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八国史  作者: 月詠 夜光
~地の章~

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第4話:厳しいトレーニング

 翌日、朝には風神国上空を飛ぶ訓練をする許可が下りていた。

 地底国王の書状が良かったのか、それとも、スターの手紙が神子を通じて風神国王を動かしたのか……。


 そんなことを考えながら、恐らくミヲエルもニマニマしながら手紙を読んだのだろうなと予想したところで、スターは朝食の席で顔を手で覆って恥ずかしがった。


 そんな……ミヲエルにニマニマしながら読まれたのなら、恥ずかし過ぎる……。


 そう思って、スターは急に、「女は度胸と愛嬌(あいきょう)よ!」等と思って記憶から消し去ることにした。因みに、「男は努力と根性だ!」と続く。


 そうして、朝のトレーニングの時間がやって来た。


「今日は、5Gの世界を味わって頂きましょう!」


 トレーナーはそう言った。


「いえ。今日の午後には、7Gまで耐えられるよう、訓練を積ませて頂きたいわ」


 気の急くスターはそう言った。


「そうですね。意識レベルを見ながら、今日は7Gまで耐えられるよう、訓練をするつもりで居ましょう!例え、吐いたとしても!」


 それにしても、揺れも大したことが無いのに、何故、吐くことを前提のように言うのだろうかと、スターは7Gの世界を然程恐れずに居た。


「一度、吐くことに慣れておくことも重要ですからね」


「──えっ!?」


「え……?!」


 トレーナーとしては、吐く覚悟が決まっていないのは、少しだけ不安だった。

 何しろ、フライトカーレースと云うものは、別名『E‐1/2(アース-ハーフ)』と呼ばれる程に長距離を飛んで競うレースで、そのタイムは20時間を切るか否かと云うレベルの大会で、レース中に食事をも行なうからだ。

 だから、吐くことに慣れていないと、食欲が湧かず、睡眠を取るのは一部の剛毅(ごうき)なレーサー達だけである。食事を摂れずに意識低下を起こして気を失った場合、最悪、命に関わるからだ。


 まぁ、一部の平気なレーサーは、吐き気も(もよお)さず、普通に食事を摂れるから、然程心配もしていないのだが。


「まぁ、レース中に食事を摂れれば、それで充分です。

 因みに、レーサーが好んで食べる食事が──コチラです」


 そう言って、トレーナーは固形携帯食を取り出した。


「腹には溜まりませんが、栄養は充分。加えて、圧倒的に食べるのが楽です。

 試しに、お召し上がりになってみられますか?」


「ええ。試しに食べておくことも必要でしょう」


 そう言って、スターは恐る恐る棒状のクッキーのような食べ物を手に取り、食べてみる。その際、折角(せっかく)だから吸引マスクを着用の上で、その固形携帯食を差し込むように口に含んだ。


「あら……美味しい。

 ドライフルーツを使っているのね」


「ええ。コチラなら、食べやすいかと思われます。

 あと、水分の補給も忘れてはなりません。脱水症状になると、フライトカーの中で倒れる事態になりかねませんから、定期的に水分を摂取して下さい。

 用を足したい時の為に、レース中は下半身に吸引装置を取り付け、いつでも用が足せるようにしますので、そちらもご心配なく。

 まぁ、緊張感と汗を掻くことで、レース中に用を足すことも無いと云う場合もありますが、飽く迄も念の為の処置です。

 耐圧スーツには、ソレを着脱し易いような工夫も施されておりますので、本番前には練習しましょう!」


「ええと……それは、見られないで練習することは可能なのかしら?」


「当然です!

 装着を確認するセンサーも搭載して御座いますので、キチンと装着出来ていることも、その際に確認が取れます。

 ええと……あとは……」


 トレーナーが指折り確認する。


「そうそう、アラートが鳴ったら、高度が高過ぎるか低過ぎるので、その辺の調整も出来るようになっておきましょう!

 場合によっては、緊急停止しましょう!緊急停止が出来るか否かで、生存率は何倍にも高まりますから、まずはその操作を覚えて頂きます」


 トレーナーは各種リミッターを設定し、車内をドアの外側から覗かせながら、スターに各種操作を説明していった。

 そして、最初に教えたのが、左側腰の横辺りにある、サイドブレーキのような操縦桿だった。


「コレを引き上げれば、一発で車体は停止します。断っておきますが、本当に緊急に停止したら、減速圧で身体がヤられますから、ブレーキが左のペダルですので、それを踏んでから、この緊急用ブレーキを引き上げて下さい。

 緊急停止の衝撃も、覚えておいた方がよろしいでしょうから、今から体感して頂きます。

 さ、後部座席へどうぞ。シートベルトを忘れずに!付け忘れたり、付け方が甘かったら、身体が前方へ投げ出されますよ!」


 トレーナーは一度降りて、操縦席のシートを前方に倒し、後部座席にアースを乗せる。シートベルトを確認して、シートを戻し、コクピットに座った。


「まずは、減速圧4Gを体感して頂きます。

 原則、それ以上の減速はしない方がよろしいかと思われます」


 そう言ってトレーナーはゆっくりめに加速し、時速14キロぐらいで疾走った。


「この速度でも、1秒で停止すると4Gもの減速圧が発生しますので、ご覚悟を。参りますよ!」


 1秒で緊急停止操縦桿を引き上げるトレーナー。成る程、確かに、今現在の感覚で、スターにとってはキツめの減速圧だった。シートベルトが身体に食い込むのが判るぐらいにはだ。


「通常、緊急停止はこの操縦桿を10秒掛けて引き上げます。すると、時速140キロぐらいまでは、無難に停止できます。

 ただ、最高速で疾走っている時には、ブレーキを踏んでその位の速度まで下げてから緊急停止しないと、最悪、死にます!」


 簡単に飛び出した、『死』と云うフレーズ。成る程、訓練が必要で、尚且つ、人間の限界に挑むようなレースになる筈だ。

 スターはそれを理解して、それでも、ミカには負けたくないと云う一心で、フライトレースへの参加に向けて、訓練を積むことを決めた。


 その覚悟はそう簡単には(くつがえ)し難く、最早、誰が止めても、最悪自分で訓練を積み、レースに参加するであろう。

 だからこそ、最短期間で『E‐1/2』に参加させるべく、トレーナーはスターへの指導を覚悟したのであった。

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