第1話:火巫女
余り変わらないかも知れませんが、『~火の章~』第1話から書き直します!
火巫女の見習いたるユメナは、燻っていた。元王族の、災害を防ぐ──特に火災を防ぐ鎮守の舞を舞う娘として。
そもそもが、火の『禁呪』の試し打ちをするのが悪いのだが、それによる火災を鎮守する為に舞い、失敗した場合、解約される。
解約が、良い事な訳が無い。失敗したから解約されるのだから。
良くて奴隷、最悪、死罪を申し渡される。
伝統的な舞いを日々練習し、鎮守の祭りで披露する。ユメナは、未だその初舞台も踏まずに居た。
優秀な者は、待遇も良いし、場合によっては他国に派遣される。中には、王族に見初められて結婚、と云う形で引退することもある。
火巫女は、乙女であることが求められる。穢れ無き身体でこそ、鎮守の舞は効果を齎すと云う言い伝えに従って。
故に、完全なる女性社会だった。身の回りの世話をする者も、全て女性だった。
唯一、例外的に王族のみが、立ち入りを許可される可能性があった。ただ、重要な案件の時のみであり、下らない用件の場合、王族でも立ち入りを禁じられる。しかも、可能な限り女性の王族が立ち入ることを求められる。不必要に男の王族は、火巫女の住む神殿に入ることは出来ない。
舞の訓練は、厳しいものだった。一つでも解釈違いの動作があった場合、必ずやり直しを求められる。
一度でも間違いなく鎮守の舞を舞えた時、初めて正式な火巫女として、初舞台を舞う。そして、半々位の確率で失敗し、解約される。だから、初舞台の自信がつく迄は、ワザと訓練の舞いで失敗するのだ。失敗する癖がつかないように、毎回、違った形で。
但し、鎮守の舞いには意味があり、立ち向かう災害によって違う舞いを舞わねばならぬ故に、地震・雷・火事・山親父──熊の出没、病、事故、魔物の討伐等、最低でも7種類の舞いで合格を貰う必要があり、毎回、合格を貰った舞いも再挑戦を求められる。
国の上層部としても、火巫女の存在は重要であり、未熟な火巫女を鎮守の舞いで使う訳にはいかないからと云う事情もあった。
そうして、熟練した火巫女が、生涯を独身で生きる覚悟と、失敗したら解約されてまともな生き方は出来ないものとしての覚悟も決め、見習いから正式な火巫女になるのであった。
中でもユメナは優秀な方で、大抵は18歳~20歳で合格を貰う火巫女の中、僅か14歳で全ての舞いに合格してしまった。
最年少記録は12歳なので、記録は塗り替えられなかったが、『100年に一人の逸材』として、神娘との異名で呼ばれ、一目置かれていた。
ユメナは舞いの動作の意味の解釈を、全て暗記して合格を勝ち取った。
本来ならば、喜ぶべきことだった。
だが、その優秀さ故に、国から外交の手段として用いられることが、初舞台を見事に完璧に舞い上げ、注目を集めたことから決定された。故に、派遣されるまで燻った訳だが。
ユメナは、祖国に尽くすことが出来ないことを知った時から、ただ一つの事だけを願っていた。
即ち──風神国に招かれますように、と。
火巫女たちの女性社会だからと云って、世間の情報に疎いなんてことは無かった。中でも外に出ることの多い世話役の耳年増な女性たちが、外の世界の情報を拾ってきて、皆でそれを噂し合い、噂に尾鰭が付いて火巫女たちの社会に蔓延するのだ。
中でも風神国は、とても裕福な国として、有名だった。だからユメナは、出来ることなら風神国に行きたいと思っていた。
彼女だけでは無い。現在、『八ヵ国同盟』が成ったが為に、火王国の他の七ヵ国全てに、火巫女が送られようとしていた。
ユメナは知らなかった。風神国の風土病が『風邪』で、特効薬が無いと云うことを。そして、万が一、風神国に送られることがあるとするならば、新しい舞いを創り上げ、それでも効果が無かったら、解約は免れないと云うことを。
だから、ユメナだけが『風神国』行きを希望していた。他の六人は、殆どが『天星国』行きを希望していた。
そして、希望を訊いたのだから、その意見は出来る限り尊重すると云う配慮が為されたが故に、ユメナは希望通りに『風神国』行きとなり、過酷な運命を押し付けられようとしていた。
