものでは無い。故に、厳しく取り締まると共に、酷い値上げが必要となって来た。

 ただでさえ貧しい国が、更に貧するのだ。水魔法の教授に酷い値上げが伴うのも、仕方ないと言えよう。


 裕福な家は、風神国に引っ越したりする。故に、風神国に他七ヵ国の王族傍系の家と云うのはそれなりの数が存在していた。


 ただ、水帝国は風神国と大陸の逆側に存在する国だ。引っ越し費用も莫迦にならない。


 賢い者は、家財全部売却して、お金だけ持って風神国へその身一つで引っ越すのだ。


 故に、風神国は人口も多い。天星国には、中々引っ越しの許可が下りないので、自然と風神国に集まる。


 殿様商売をする者は上手く商売出来ずに風神国にも関わらず貧するが、全く喰えない訳では無いのが、他の国とは大きく違う。

 とは言え、王族傍系ともなると、周りに比べて貧乏な事にプライドが邪魔し、更に他国へ引っ越し、また後悔する。

 結局、風神国に戻るのだが、その為にはプライドを捨てる必要が出て来る。


 世の中、プライドで飯は食えないのだ。


 ただ、ココで『火巫女』の重要性が問われて来る。──風邪が流行るのだ。

 食事もロクに食べられぬ者に、風邪への抵抗力がある訳も無い。

 結果、風邪を予防する『火巫女』の実力が問われるのだ。


 『火巫女』の鎮守の舞いに、貧富の差は関係ない。ただ、風邪が流行るのを予防することが、風神国では強く求められるのだ。


 特に風神国では、犯罪を犯したからと云って、簡単に刑務所に入れて食事が支給されると云う訳でも無い。故に、犯罪に走る訳にもいかないのだ。


 苦痛に(よろこ)びを目覚めるレベルになって、ようやく懲役刑を受けられる。そんなもの、誰も目指す筈も無い。


 場合によっては、空腹の苦痛に悦びを見出して、餓死するのだ。そんな苦痛、予想するだに恐ろしい。


 他国からは、『風神国の下す罰は厳し過ぎる』と言われるが、それでも犯罪はゼロにはならないのだ。そんなもの、犯罪を犯す者が悪いに決まっている。


 ただそれでも、軽い犯罪に対しては罰金刑で済まされることもあるのだ。ただ、罰金を支払えずに……と云う不幸な例は救いようが無い。


 だけど、ベーシックインカムのシステムも取り入れているのだ。風神国産まれ・風神国育ちの者に限り。


 それだけ犯罪の予防措置は強く保っている。


 だから、ベーシックインカムを受けられない他国王族傍系、と云う移住者は、風神国内で嫌われる。


 それでも風神国に移住する者は後を絶たない。風神国生まれの子供を授かれば、ベーシックインカムも受けられるからだ。


 それは、『火巫女』の子供でも問題ない。故に、風神国の元王の寵を受けようとする『火巫女』も出て来る。


 ただ、風神国の元王は下手に『火巫女』に手を出さない。他の『火巫女』を招聘するなど、本末転倒な事態が発生するからだ。


 問題は、ヴァターがベルに手を出してしまったことだ。ユメナは復帰の可能性を残しながらも、完全に『火巫女』からは引退しているからだ。


 そう、元を辿れば、ユメナを求めたマッスターが悪い。


 だが、幸いにもユメナは王族傍系の娘だった。だから、王妃に迎える資格がある。


 ベルにそんな資格は無い。だが、元王のヴァターの妾になれば、不老の加護を得てしまえるのだ。だから、ベルはヴァターの誘いに応じた側面がある。


 不老の加護が得られるか否かは、当初、定かでは無かった。だが、ヴァターの寵を受けたベルの鑑定を行なえば、『不老の加護』が備わっているのが確認出来た。


 これは『八ヵ国世界』に於いて、重大な問題だった。


 平民が、王家にのみ授かる加護を得てしまえた。第二例の確認が急がれるのも、仕方のない話だろう。


 だが、他の王家ではそんな事態は起きなかった。


 恐らくは、元風神王にのみ、王族に迎え入れる資格を与える能力があるのではと予想された。


 逆もまた然りなのである。その可能性は高かった。


 兎も角、『火巫女』の存在が、一時的にとは言え、その需要が非常に高まった。


 ユメナに『火巫女』への復帰の可能性についての問いが齎されたが、ユメナはそれをはっきりと断った。


 だが、役目も無い者を滞在させておく訳にもいかなかった。

 故に、男児を産むべく、マッスターとユメナとの間での子作りが必要となった。もう1年以上も前の話であるが。


 そこにはロマンチックや恋愛要素も何も無く、ただ必要だから二人に強制された。


 無事にユメナは出産したのだし、育児にも大きな問題は起こっていない。生まれたのも無事に男児だった。既に記してある通りである。


 幸い、二人とも相手が嫌になるほど、嫌ってはおらず、むしろ好いていたのだから、順調に事は進んだ。念の為の第二子の出産に向けた動きにも、二人は積極的だった。


 一方のベルは、子作りの必要も無く、従って妊娠を目的とせずにヴァターに愉しみとしてのみ求められ、断るほどの覚悟があった訳でも無かった。これがユメナだったら、『火巫女』と云う立場を盾に取って、強引に拒んでいたことだろう。ユメナは相手がマッスターだから受け入れたのだ。


 そうして、念の為、風神国から火王国に依頼し、『火巫女』の派遣が願われたが、もう若い娘は居らず、ユメナの叔母のミスズ・ファイアが派遣された。因みに、ベルとも遠縁の親戚である。


 指導者側の『火巫女』が派遣された。それは、火王国がそれだけ追い詰められていた事実を証明し、齢が37と若干高めだが、これ以上若い『火巫女』だと、充分な訓練を熟していない、戦力外の娘ばかりだった。或いは、高齢の指導者か。


 尚、ユメナとベルがミスズにこってり叱られたのは、言うまでもあるまい。

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