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八国史  作者: 月詠 夜光
〜風の章〜
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第7話:混乱するパーティー

 一方、アイヲエルを失ったパーティーは、混乱に陥っていた。


「親分!」


「親ビン!」


 呼んで後を追おうとする二人の竜人。


「待て!追うな!


 同じ場所に行けるとは限らん!」


 咄嗟のヴィジーの指示で、二人目の犠牲者は出さずに済んだ。それどころか、二度発動する罠なのかも不明なのだが。


「念話で──ノイズが酷いな。とても通じるとは思えん。


 一旦、迷宮を出るぞ!」


「そんな……親分……」


「あう……親ビン……」


「心配するな、キチンと支援はする。


 ただ、無防備に迷宮の奥には行けなくなっただけの話だ」


 一行は、即座に迷宮を出た。それでも、日は傾いている。もうじき夜だ。


「アイツに持たせたのは……軽く三食分程度だったか。


 亜空間の座標を合わせて……良し、これで一週間は食い繋げる筈だ」


 亜空間経由でアイヲエルの食糧を備蓄したヴィジー。だが、直後にヴィジーは自らの誤算を悟った。


「一食分の時間に、二人分減っている……。


 ──同じトラップに掛かって、合流した奴でも居ると云うかよ!」


 それでも、次の食事の時間に、ヴィジーは一安心する。


「ホワイトウルフの肉が収納されている……。


 良かった、狩って喰えているんだな?


 ならば、次に送るのは、手紙と便箋とペンだな。


 コレだけは、気付いてくれなければ無駄に終わるが──はて、果たしてアイツが一人で気付けるか?」


 そうして、取り敢えずは食糧だと、アイヲエルの独力での脱出か気付きに期待する。


「支援物資に気づいては居るはずだ。なのに、手紙には気づかぬか……。


 こればかりは、気付くまで待つほかに、打つ手は無い。


 ──!コレは、『朱雀』召喚の気配か!?


 こんな事態だし、召喚もやむを得ないが……。


 『風神国』の神王に、報告するか……」


 『朱雀』召喚と云う事態であれば、既にアイヲエルの身に何か起こったことが、風神国神王には手に取って分かる筈の事だが、アイヲエルの身を預かった立場として、報告はほぼ義務であった。


 そして、ヴィジーは『天星国元星王』と云う立場を持ち出して、緊急での『風神国神王』との直の会見を求めた。当然ながら、他の緊急案件を除いて、最優先で謁見の場が設けられた。その時、緊急の案件は無かったが故に、ヴィジーにはロクに準備して待つ程の時も与えられなかった。


 そして、迷宮探索の時の着衣のままで、ヴィジーは『風神国神王』と謁見することとなった。


「申し上げます。アイヲエル殿下、迷宮にて転移の罠に掛かり、脱出に目処が付いていない模様。尚、恐らく一名、救難者も居る模様です」


 ヴィジーはその後、詳細に渡ってを報告させられたが、責任は追及されなかった。アイヲエルが、自らの不注意で転移罠を踏んだからだ。


 責任の所在は、アイヲエルにある。しかも、『朱雀』を召喚の模様。


 『風神国』の『聖獣』であれば、アイヲエルの救命にも全力を尽くしてくれる筈。


 その判断が下され、ヴィジーには今後も救難物資の仕送りを指示された上で、退室が命じられた。


「アイヲエル、可哀想にな」


 ヴィジーに責任が追及されないのであれば、責任の所在はアイヲエル本人にある。


 恐らく、脱出した後、ガッツリ怒られることだろう。


 それを悟って、ヴィジーは同情したが、果たして同席して容赦を願うことが出来るものかと考えた。


 どうするにせよ、それはアイヲエルが無事に帰還した時のお話だ。


 食事は、毎食二人分減っていた。救難者なり何なりが居る可能性は非常に高い。


 ヴィジーは、冒険者ギルドに行って、遭難者の存在を確認した。すると、五日前にハインダンスと云う遭難者が出た事を知った。


 生きているとしたら、その一人だ。それ以外は、一週間以上前に遭難している。食糧が尽き、モンスターに襲われれば死んでいるだろう。


 ハインダンスとて、食糧は尽きている筈だ。だが、それ以降の遭難者となると、未だ遭難していると確定している者は居ない。


「チッ!女性、ってか。アイツ、呼ばれるように導かれたんじゃないだろうな?」


 さりとて、ヴィジーに出来るのは、アイヲエルに教えた亜空間収納の魔法の、座標を合わせて救難物資を届けるしかない。


 この際、手紙に気づいてくれると、助け易くなるのだが、今のアイヲエルの状況を把握できるだけでも、手紙を読んで返事が欲しい。


 亜空間経由での移動も、ヴィジーなら可能だ。が、アイヲエルには未だ無理だ。未熟に過ぎる。


 その上、救難者も一名いるようでは、ヴィジーが駆けつけて脱出の手伝いをするのが最も早い。


 惑星上の座標が分かる魔法も、アイヲエルも体得しているが、その座標が凡そどの辺りを指すものなのか、その判断は未だアイヲエルには付かない。


 ホワイトウルフの肉を収納している以上、ヴィジーからの支援に過剰に期待し過ぎない程度の判断はついている模様だ。


 今朝の朝食分も、二人分くらいは減っている。誰かしら、恐らくハインダンスなる女性を救難したのはほぼ間違いない。


 ヴィジーは、迷った挙句、鬼の決断を下した。


 即ち、手紙に気付く迄の、ホワイトウルフの肉の没収だ。


 コレで、何らかの意図がある事には気付く筈だ。


 結果として、手紙の返事が戻って来たら、再度収納してやれば良い。


 はてさて、吉と出るか凶と出るか……。


 速やかに手紙に気付かないようなら、戻って来た後で説教だなと、ヴィジーはそう判断を下した。


 あとはただ、只管(ひたすら)に手紙に気付くのを待つ他、打つ手は無かった。


 ただ、流石に気付くだろうと、ヴィジーが楽観視していたことは、間違いない。


 それだけの教えを教授して来た事は、間違いないのだから。

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