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八国史  作者: 月詠 夜光
〜風の章〜
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第5話:『禁呪』

 はぐれのホワイトウルフを狩ること数日。


 遂に、ホワイトウルフの捌きの腕前を、ヴィジーから「合格」と言われた。


 それでもなお、二人の手捌きには、金額にして倍ほどもの差がある。


「ココからが徐々に徐々に腕前を上げて、解体の腕を『一流』と言わせるまでに至る道のりだぜ」


 つまりは、半年や一年では追い付けない程度には、二人の間には実力差があると云う話だった。


 そうして、小銭と云うにはちょっと大きな額の稼ぎを叩き出して、アイヲエルは充分な資金を得た。


「良し!屋台を喰い巡るぞ!」


「はい、親分」


「あい、親ビン」


 そうして、屋台通りを巡って、串肉だのを買い食う三人。代金はアイヲエル持ちだ。ミアイ、ヴィジー、フラウの三人は、付き従うも、ほとんど食べる事は無い。


 ミアイに関しては、マナーの問題で、串を素手で持って刺さった肉を口で直に食べると云うのには抵抗があった。ヴィジーは既に慣れているから。フラウは、付き合いで偶に食べた。


「良し、もう一軒だ!」


「親分、、アッチの屋台が美味しそうです!」


「親ビン、オレの鼻が、あの屋台が良い匂いを放っていると報告しております!」


「よし、両方食うぞ!」


「あい、親分」


「オウ、親ビン」


 こうして、次々に屋台の食事を続けていく。


 迷宮入りに関しては、ヴィジーから強く警戒の声が掛けられたが、屋台の買い食いには(とが)める様子が無い。


 せいぜいが、「食い過ぎるなよー!」と声を掛けられる程度で、出資がアイヲエルである限りは、咎められなかった。


「良し!今日はこのくらいにしておこう。


 また食いに来ような!」


「はい、親分!」


「あい、親ビン!」


 一頻り食べて満足したアイヲエルは、今日のところはと区切りを付けた。


 その次の日は、迷宮上がりで鍛錬を強いられ、ヴァイス&シュヴァルツ対アイヲエルと云う模擬戦が行われた。勿論、用いる武器は木刀だ。


 白黒二人の竜人は、実戦で腕を上げ、舐めていたアイヲエルに何撃か手痛いダメージを与えたが、アイヲエルのスイッチが入り、軽く伸される。


「親分、強いのです」


「親ビン、流石なのです」


 だが、鍛錬が一度で終わる筈もなく、三人は疲れ果てるまで酷使される。


 一方、フラウもただ回復魔法の腕前さえあれば良いと云う話ではなく、ミアイに連れられ、教会で治癒魔法の練習を行い、その際のお布施(ふせ)から少しの金額を受け取って、腕前を鍛え上げていた。


 否、正確には回復魔法ではない。『回復聖法』だった。その、『聖法力』を高める為に、練習に来ていたのだった。


 こればかりは、モンスターを倒していれば高まって強くなっていくと云う性質のものではなかった。実践して何度も繰り返して、『聖法力』を繰り返し何度も使い果たす事で強くなる。


 迷宮で学ぶのは、戦闘の際の立ち回りだった。


 立ち回りを覚え、『聖法力』が高まり、そうして戦力となってゆく。


 そうしなければ、いつまでも足手纏いのままだ。


 奴隷三人は、良い環境に置かれたこともあって、モチベーションも高い。順調に、戦力として伸びて行った。


 そろそろ、他の国に行くべき時期なのかもな、とアイヲエルとヴィジーは何となく、相談するでもなく、そんな感覚を覚えていた。


「次に行くとしたら、『氷皇国』かなぁ……」


 全員が揃っての夕食の席で、アイヲエルはポツリとそう呟いた。


「『氷皇国』は極寒の国だぞ。防寒具の備えが要るぞ?」


 ヴィジーはそう忠告する。


「そっか。防寒具を備えるまで、もう少し稼がないとならないか……。


 そうなるとホワイトウルフの毛皮は──」


「ウム、売り払わずに店に持ち込んで、加工して貰った方が安上がりだな。


 そうなると、今のお前の腕には任せられんぞ?


 捌きに文句を言うつもりはないが、より上等な品を作る為に、儂が捌くぞ?」


「……ですか。


 何頭分必要ですかね?」


「一人、七頭分と考えて、四十二頭。最低でもコレだけ要るな」


「となると、一日ハグレを一頭狩るよりは──」


「多少、リスクはあるが、一日三頭狩るとして、二週間は掛かるな。


 しかも、集めて即座に品物が仕上がる訳でも無い。


 捌き次第、注文をして、仕上がるまで一週間なら早い方かもな。


 都合、三週間は覚悟しよう!」


「何でまた、『氷皇国』は極寒の国にするんだか……」


 その事情には、『禁呪』とされる『空間破壊呪』が大きく影響してくる。


「『風神国』は『禁呪』が完成しているからなぁ……」


「『天星国』の『禁呪』の不可能理論を論文として完成させて、『禁呪』開発を諦めた師匠の方が立派だと思うんですけどねぇ……」


「なまじ、『八属性全ての空間破壊呪』と云う禁呪が完成しているから、躍起になる奴が多いんだよ。


 そもそも、完成している『風の空間破壊呪』も、実際には空間を破壊してはいないからな!」


「……『八属性全ての空間破壊呪』は?」


「完成しているが、その過程の全てが立証されている訳でも無い。実際には空間を破壊していない可能性が高い」


「名前負けした魔法だなぁ……」


 八ヵ国中、六ヵ国が完成を急いでいる『禁呪』。


 『風神国』が完成させていなければ、目指す筈も無い目標だった。


 だが、在位中は『賢星王』と呼ばれていたヴィジーは、『天属性の空間破壊呪』が不可能である事を論文にて証明し、豊かな国造りの一歩目にしたのだった。


 他の国もそうすれば良いのに、とアイヲエルは思うが、国の矜持の問題もあった。


 結果、今現在、豊かな国は『風神国』と『天星国』の二ヵ国だけなのである。


 『天星国』に倣う国は、今のところ現れていない。


 兎も角、アイヲエル一行は今日も迷宮に潜るのである。


 危険は承知の上。だとしても、これから起こる苦難は、生半可ではないことを、未だ一行は知らないのであった。

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