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八国史〜『新約魔書』世界一のワーストセラー〜  作者: 月詠 夜光
~火の章~

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第5話:代理の火巫女

 ユメナはしばらく、化粧の勉強をしながら、火王国で予習しておいた風邪予防の鎮守の舞いを仮初(かりそめ)に舞い踊った。

 毎回、見学席の最前列に、マッスターが居る。動揺しない訳が無かった。

 けれど、一度も大きな失敗は無いまま、自分なりの解釈で風邪の予防の為の鎮守の舞いとその為の化粧を見極めた。

 その際、緑を頬に添える為、火王国から持ち込んだ化粧も用いた。

 流石に、鮮やかな緑の化粧は、風神国には無かった。

 火巫女は、伊達に鎮守の舞いを舞っているのでは無い。化粧の色の数なら、八ヵ国イチであっただろう。


 そして、健康的な肌の色と云うのも、病魔撲滅に際しては重要な要素だった。故に、日頃から風神国の肌ケアの化粧品を使うようにはなっていた。


 そうして、効果が徐々に出始めた。王族に引き込まれた聖女・フラウの下に風の治療の為にやって来る病人が明らかに減ったのだ。

 故に、何十年も聖女を務めるフラウは、街中を歩き廻って、辻ヒールを掛ける事が増えたと云う。


 聖女に因る治療の魔法は、絶大な効果を持っていた。故に何十年も聖女を務め上げ、しかし『超越者』として老いる様子も無く、出自を辿れば奴隷だと云う噂なのに、大人気だった。

 それは、火巫女に因る鎮守の舞いより、明らかに病気を治して廻るフラウの方が、人気が出るのは可笑しなことでは無いだろう。

 だが、マッスターは未だに、鎮守の舞いを最前列で見学する。


 まるで、ユメナの鎮守の舞いの効果を信じていますよ、と云うアピールのようにも見えなくはない。

 即効性のある行為では無い。だが、聖女・フラウに辻ヒールに廻るだけの余裕が出たのは、鎮守の舞いの効果で無くば、何が原因だと云うのか。


 実際、聖女・フラウから、ユメナへの挨拶の打診も来た。実際に会ってみると、四人もの子供を産んだと言われる割に、未だ成人して僅かばかりの年嵩しか重ねていないようにも見える。


 そして、風神国からは、強風・竜巻・台風の類にも予防の効果を求められないか、ユメナに打診して来た。


 不可能では無い。だが、頻度は減ることはあっても、無くなりはしないことを返事として言い含めた。


 そうなると、鎮守の舞いは変化することになり、踊る時間も長くなる。未だ体力の充分ある年齢と云えども、体力的に厳しくなることは避けられない。


 その代わり、ユメナには風神国の新名物、体力ポーションが支給されることになった。

 これにより、ユメナは舞いを踊った後にも、体力ポーションを飲むことで、体力的余裕が生まれ、(しき)りにマッスターからお食事会のお誘いが来た。

 以前は断っていたが、体力的余裕がある事が明らかになった今、断る口実は無かった。


 そうして、贅を尽くした食事と云うものを、丁度腹八分目程度に分量をコントロールされて振る舞われた。

 だが、それは初回限りの贅沢だと断られた。それでも、二度目以降も火王国には比べものにならない程の贅沢だった。

 それは同時に、マッスターとのお話をする機会を作ると云うことでもあり、不器用ながらマッスターがユメナを想う気持ちが切々と告げられた。

 お見合いパーティーには、一度は参加したそうだ。その上で、ユメナを求めると、マッスターは言ってくるのだ。


 本来、『火巫女』は男と交わらない。話す相手も、殆どが女性だ。

 『火巫女』であるユメナが求められる。本来ならあり得ないことだったが、相手は国名に『神』の名を冠する国だ。


 『神』から求められるのであっては、いつまでも断り続ける、と云う訳にはいかない。

 しかも、ユメナは年齢的に美しさの盛りを迎えつつある年頃なのだ。その上、美しくなる為の化粧にも手を抜かない。


 食べ過ぎはしないように食事の量のコントロールもされていた。毒性のある白粉からも逃れている。

 最早、国の方針として、ユメナをマッスターの嫁の候補として政策が取られていると考えても、強ち間違いでは無い事態だった。


 食事のマナーは、火巫女の学ぶ教養の一部であり、ユメナが食事をする姿は美しい。

 だからと云って、『火巫女』が嫁いだ例など、前例が一つも無い。


「ならば君が前例になれば良い」


 マッスターはそう言い切った。ユメナは、家庭を持つ幸せを求めても許されるのか?そんな疑問も、ユメナは最近になって抱くようになって来てもいた。


 だが、仮にユメナがマッスターに嫁いだら、代わりの『火巫女』を招かねばならぬことも事実だった。

 その際、腕前がユメナに劣るようであれば──。そんな想像はしたく無かった。


 一応、ユメナはその内容の相談を火王国の『火巫女長』を始めとした、国の主導者達に相談の連絡を取っていた。

 結果、『火巫女長』の返した言葉が。


『貴女の思うように為さい。代理となる者は居るし、繋がりが出来るのであれば、それは火王国にとっての利益にも等しいです』


 と云うものであった。

 代理の者……。想像は付く。ユメナを目の敵のようにする『火巫女』で、未だどの国にも派遣されていない、ユメナのライバルのような娘が居る。


 恐らく、予想通りになる。実力も、ユメナに匹敵する。彼女は、天星国行きを求めて、落選していた。

 天星国の災厄、主に雷は、鎮守するのが難しい災厄とされていた為、もっと腕前が上の希望者が派遣された。


 身の程を弁えている『火巫女』は、風神国と天星国以外の国を選んでいたし、第一希望で候補者が出揃ったので、同年代ながら未だ修行中の身の娘だ。


 ただ、その娘が代理として派遣された場合、我儘を言って風神国を困らせるだろう。

 特に、食事は『足りない!』と言い出すことは目に見えて明らかだ。ユメナですら、もうちょっと足りないと思うが、逆にそのくらいが丁度良いと思う。


 実力的に、候補になりそうなところがまた、不安要素だ。代理の者を、となれば、残る者で実力者だろう。

 多少、性格に難があるが、実力は確かな娘なのだ。まさか、実力トップの火王国自体を鎮守する舞いを舞う娘は派遣されまい。


 彼女が来て、その我儘を全て通せば、醜く太り肥え、舞いにも支障が出て、苦情も出るに違いない。


 実力的には相応だが、性格的に合わないのだ。

 彼女の名を、ベルと云う。


 ただ、一つ安心要素を述べると、王族では無い為に、神子から見初められる可能性はほぼ無い。故に苗字が無い。王族でありながら火巫女であるユメナとは立場が違うのだ。

 だから、いっそ神王族に(おそれ)を抱いて何も言い出せなければ良いのにと、ユメナはそう思う。

 だが、天星国を希望した通り、畏れ知らずな娘でもあるのだ。


 ユメナは、そっと意見を返すことを決めた。ベルだけは、止めた方が良いと。

 だが、その意見が通るか否かは、火巫女長たるユメナの叔母、ミスズ・ファイアの意思一つだった。

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