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八国史〜『新約魔書』世界一のワーストセラー〜  作者: 月詠 夜光
~火の章~

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第3話:化粧

しばらく、校正前と余り変わり映えしない展開が続きます。悪しからず。

 ユメナが面会室に訪れて真っ先に。


「やあ、火巫女聖下、先日はスリリングな剣舞を披露して頂き、感謝申し上げる」


 火巫女であるユメナを、火巫女としての尊称として最上級の『聖下』と云う言葉に、(おそ)()る。


「マッスター殿下、中々に肝の据わった振る舞い、誠に畏れ入ります」


 まずは、ジャブとして牽制(けんせい)。距離感を図る。


「ハハハ。傷の一つ位は覚悟したのだがね。中々上等なアドリブを入れて来たこと、こちらこそ畏れ入る」


「殿下。腹の探り合いは求めるところに御座いません。

 用件の方を、先に提示して頂ければ幸いで御座います」


「いや、何。火王国の王族の血を引く火巫女聖下とあって、迎え入れるべきか否かを図りに来たのだがね、本音を言えば」


 ユメナはその言葉を軽く笑い飛ばして返した。


「何をご冗談を。

 殿下は、そろそろ王族のお見合いパーティーへの参加をすべき頃合いで御座いましょう。

 王妃の候補として求めて来たのであれば、私には畏れ多い用件で御座います」


 本音を引き出す為に、『駆け引きしてますよ』と云う暗黙のメッセージ。それに、マッスターは乗っかって来た。


「そう申すな。

 父上もお爺様もお見合いパーティーでパートナーを見初めたと聞いたが、風神国で豊かな生活を──と云う目的の婦女子の皆さんからの熱い視線を集めるのは、中々にプレッシャーが掛かるそうだ。

 それならば、身近に居る他国の王家の血を引く者が好ましければ、迎え入れることは(やぶさ)かではないどころか、むしろ積極的にアプローチしようかと思ってね」


 ユメナは、返された好ましい言葉に、惹いてみようかと少し距離を突き放すことにした。


「まさか。私は王家の血こそ流れているものの、『火巫女』として、生涯を神に尽くす覚悟で臨んでおりますので、浮気をする訳には参りませ──」


「ならば、風神王に生涯を尽くしても構わないのでは無いかね?」


 食い気味に言葉を被せて来たマッスターに、ユメナは一瞬、失敗した!と思ったが、否、違う。思う壺だった。


「仮にも、『神』の一字を名乗っている貴方様に尽くすのは、吝かでは御座いませんが、私は火巫女としての役目を最低限果たさなければ、引退することは許されておりません!」


 ユメナは、敢えて強く言い放った。この程度で諦める相手ならば、向こうの気持ちも然程ではあるまいと判断して。


「ならば、早々に最低限の役目を果たして頂かねばな」


 そう言って、マッスターは少し考え込んだ。蟀谷(こめかみ)を軽く指先で何度か叩く。


「──何人手伝えば、薬の用意に都合が良い?」


「願って宜しいのならば、7名ほど」


 希望する最大限の人数をユメナは要求した。但し、だ。


「出来れば、薬師(くすし)として経験豊かな者で、で御座いますが」


「フム……女性の薬師で7名、か。……不可能では無いな。

 因みに、ノウハウが漏れてしまう事に懸念は?」


「御座いません」


 一瞬、『女性の薬師』と云う条件を訊いて、男性の薬師でも大丈夫だろうと考えていたユメナは、冷や汗を掻く。だが、すぐに不可能では無いと断言され、ホッとした。


「フム……火王国の秘伝の薬、と云う訳でも無いのか。

 或いは、その断片的な情報に過ぎぬと云うことか。

 良かろう、女性の薬師7名、都合しよう」


「ありがとうございます」


 礼の言葉を述べてから、ユメナは質問を一つしてみることにした。


「──何故、私をお求めで?」


「ウム。最低限の身嗜(みだしな)みを覚えていて、『火巫女』等と云う重役を、自国の為でなく他国の為に秘伝の薬の処方が漏れてしまうような尽くし方をする女性──気にするなと云う方が無理があろう。

 因みに、先代までの『火巫女』は、表舞台にすら立とうとしない、最低限の役目さえ果たせば、それ以上の努力をしない、必要最低限の役目しか果たさぬ、取るに足らぬ者ばかりであったそうだ。