ユメナは知らない。だが、送り込む寸前になって報せられた。
ユメナの顔からは血の気が引いていた。そして、風神国に送り込まれる魔空船の船室内で、全ての舞いの動作の意味を思い出しながら、必死の思いで『風邪』の撲滅の舞いを考案していた。
ユメナは風神国に、大いに歓迎されて出迎えられた。それだけ、火巫女への期待が大きく、又、風邪が厄介な病だと云うことだ。
そして、歓迎の宴会の中で、ユメナは現風神王・ミスターに質問を一つ許された。
「『風邪』とは、如何なる病なのですか?」
それに対して、ミスターはこう答えた。
「ウィルスに因る病で、くしゃみや鼻水、発熱・喉の痛み、倦怠感等の様々な症状の出る、特効薬の無い病だ。
特に今は、『コロスナ・ウィルス-ID666』が新たに現れ、猛威を振るっている。
火巫女嬢には、そのウィルスの特に王族への罹患を防ぐ舞いを舞って頂きたい」
「……因みに、定例通り、10年ぶりの火巫女の派遣の交代となった訳ですが、先代の火巫女の腕前は如何でしたでしょうか?」
「少なくとも、王族には罹患した者が出ない程度には効果があったよ」
「左様で御座いますか……」
つまり、王族に罹患した時点で火巫女失格となる訳である。
これは、ユメナに大きなプレッシャーを与えた。
「──国民の皆様へは、如何でしたか?」
「貧民の食事状況も良くない者に、僅かながら死者が出るほどだったよ」
「死体の処分は?」
「全て、焼却した上で弔った」
「それは賢明な対処で御座いますね」
ならば、舞いには『王族』を意味する動作を加えなければならない。
そんなことをユメナは考え、そして舞いの構成を決めていった。
「鎮守の舞いは、三日後から始めて貰う予定だったが、構わないだろうか?」
「いいえ、その三日で被害者が出る可能性を考えれば、今すぐこの場ででも──」
「流石に早かろう。時差もあることだ、一晩休んで、明日から。
最悪、その一晩で犠牲者が多少出ても構わない。万全な状態で鎮守の舞いに臨んで頂きたい」
「……即興で、効果は期待出来ずとも、宴会の見世物として程度でよろしいので、舞わせて頂けませんか?」
「ウム、そう云うことであれば、構わないだろう」
「では、失礼して」
ユメナは、宴会場の中央に空いたスペースに移動し、「剣舞でも構いませんか?」と許可を取ってから、刃を潰した剣を二振り取り出して、剣舞を舞った。
失礼を承知の上で、『王に近付くウィルスを切り裂く』と云う解釈を交えて、緊張感のある剣舞だった。
ミスターは王族とあって、剣を間近で振られても、『まさか本当に斬ることはあるまい』と思い、肝の据わったところを集った国の重鎮に見せ付けた。
一方で、国の重鎮達に対しては、間近で剣を振るような真似はしない。
唯一人、気になる男性が居て、選りにも依って、風神国の第一神子たるマッスターに対して、目前を掠める剣舞を魅せた。
マッスターの対応は、余裕で杯を傾ける程。ユメナに、大変好印象を与えた。ただ、ギリギリを攻める剣の軌道を、杯を持つ手の分だけ控える必要はあったが。
だが、その剣舞に、国の重鎮は大慌てである。万が一にも、マッスターに何かあれば、国が傾きかねない。
問題は、国の重鎮ともあろう者が、慌てる程の動揺を見せたことにある。
ミスターは、後で重鎮全員に纏めて雷を落とすべきだなと考えた。
結果から言えば、杯を傾ける為に顔の前に手を出しても、あと1ミリ届かないと云うギリギリの剣舞を魅せたユメナには、一同揃っての拍手と云う評価だった。
「火巫女嬢──ユメナと申したな、見事だ。褒美に何を求める?」
燻っていたユメナは、もう居ない。今は、花開いた立派な『火巫女』のユメナが居る。ただ、緊張感に冷や汗を掻いたユメナは息が乱れていたが。
「──今の舞いに対する褒美と云うことでしたら、目前を剣が通る時に、敢えて杯を持った手を運んだ、あの御仁とお話しする時間を頂ければと」
「フム。随分と欲の無い……否、違うな。逆だ。随分と欲深い娘と見える。
良かろう。マッスター、火巫女嬢の話し相手をせい」
「はい、父上」
ユメナと齢の変わらないマッスターは、興味深げにユメナに近付いた。
二人の話題を晒すのは、無粋と云うものであろう。




