第17話:レースを終えて
レース終盤。
スターは、二位をほぼ諦めていた。
だが、三位は死守する!
そんな覚悟で、スターは疾走っていた。
残り約1000キロ。ミヲエルは、既にゴールしている。
昼に近い光を浴びながら、スターは最後の切り札を切った。
即ち、9Gまでの加速をしながらの降下からの浮上である。
流石に、二位の機体は抜けなかった。だが、危うく追い抜く寸前まで迫っていた。
二位を取るべきか否か……。
迷っている間に、ゴールの光の輪が見えて来た。
スター、無事に三位でゴール。表彰台に上がることが決定した。
だが、無事に着地するまでがレース。スターはゆっくり減速していき、空を翔ぶ心地よさを感じながら地底国の借り受けた土地に着地した。
「お見事!」
迎えてくれたのは、拍手をしているミヲエルだった。
「でも、ちょっと頂けないな。
最後、もうちょっと無理していれば、二位を取れただろう?」
「……一位を取れるのでしたら、無理もしたのですけれども……」
「成る程。『金に同じ』で銅メダルを狙ったのか。
その年齢で、そこまで悟っているのは誇って良いと思うよ」
そう言われても、スターは既に成人を迎える18歳にもう少しでなると云うのに……。
それに、年齢で言えばミヲエルの方が一つ下だ。
「まぁ、僕は『一位の景色を見た』人間として、こう誇っているのだけれども」
やはり、一位になると、見える景色が何か違うらしい。
「……惜しいな。未だあと1年くらい、レースを疾走って競って居たかったのだけれども。
でも、子供を儲けるのも、神王座継承権を持つ者として、半ば義務だと判っているのだけれども」
恐らくは、ミヲエルは初参加で三位を取ったスターが、レーサーとして惜しいと云う具合の意味であろう。
「でも、私は殿下に迎えられて、こんな幸せなことは他にありません」
「僕も。君を迎えられることが、こんなに幸せなことだとは思わなかった」
二人は、お互いに吸い寄せられて、キスでもしかねない勢いであったが、近くで咳払いをした者がいて、我に返って取り止めた。
「さあ、表彰台に行こうか!」
「──はい!」
とても幸せな、時間だった。
そして、それをぶち壊す発言をする者が一人。
「俺が、俺様こそが、『ミカを得る』、即ち『ミカエル』だぁー!」
子供じみた発言だが、当の本人は本気であった。
それに対して、ミカ本人は、否定するでもなく、トウキチに抱き寄せられるままに身を託した。
「何か、嫌らしい……」
「本当だね。でも、ミカ嬢本人は嫌がっていないから、放っておこう」
「はい。行きましょう、表彰台に!」
二人と二位の風神国のレーサーは、満面の笑みで表彰台に立ち、メダルを受け取って皆に祝われた。
優勝したミヲエルは、安物の発泡酒の瓶を振り、シャンパンシャワーを浴びせた。
スターも、ミヲエルから渡されたそれを振って、シャンパンシャワーを浴びた。
そして、瓶に残った僅かな発泡酒を一口飲んだ。──勝利の美酒の味がした。
ミヲエルもそれを奪うように手に取って、一口飲んだ。恐らく、優勝での勝利の美酒は、一味違うだろう。同じ酒でも。
二人は一晩を水帝国で過ごし、酒のすっかり抜けた頃になってから、挨拶をして凱旋帰国した。
そうして、スターはパレードまで行わないものの、ミヲエルは昨年と同じくパレードを開催したと伝え聞こえた。
スターは、これから本格的にミヲエルの婚約者として、そして間近に迫る結婚式へ向けて、花嫁修業を積むのだった。
一方でミカも、トウキチの婚約者として、迎えられる準備を整えていると云う。
どうやら、両者の結婚式は、日程が丸被りらしかった。
お陰で、どの国がどちらの国を重視する外交をするのか、はっきりと判り易くなって、悪くはなかった。むしろ良い。
それでも、どの国もどちらの国も蔑ろにするような人員の派遣はしなかった。
少なくとも、王族ОB・ОG。
王族本人が向かったのは、水帝国が天星国に、火王国が風神国に参った程度だ。あとは、当然、地底国王・王妃は風神国に、氷皇国王・王妃は天星国に参った。
風神国では大いに祝われたが、天星国では、同情票が多く集まったと言われる。──勿論、ミカへの同情票がだ。
だが、ミカ自身は同情される程、不幸だとも思っていなかった。仮にも、フライトカーレースで自身に勝った相手だからだ。
フライトカーレースからは引退し、トウキチと子作りに励まなければならなかったが、そんなもの、天井の染みを数えている間に終わる。
同日夜、双方初夜を迎えたが、無事に済んだ。
翌年、二人は子を授かった。
スターは女児・ナナホシ・ウィンドを。ミカは男児・キクマル・セレスティアルを。
二人は複数人用のフライトカーに幼い頃から乗り、多少の加速圧も経験していくことで、将来、フライトカーレーサーとして競い合うことになるのだが、それはまた、別の話。
スターは引き続き、子作りに励まなければならなかったが、苦痛では無い。むしろ快楽だ。
第二子として、男児を授かり、ミヲエルの『ミ』とスターの名を頂き、『ミスター』と名付けられた。
後にスターは後悔するのだが、スターとミスターの聴き取り違えが多発することとなる。
だが、ナナホシは獅子座の産まれ故に天道虫の名前を与えられたが、スターとミスターとの三人で、『星のアラシ』が成立した。
