第13話:レーススタート
スミマセン、時差の設定を忘れておりました。
今度は時差の計算をある程度正確に計算に入れ、設定致しました。
大変失礼致しました。
フライトカーレース、本番当日の朝。
役者は、既に揃っていた。殆どの者が前日夜には風神国港街に泊まり、機体も持ち込んで備えていた。それはスターとミヲエルも例外では無かった。
そして、運命の神様は気紛れを起こした。──風神国王族OBの参加者一名が急な体調不良で補欠と交代したのだ。
風神国の補欠。『風の加護』は持っているが、熟練度で言えば、スターよりちょっと上ぐらいだった。
肝心のミカも、体調不良ながら参加を許されていた。『2位狙い』への呪いは根深い。完治まで13年を要すると言われる。
なのにミカは、「ミカを得る、ミカエルで完璧なのよ!」と、周囲が笑いを誘われるジョークを飛ばしたりしていた。本人は本気なのだが。
予想よりも、体調は良さそうだ。スターと先を競うことは明らかだった。
問題は、スターぐらいのプランを立てている者は多数居ることにもあった。
ミカのジョークに対して、ミヲエルは「『実を得る』でミヲエルなのにね」と、ジョークにはジョークで返していた。そう、『眼には眼を、歯には歯を』で、『呪いには呪いを』で返すのが道理なのだ。『呪いには侵攻を』では、何倍返しをするつもりなのか。『呪いには呪いを』では、呪いは自分にも返って来るから、そう云う選択肢を選んだのだろうが。
ところで、端役ながら、トウキチ・セレスティアルもこのレースには参加していた。だが、未だ2回目の出場で、大した成績は出せていないらしい。
絡んで来るかと思われたが、流石に八ヵ国の重鎮も揃っているこの場で、国の恥を晒す訳にはいかないのか、お付きの者が厳しく止めている。
益々、負けられない。その思いが、スターにプレッシャーを与えた。
緊張に囚われるスターの肩を、ミヲエルが優しく叩いた。
「大丈夫?」
「──予想以上に緊張してしまい……」
「なら、ホラ、深呼吸をして御覧よ。朝の空気は美味しいよ?」
「……美味しい、ですか……?」
現在、時刻5時半。続々とフライトカーがスタートラインに並んでいっている。7時のスタートで、ゴールは現地時刻で翌日午後3時のゴールの予定である。
時差を計算に入れ、ゴール時点の観光客を見込む為の時刻だった。観光目当ての客を見込めないのでは、ゴール地点である水帝国から苦情が入ったが故の、配慮であった。
翌日午後3時のゴールと言っても、それは平均的なレーサーのタイムであり、ブッチギリの一着でのゴールをするミヲエルは、翌昼1時にゴールしても遅い方だ。
二着から三着のタイムが、午後2時から2時半頃。四着のミカの記録タイムは午後2時37分と云うものだった。
つまり、2時半前にゴールすれば、三着に入れる可能性があるのだ。
ミヲエルは、耐圧スーツのポケットから、簡易携帯食を二つ取り出して、スターに一つ手渡した。これがまた、甘さは控えめのドライフルーツを混ぜ込んだクッキーのようで、貧乏国の出身であるスターには美味しいのだ。そこには、ミヲエルがわざわざ手渡した際に込めた、愛情の味なのかも知れなかった。
そう、愛情の味を敢えて定めるなら、甘いのだ。これが辛かったら、特に塩辛かったら、それは愛情とは少し違う味なのかも知れない。
ただ、この簡易携帯食は甘さ控えめ。ミヲエルはちょっとぽっちゃりぐらいが好みだが、それがデブとなると好悪は逆転する。そう、今のスターは、筋肉質で美しい身体のラインを描いているが、贅肉は少な過ぎるのだ。それこそ、睡眠するカロリーすら足りずに二度と目の覚めぬ眠りに落ちるのではないかと、ミヲエルが心配する程に。
勿論、機体にも簡易携帯食は積まれている。約30個。海半球のど真ん中でマシントラブルがあった場合、救出まで食い繋ぐためだ。
スタート前の食事は重要だが、反面、吐く可能性も高い。だが、愛情に愛情で返す為、スターは自分の耐圧スーツのポケットに入っていた簡易携帯食を二つ取り出し、一つをミヲエルに渡して、一緒に食べた。けれど、「もういいからね」と断りを入れられてしまった。
スタート30分前。ピーッ、ピーッ、ピーッ……と云う警笛が13回鳴らされた。搭乗始めの合図である。
スターは愛機に乗り込み、排泄用吸引機を装着し、呼吸器兼吐き戻し吸引用のマスクも装着した。
その様子を観察していた訳では無いが、無事に装着出来たことを、窓の外に立つミヲエルに窓をノックして報せ、サムズアップで合図し、ミヲエルも搭乗に向かった。
計器を確認する。意識レベルは7だった。理想的だ。
水を少し飲む。……うん、地底国より風神国の方が、水でさえも美味しい。
そう、水の補給に風神国の水は如何かと打診があったので、頷いておいたのだ。まさか、ミヲエルの監視下で、妙な水を入れられる筈も無い。
しばらく待ち、ピーッ、ピーッ、ピーッとの三度のホイッスルが鳴った。スターは高度1メートルまで浮上する。
緊張する一瞬。
でも、フライングするぐらいなら出遅れた方がマシだとミヲエルに教わっている。
ピーッ、と云うホイッスルが一回鳴り、それを確認して各車がスタートした。
一人、ずば抜けてスタートダッシュをしたのは、恐らくミヲエルだろう。
だが、フライングは無い。
レースが、いよいよ開始した。
スターは、課題クリアの為のメソッドを冷静に起動し、1秒で4Gに達し、その後、10.64Gまで加速することになる。
そう、泣いても笑っても、結果に賭けが為されているレースに、今、スターは初めて挑戦しているのだった。
最小でも2.92Gが掛かる。だが、何度も練習したことだ。
あとは本番でその成果を出せれば、順位なぞ何着でも構わない。
そんな覚悟で、スターは愛機を疾走らせているのだった。
切り札が、切り札たり得るか否かも定かではない。
だが、そんな中、スターは中団の先頭に立って、疾走っているのだった。
ミヲエルが立てたプランは、信用するしかない。
そして、早速、スターは視野狭窄が始まるのだった。




