第20話:風土病
結果論、スターは地底国王女から始まって、風神国王族に迎えられ、ОGとなった。とても幸せなことだと言えるだろう。
ただ、地底国が貧しかったこともあって、身体の抵抗力が強く、風邪一つ引いたことがないのが問題視された。
風邪は、風神国古来からの風土病なのである。
他の国では、余り風邪が流行ったと云うことは例が少ない。
これから、風邪が流行った際に病が重篤化することが危険視された。
何しろ、風邪は感染った人の体内で進化し、より重い風邪になるのだから。
スターの体内で進化した風邪が、恐るべき病になる可能性も、無きにしも非ず。
だから、サッサと一度風邪に掛かって、風邪に特有の抵抗力を備えていて欲しいのだ。
これは、風神国の一方的な都合だった。スターからしてみれば、重篤化する風邪になぞ掛からない方が良いのだ。
だが、スターは不老長寿の宿命を帯びている。一度くらい、風邪に掛かることは予想されるのだ。
その際に、直ぐに気付けば未だ良い。気付きが遅れた場合、パンデミックを起こす可能性がある。
一応、医師の心得のある王族ОBと云うのも存在していた。
スターは、風神国王族となってから、ほぼ毎日、医師の心得のある王族ОBに問診を受けていた。
何故だろう?と思っていたら、ミヲエルから事情を聞かされたのだ。
知らされてみれば、スターも納得する。何しろ、地底国では『地腐れ』と云う病が深刻だったからだ。
ただでさえ育ちの良くない作物が、一時的に成長しなくなる。但し、『地腐れ』が治った後は、豊作になる。地が腐った結果、発酵して良い栄養素を含む土に変わるからだ。
スターは念の為、そのことをミヲエルに相談しておいた。返事の第一声は、「知っている」と云うものだったが。
『地腐れ』は一般的に、ひと月もあれば回復する。但し、周りに感染っていった後にだ。
風神国ならば、食糧の備えは問題ない。むしろ、『地腐れ』の後の豊作の方が、期待が大きくなるらしい。
そう、『地腐れ』は作物を害する程の害は無い。ただ、人間に感染ったら厄介なだけだ。
一般に、『地腐れ』を起こしたら半年は、国交を拒絶する。地底国の病が他国に感染ったらクレームを付けられない為にだ。
そして、地底国の王族は、『地腐れ』の菌の保菌者であることが殆どだ。
故に、スター経由で感染しかねない。
『地腐れ』の人間への影響は、最悪死に至るものの、専門の医師が居れば、落命することはまず無い。
症状としては、強い倦怠感。発熱。発疹。この三つが特に大きな特徴だった。
故に、その菌に耐性を持っているスターは、風邪如きで参る訳が無い。
スターは、そう思っていた。
「風と地、どっちの方が強いのかなぁ……」
ミヲエルは、暢気にそんなことを言った。
「風は地に恵みを齎し、地は風に病を運ばせる。故に地の方が強いのでは無いですか?」
スターの意見と云うか、考えはそうだった。
「うーん……。過去の記録を確かめてみたのだけれど、ここ百年は、風神国で『地腐れ』は起こっていないのだよ。
対処法を知らない人が殆どだから、パニックを引き起こしかねないと思ってね」
「対処法など、放置の他に何もありますまい。
それでパニックになりますか?」
「放置!?水を遣ったりはしないのかい?」
「『地腐れ』は水の過多で起こることが多いですから、むしろ水捌けを良くした方が、症状は軽いですよ。
人に感染っても、水分の摂り過ぎは却って毒になりますね。
脱水症状寸前まで水を絶った方が、治りは良くなると言われておりますが……」
「──それ、大事な情報だよ?王族ОB・ОGに報せて良いかい?」
「構いませんけれど……。
お役に立てますでしょうか?」
「ああ、うんとね」
「あと、感染者の便は、発酵するのを待ってから畑に撒いた方が良いと訊いたことがあります」
「えーと……。医師の心得も無い君がそこまでの知識を持っているなら、国の医師同士で情報交換した方が良いと思うのだけれど、どうかな?」
「──私が間を取り持てば宜しいでしょうか?」
ミヲエルが笑顔でうんと頷いた。
「よろしくお願いするよ」
「はい、任されました」
コレは、八ヵ国それぞれに風土病があるのだろうなと、ミヲエルは覚悟して、他の六ヵ国とも情報を共有するべく、動くべきだろうなと判断した。
ただ、コレは国の問題になるので、実際に実行者は国の代表同士と云うことになる。
ミヲエルは、よくぞ問題を取り上げてくれたものだと、スターを褒めた。
過去に、そう云った問題が八ヵ国を通じてやり取りしていなかった訳では無い。
ただ、過去百年ほどは、情報の最新化をしていなかったことに問題があり、恐らく、新しい風土病の発見もされているのだろうと予想される。
対処法が判っている病なら、まだマシだ。問題は、対処法が判っていない風土病だ。
まぁ、『風土病』と云うだけあって、風神国と、土の近似属性である地底国に有名な風土病があっただけなのだが。
強いて言えば、他にも全く無い訳では無いのだが。火王国の『火熱症』とか。
コレを以て、スターが地底国の元王女として、風神国に貢献できることは無くなった。
あとは、余生を愉しむばかりだった。
フライトカーレースに於いては、偶に優勝するダークホースであり、賭けが当たると大儲けをさせてあげる、『福の女神』であり。
『勝利の女神』は三回に一回、必ず裏切るが、スターは三回に一回、大成功を齎す『福の女神』として、シンデレラストーリーを超えて神話と化しつつあった。
そんなスターの物語も、ここまでだった。
次は、火王国の『火巫女』であるユメナの物語であるが、暫く時間が掛かる。
乞う、ご期待!