 そこへ、代替わりをしたとは言え、風神国王族の集まる中での緊張感のある剣舞を舞ってみせる……。

 生半可な度胸の持ち主では無いなと思って見直せば、実に美姫。


 正直、『火巫女』程度の扱いをするのは、勿体無いと思った次第だ。


 ならば、どう扱えば良いのか……。熟考(じゅっこう)しても、王族に引き入れる、以上の代案が思い付かなかった。

 その為のパートナーが俺と云う話になれば、一度、腹を割って話した方が良いかと愚考したが……。どうであろうな?」


「『美姫』等とは、過ぎた評価に御座います。

 ですが、最低限、今現在流行っている『風邪』を撲滅せねば、私に『火巫女』から退く権利は生じません」


「撲滅と云うのは無理だ。諦めろ。

 その上で、舞台を今一度、用意する。民衆の前で、剣舞で無くとも良い、鎮守の舞いを舞っては頂けないだろうか?」


 諦めろとは、随分な物言いだった。だが、確かに完全な撲滅は無理であろうとは容易に想像がつく。下手をすれば、新たな『風邪ウィルス』の発生を招いてしまう。


「私の役目は、その舞い一回で充分と仰いますか?」


「一回とは限らない。だが、そう多くを求めはしない。

 どうだ?俺の正室に招かれるのはそれでも嫌と申すか?」


「フム……」


 ユメナは、ザッと一通りマッスターの容姿を眺め廻して、その容貌が好ましい事に気付く。

 だが、男は見た目より性格だ。そして、マッスターの性格は今まで見た限り、どうであろう?

 肝は据わっているようだ。王族として、王座に就いても見事に熟しそうな気配はする。

 そして、何より、女性の意見を訊き入れてくれる。尤も、好ましい女性に対して限り、と云う可能性は否めない。

 『火巫女』としての待遇でも、ユメナには充分であった。だが、それ以上の条件を提示して来ている。


 風神王として、『神』の名を頂くに相応しい男だろうか?


「いいえ、正室と云うお話しであれば、火王国王の許可さえ頂ければ、殿下に嫁ぐのは好ましくすら思います」


 今でさえ、火王国に比べれば十分に贅沢な暮らしをさせて貰っている。これが、王族に招かれれば、如何なものか……。

 想像するだに、贅を尽くせるだろうことが容易に予想出来る。


 ただ、ただだ。特権を振り翳して、贅の限りを尽くせば、目の前のこの男は、『この女は変わってしまった』とでも言い出して、破談と云う話にもなりかねない。

 ココは、黙っていても尽くされる程度の贅を尽くせば、ユメナにとっては、充分に贅沢な話だ。


「──世の中にはな、二種類の女性が居るのだよ。

 良い方に化けて、美姫として相応しい女性と、悪い方に化けて、まるで呪われたように醜い女とだ。

 君には、前者で居て欲しいと願うのだがね」


 ユメナの背筋に冷たいものが走った。ココで満足して努力を怠れば、恐らくマッスターの言う悪い方になってしまうだろう、と。

 ならば、ユメナの言うことは一つだ。


「──私は、美姫として相応しい女性であるべく、努力して邁進したいと思います」


「ならば、我が国の化粧品も、提供しよう。

 『火巫女』として意味のある化粧をするようだが、普段の化粧には我が国の製品の方が、貴国のものより優れているだろう。

 利用できるようであれば、『火巫女』として意味のある化粧に相応しいものがあれば、使っても問題ない。

 ──化粧を馬鹿にしていると、醜女(しこめ)に変ずるぞ?」


「重々、承知しております」


 ユメナは、場合によってはワザと醜女になるよう化粧する事もあった為、その醜さは身に沁みて判っていた。恐らく、そんな化粧をした女を好きになる男なぞいないであろうと。


「貴国のお付きのメイドも居るだろうが、我が国のお付きのメイドも付かせ、説明させる。

 未知の化粧は、流石に使い方が判らないだろうからな。

 急ぎの時には、我々に直で連絡が出来るよう、手配しておく。

 困ったことがあったら相談すると良い」


「お心遣い、感謝致します」


「ウム」


 これは、未知の化粧品の使い方を逸早(いちはや)く把握すべきだろうと、ユメナは一人、心に留めておいた。

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