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八国史〜『新約魔書』世界一のワーストセラー〜  作者: 月詠 夜光
~地の章~

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第16話:ミカのレース

 一方で、ミカは絶望していた。


 このままでは、トウキチにも負け、勝手に賭けられた結果、トウキチの嫁に迎えられる可能性が出てきた。

 中盤での順位は、24機中12位。辛うじて、前半を疾走っている。


 だが、トウキチの順位は9位。スターに追い付くどころの話では無い。


 それもこれも、二位を目指した半可臭(はんかくさ)さ。

 それでも、ミカは四位を取ったことのある、実力あるレーサーだった。

 ミヲエルが見出した秘策を、思いついてはいる。

 現在、最大加速圧7Gで、秘策のメソッドを疾走りながら組んでいた。


「──完成……!」


 ミカは、秘策を即座に実行した。

 一度で2機抜いた。二度目でもう1機抜いた。

 だが、そこでミカの体力の限界が来た。

 少し直線に時速1000キロで疾走りながら、身体と心を休める必要がある。

 そして、同時に食事と水分補給も。


 そして、あろうことか、トウキチに秘策を見破られ、ミカが休憩中にメソッドを組まれていた。


 ミカが秘策を実行、僅かに遅れてトウキチも秘策を実行。トウキチの僅かなリードは、保たれたままだった。


 それを、暫く繰り返す。ミカが休憩したら、トウキチも休憩していた。


 ──まぁ、見た目はアレですけれども、天星国の星王子ならば、妥協の範囲内よね。ミカは、そう妥協案を考え始めた。


 やがて、トウキチが休憩を取りつつも、秘策を実行し始めた。ミカも追従するかのように秘策を実行した。


 周りのレーサーは、何故、自分達が追い抜かれているのか、その原因を判らずに居た。


 そうして、トウキチは遂に四位にまで着順を上げた。ミカは五位だ。


 だが、ここ迄が限界だった。

 これ以上の順位を上げるには、差が開き過ぎていた。

 ゴールタイムにして、1時間以上の開き。

 18.07秒間に約0.708秒削れるとしても、1時間削るには、レース中のタイムでは間に合わない。ザッと計算して、25時間あれば、内1時間削れるのだ。スタートから10時間近く経った今、1時間の差は削るのは不可能と言えた。距離にして、1000キロ近く離されているのだから。

 ソコから先も、ずっと遠くだった。スターに追い付くのも、ほぼ不可能だ。スターが何らかのトラブルで完走出来なくならないでも無い限り。


 そして、スターはオートパイロットに操縦を任せていた。気絶していてもゴール出来る。

 但し、実際にスターがこの時点で気絶していた場合、生命の危険がある。まぁ、気絶していないのだから、大丈夫だが。

 そうして、順位はこの時点で上位五位迄はほぼ決まっていて、(くつがえ)る余地は殆ど無かった。

 ミカも、トウキチが努力を(おこた)り、ミカだけが頑張れば未だ逆転の余地はあったが、7Gと云うのはそう長時間耐えられるものでは無い。故に、今は速度を保って休養を取っていた。食事や水分補給、トイレも済ませる。


 どちらかと云うと、スターが逆転三位を勝ち取ろうとしている事が奇跡のような出来事なのだ。ミカも頑張って五位は充分誇れる順位だった。トウキチは、どちらかと云うとミカの秘策の真似をして便乗しての勝ち上がりだ。尤も、短時間でメソッドを組んだのは、充分誇れる実力なのだが。


 そうして、順位は確定しつつある。

 レース中盤の終わり。ここからは、逆転するのは中々難しい、まぁ六位・七位を競うのが厳しい程度の、差のはっきりと付き始めた、長距離の飛行を楽しむ時間だった。


 いつの間にそんな差が付いたのか。当然、スタートダッシュの時である。

 ミカは、スターを(あなど)り過ぎていた。だが、誰がスターが1年ちょっとのトレーニングで加速圧9Gを超えて耐えられると予想出来ただろうか?


 スターの素質は、一回限りの出場で済ませるには勿体無い程であった。

 だから、きっと復帰を期待されるだろう。


 一方でミカは、イマイチなのだ。本当に、あと一着順位を上げたら、評価が天と地程も違うのに、それを逆転する努力を怠った。

 スポンサーからの資金で耐圧スーツも着用している。そう、風神国と天星国を除けば、珍しい耐圧スーツ着用者なのだ。


 情けないのは、六位・七位を競っている天星国の出場者だ。それでも、耐圧スーツを着用しているから、他の出場者よりは有利だ。

 トウキチも、天星国の星王子なので、特注の耐圧スーツを着用している。そのでっぷりとした身体に耐圧スーツは、苦しそうだし効果が薄そうだが、事実、四位まで着順を上げた。

 (まが)りなりにも、天星国のエースだった。


 そんな相手と、体調が悪いなりに張り合った。今回のミカの成績を責めるのは酷と云うものだろう。

 だが、スポンサーからして見れば、自身の責任とは言え、体調管理が甘かったのは、マイナス評価だった。

 次回は、今回ほどの支援を受けられない。恐らく、簡易携帯食の備えが減るだろう。

 余った分は弟妹に配っていただけに、ミカにとってはツラい現実だ。一応、控えめとは言え、砂糖を使った食糧なのだ。


 スポンサーから支給された経費は、レースの為に使わなければならない。余った簡易携帯食は、イザと云う時の備えとして、後に弟妹に配るとは言え、見逃されて来たのだ。

 だが、来年はそうはいかないだろう。


 ……ん?来年?

 来年には、トウキチに迎えられ、嫁ぎに行くことは、最早ほぼ確定事項だ。

 子を宿しているかも知れない身体で、レースに参加は認められないであろう。

 となれば、トウキチにお願いして、天星国から氷皇国へと食糧支援をお願いする他無いだろう。


 そんなことが、代々行われているのだ。現王妃の出身国は、一時的に少しだけ豊かになる。

 トウキチが星王座の継承権を握っているなら、ミカも嫁ぐことは吝かでは無い。


 何より、得意のレースで結果で自身に勝つ相手だ。見た目はアレだが、ちょっとカッコいい。

 レースの苦しさも理解している筈だ。


 ……ん?そう云えば、四位・五位がほぼ確定してから、急降下からの浮上でタイムを稼ぐのを、ここ3分ほど怠っている。

 イザとなったら追えると、甘く見ているのだろうか?


 だが、ミカはそれ以上、トウキチを抜く行為は辞めておいた。

 わざわざ、拒む理由を作るまでも無い。


 こうして、中盤に於いて、順位はほぼ確定的に決まっていった。

 あとは、終盤戦。油断や隙を晒したら、容赦なく追い抜く。

 だが、油断や隙を晒すまでも無く、時速1000キロを維持して進んでいれば、ほぼ順位は変わらない。


 そして、スターにとっては、二位を競う勝負に、立ち向かうなら立ち向かう、三位で(よし)とするならば、維持して疾走る。

 そんな、駆け引きが求められる場面でもあったのだ。

 そうして、全員が終盤戦を己の覚悟を以て迎える時間が、間もなく訪れるのだった。

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