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八国史  作者: 月詠 夜光
~地の章~

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第7話:耐圧トレーニング

 スターは、一年、本当に頑張った。

 その年のレースは無事にミヲエルが優勝し、ミカが相も変わらずの4位。

 スターは、来年こそはフライトカーレース『E-1/2』に参加し、出来ればミヲエル優勝の自分が準優勝、ミカには5位に転落して貰うつもりでいた。


 上位三人の実力が拮抗している。でも、ミヲエルが一歩、リードしていることも確かだ。

 スターは、その三人に対抗できる実力を有しているものか、とても不安に思っていた。

 だが、これからだ。これからの訓練で、上位3位以内に食い込む実力を身に付けるのだ。


 ただ、たった一年の訓練で、あの三人に対抗出来るものか、スターは甚だ不安だった。

 その不安を払拭するために、スターは訓練に身を入れる。


 トレーナーの目から見ても、スターは充分な才能を持っている、ダイヤの原石だった。

 上位3位以内に入れるかと云うと、現段階では無理だろうなとの判断も下せるレベルでしかない。

 ただ、あと一年で『化ける』可能性は、充分に秘めた姫様だとも思っていた。


 ただ、『化け方』が難しい。下手に化けては、選に絡まない。上手に化けることが、スターの今の課題だと、トレーナーはずっとそう思っていた。

 才覚の欠片は感じる。耐圧トレーニングも非常に順調だ。最早、6G迄なら、充分に運転出来てもいる。

 あと一化けが足りない。その切っ掛けが足りない。


 だが、スターは初めてフライトカーレースの観戦をすると、意識がズラッと変わった。

 スタート時点と、ゴール時点しか観れない。だが、それで充分だった。


 特に、スタート時点を直にその眼で観れたのが大きかった。ゴール時点は、風神国が開発して自慢の録画機で、ミヲエルのゴールを観た。それで充分だった。


 途中の駆け引きは判らない。だが、予想はついた。


 スターは、レースの条件である、高度1000メートルに到達してから、高度500メートルまで下がり、高度500メートルでゴールする、そのルートを思い描いた。


 多分、間違いない筈だ。常識となっているレース序盤の高度1000メートルを目指す迄の仰角30度。コレを、思い切って仰角15度で充分だと判断した。

 ただ、高度1000メートルの中を長時間疾走るのは無理がある。高度500メートルに到達してから、仰角30度に変えても問題ない筈だ。


 そして、高度1000メートルに届いたら、一気に俯角30度で、高度700メートルまではそれで充分な筈だ。

 そこから、高度500メートルに至るまで、俯角15度でも、充分な筈。


 別に緻密に計算して弾き出した結果では無いが、その戦略で充分戦える。


 あとは、加速圧9Gに耐え、瞬間的には30Gまで耐える為のトレーニングが必要だった。12G迄は、間に合わないとトレーナーに言われた。


 スターは『E-1/2』を観戦した次の日、少し無理を言って、レース用の機体に乗せて貰った。

 勿論、リミッターは厳しく制限される。最大7Gまでしか出せないし、意識レベルが5を下回ったら、減速するリミッターも設けた。


 ──やっぱりだ!


 スターはそう思った。リミッターが厳しく制限されているとは言え、乗り心地が全然違う。

 これならば、オート走行に設定して、軽食を摂る時間も設けられる。


 そう、一番の違いは、オート走行の設定にあった。

 訓練用の機体にはそんな機能は無い。


 着地も、自動(オート)に任せられる。とても優しい着地を、難も無く自動でやり遂げてくれる。


 だが、スターはオートパイロット機能に任せきりにはしなかった。

 何故ならば、この機能はこの機体だからこそ設定されている機能だからだ。


 それに、スターは未だ瞬間的にしか、9Gに耐えられない。

 それでも、耐圧スーツは、キチンと機能してくれている。何しろ、未だ乗車歴一年に満たないスターに、この耐圧スーツは7Gを平気で耐えられるようにしてくれているからだ。


「通常、乗車歴一年に満たずに、7Gでの操縦を出来るものではない」


 トレーナーはそう言うが、スターはやってのけている。

 恐らく、才能はあるのだろう。

 だが、耐圧才能だけで、レースに勝てるとは限らない。

 レースの道中の仰角の計算だったり、迷わず真っ直ぐに進む選択肢だったり、そう云う全ての要素で(まさ)っていないと、レースで3位入賞レベルを狙うのは難しい。


 そうして、トレーナーはスターに一つの助言をした。


「姫様。実際のレースの時には、高度700メートルから高度1000メートルに至るまで、仰角30度を保ちなさい。そうして、高度1000メートルを越えたら、高度700メートルまでは俯角30度を保ちなさい。それ以外の時は、自由に自分の計算に従って疾走りなさい」


 コレは、高度が上がった時の空気の外圧と、仰角を下げる時に掛かるGを考えての、業界で常識とされている角度計算だった。


 スターも、このアドバイスには何らかの意味がある筈と、従うつもりでいた。


 そうしてスターは、未だ耐圧トレーニングに合格を貰っていない。その代わり、リミッターで制限されて、実際の運転の練習をさせて貰えるようになった。

 未だ、4Gまでしか最大加速圧を許されていないリミッター付きだ。それでも、ちょっと操縦を誤ると、実際には7Gまでは届く可能性があった。

 今日、スターは、その7Gを出す方法を試してしまった。仰角30度から、俯角30度に変換する操作を行ったのだ。まさか、それで7Gに届くとは、スターは予想していなかった。

 勿論、それも考えてリミッターを制限されていたのだが、スターが7Gへの耐圧トレーニングで成果を出していなければ、危ない場面だった。

 最悪、意識を失って落下し、墜落する危険性すらあった。


「ふぅ……危ないところだったわ」


 兎も角、スターは仰角を変える瞬間にはかなりのGが掛かることを理解した。

 勿論、途中の各種データは、後ほど回収してリミッター制限により一層の厳しさを設けるべきか否か、トレーナーが四苦八苦して考えるのだが、最大Gが7Gであることを根拠に、今回は見逃された。その代わり、耐圧トレーニングがより一層厳しくなった。

 当然である。地底国の第一王女。政略結婚に近い形で嫁ぐとしても、国と国との繋がりの為に必要な結婚なのだ。

 特に、裕福な風神国に嫁ぐスターは、他の地底国王女に風神国へ嫁ぐことを避けさせるようにする策略が働いたが、風神国との繋がりを大事にする為の措置なのである。万が一にも、事故死なんて死に方は許されない。


 それを判っていたから、トレーナーは今回の瞬間Gの7G到達と云う危機については、国に報告しなかった。

 本当は報告しなければならない事項なのだが、スターの意志を優先した結果だ。その代わり、スターには確りと結果を出さなければ許されなくなった。


 全て、スターにとっては本望なのだ。レースで、上手く行けばミヲエルに次いで2着で、ゴールする事。その結果、ミヲエルにスターが迎えられると云う結末は。

 それだけ、ミヲエルの花嫁と云う立場は魅力的だった。


 そうして、スターのモチベーションは、限り無く高まるのだった。

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