それは、三人の人生の勝ち組人生の象徴となる名前であり、ミヲエルとスター不在のフライトカーレースで、一二を争う間柄となり、姉弟、仲良く競った。
共に『キロコア』搭載機に乗り込み、タイムもミヲエルに引けを取らない。
又、キクマルもフライトカーレースに出場するのだが、ナナホシとミスターには負けた。
ツキだけでは勝てない。けれども、三位は勝ち取れるツキは持っていたのが、『菊』の付く名前を持つキクマルの『鬼ヅキ』であり、その差は、単純に『キロコア』の存在にあった。
キクマルが知れば、『チートだぞ!正々堂々と戦え!』と言われてしまいかねないが、『キロコア』の存在そのものが、風神国の秘密なのである。
ミヲエルとスターにして思えば、ナナホシはさっさとキクマルに嫁いでしまえ!と云う話になって来るが、キクマルはトウキチを反面教師としてスタイル良く中々の恰好良さなのだが、その父親であるトウキチが嫌いで、ナナホシはキクマルには嫁ぎたくないなと思う次第だった。
それこそ、トウキチがミカに対して行ったように、賭けレースをして勝てばいいのにと云う話だが、『キロコア』と『風の加護』の二つのハンディキャップ、コレを乗り越えるのは中々に厳しかった。
そもそもが、風神国は『キロコア』の存在を他国にバラさないように秘匿して来たので、厳しい耐圧トレーニングをクリアしたナナホシとミスターにしか扱えなかったし、所持する事も出来なかった。『キロコア』は、風神国が氷皇国に『アルフェリオン結晶』の『真球』だけを要求して独自に造り、ソレを積む構造を独自に設計して、車体も氷皇国に作成を依頼しているのだが。
ただ、厳しく情報統制した訳では無いので、地底国の一部の者は『キロコア』の存在を知りながら、その存在を秘匿し、扱えるパイロットの育成を頑張っているのだが。
一方でミスターは、キクマルの妹、マツキの程良いぽっちゃりした美人である彼女に懸想しており、キクマルに向かってこう宣言した。
「次のレース、僕が優勝したら、マツキを僕が貰う!」
ナナホシは大反対したが、相手は天星国の星姫だった。ミヲエルもスターも「良いんじゃないの?}と云う意見だったし、キクマルもレースに負けるのは癪だが、マツキの嫁ぎ先として、風神国は絶好であると判断し、その賭けに乗った。
結果は言うまでも無く、優勝ミスター、準優勝ナナホシ、三位に風神国の王族ОBが入り、四位にキクマルだった。
そうして、ミスターの嫁はあっさりと決まり、子も一年ですぐに男児を授かり、ミヲエルが王座を退き、フライトカーレースに復帰し、ミスターが王座に就いた。
「どれ。父さんの実力を見せてあげようか!」
そう言ってナナホシと優勝の座を競い合うのだが、やはり、若い力には勝てず、呆気なくナナホシに優勝を掻っ攫われた。
「私の旦那とならん者は、せいぜいこのフライトカーレースで、私に勝っておく事ね!オホホホ!」
そうは言うが、『キロコア』の搭載も無しにナナホシに勝つのは中々骨の折れる話であり。
ナナホシは、生涯を独身でフライトカーレースに人生を継ぎ込む位の意気込みをしており、ミヲエルが娘の幸せの為にこう言った。
「もし父さんがナナホシに勝ったら、ナナホシは父さんが指定する相手と結婚して貰うよ?」
「オホホホホ!父上が勝てましたら、その言葉に従いまするわ!」
まさか、自分の娘を不幸にする結婚相手を探しては来ないだろうし、ナナホシは望む相手が見つかったら、ミヲエルにワザと負けてでも結婚しても良いかな?と思っていた。
そして、キクマルがミヲエルに対してこう言ったのだった。
「お義父さん、良かったら、ナナホシさんを俺に!」
だが、マツキはミスターが望んで勝ち取った相手だから仕方なしと判断したが、キクマルはナナホシの相手として疑問符が付いた。
「君にお義父さんと呼ばれる覚えは無いがね!」
しかし、娘の嫁ぎ先として、天星国は豊かな国で望ましいのも確かだった。
「ナナホシが欲しかったら、レースでナナホシに勝つことだね!」
そう突き放したが、この時、密約を交わして、一個のみ、『キロコア』がキクマルに譲渡された。
当然、特別機を天星国はキクマルに買い与えるが、果たして、キクマルがナナホシに勝つまで、何年掛かることやら……。
この時点で、キクマルもナナホシも21歳だった。
一般に婚期とされる時期は過ぎそうな様子だったが、スターも『キロコア』搭載機に搭乗してナナホシとミヲエルと共に風神国の代表としてレースに出場し、万が一に備えて優勝を狙えるだけのトレーニングは積んでいた。
『キロコア』への慣れは、ミヲエルに願い出て瞬間最大13Gにも耐えたが、グレイアウトは起こすものの、問題なく乗りこなせそうだった。
操縦のコツもミヲエルから習い、ミスター、ミヲエル、スターの風神国代表三人が続けざまにゴールし、表彰台を独占した。
スターは、キクマルの人柄を見極めながら、万が一の場合には自分が優勝し、他の者の意見を取り下げる覚悟を決めており、王座引退後も、ミヲエルとスターはフライトカーレースで活躍した。
そして、キクマルが優勝してナナホシを嫁に求めるのと、それを場合によっては止める為の対抗意識を持って疾走る者たちとの意思が交錯する。
未だ、『~地の章~』は終わらない。ナナホシが嫁ぐ迄の、ミヲエルとスターの挑戦は続く。




