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八国史  作者: 月詠 夜光
~地の章~

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第3話:トレーニング開始

 そのトレーニングは、先ず挨拶から始まった。


「えー……先ずは姫様」


「姫様?!」


「議論が交わされた結果、姫様の呼称は『姫様』で落ち着きました。多くの大人たちの意見が交わされたとのご覚悟を持ち、その呼称が選ばれたことをご理解下さい。姫様」


 何故、よりにもよってその呼称?!と、若干思わないでも無いものの、他に良い選択肢が無かったのだろうと納得し、スターは受け容れる事にした。


「姫様には、通常のトレーニング方法を適用し、先ずは耐圧トレーニングから受けて頂きます。

 よろしいですか?」


「え、ええ。他に方法も知らないですし」


「他の方法となると、リミッターを厳しく制限して、操縦方法を伝授し、いきなり試運転から始める方法もありますが……。正直、余りにもお勧めできません。

 それがトラウマとなって、フライトカーへの搭乗(とうじょう)すら(こば)むと云う場合もございますし、何より、安全の保証が一切ありません」


「そ、そのような事情であれば、当然かとも思いますが……」


 その言葉を訊いて、トレーナーは一安心した様子だった。


「良かった……。──いえ、お偉方の中には、早く運転させよとしつこい者も居りまして……。

 そのような愚凡(ぐぼん)で無かっただけでも、訓練をする甲斐(かい)があるものと言えまして……。

 さて。いきなり厳しい事を申しますが、耐圧トレーニングと云うのは、言う程楽なものでは御座いません。大抵のレーサーを目指す者は、この段階で諦めます!断言します!苦しいばかりで、ちっとも楽しい事では御座いません!」


 断言するトレーナーに、スターは恐怖すら覚えた。そして、覚悟を決めてこう言った。


「いえ、必要な過程であれば、耐えられる限り耐えてみせます!

 よろしくお願い致します!」


「よろしい。お見事なご覚悟です。

 一般的に、人が耐えられる(加速圧)は、4Gと言われています。そのくらいから、気持ちの悪さを感じると思われます。

 全く訓練をしていない人の場合、6Gぐらいで意識が薄れると思われます。

 訓練をしている者は、全く備えていなかった場合、9Gまで耐えられて、耐圧スーツ着用で12Gまでは耐えられ、瞬間的には30Gまで耐えられると言われています。


 そこで、姫様には後部座席に乗り込んで頂き、まず7Gまで耐えられるよう、訓練致しましょう。

 コチラは、訓練用の機体で、後部座席に座る者の意識レベルをパイロットが確認出来るようになっております。

 意識レベルは、通常時で6~7レベル、興奮時には8レベルを超え、運転時には9レベルあるのが理想と言われております。

 意識レベルが10を超えた場合、極度の興奮状態で夜中に眠れないと云った弊害(へいがい)が生じることが御座いますので、御注意下さいませ。

 逆に、意識レベルが低いと、4~5レベルで眠気を覚え、2~3レベルでほぼ睡眠中、1は意識をほぼ失くした状態で、0レベルはほぼ死んでいるのと同等の意識レベルになりますので、意識を確かに持つことを心掛けて下さいませ。

 又、ココで述べた意識レベルについては、フライトカーレース業界での話で御座いますので、一般に使われる意識レベルとは全く関係が御座いません。


 よろしいですか?意識レベル6以上、加速圧にして4Gまでを、今日は目指すこととしましょう。


 何かご質問は?」


 問われて、スターは困った。今の説明が、どう云う意味を持つものか、よく分からなかったのだ。


「えーと……意識レベルを上げるのにはどうしたらいいのかしら?」


「意識をはっきりと持つことで御座います。

 因みに、私のような生粋(きっすい)のレーサーレベルになりますと、意識レベルは10を超え、睡眠導入剤を飲んでようやく眠りに就くような状態になりますので、高めすぎないようにすることを心掛けて頂けますでしょうか?」


「えーっと……意識レベルが9あると、極度の興奮状態と言えるのかしら?」


「その通りで御座います。

 意識レベルの急降下が一番危険ですので、御注意願います」


「判りましたわ。

 では、乗り込んでよろしいかしら?」


「はい。耐圧スーツは、注文中に御座いますので、レース本番には今の訓練中よりは高いGに耐えられるものかと思いますので、それに向けても訓練致しましょう。

 どうぞ、搭乗下さいませ」


 言われるが儘に、スターはフライトカーの後部座席に乗り込んだ。


「わぁ……!」


 コクピットの操縦桿や各種メーターを見て、スターは軽く興奮した。

 続いて乗り込むトレーナーに、スターは質問してみることにした。


「ねぇ。操縦を軽く教えて頂けないかしら?」


「よろしいですよ。

 まず、この操縦桿ですが──」


 小一時間、(とき)は過ぎ、スターは(おおよ)その操縦を覚えた。


「──ん?

 意識レベルが7ありますね。良い兆候です。

 では、出発致しますよ!」


 ドアが閉じられ、グラウンドの端からフライトカーは浮かび上がる。


「……本当に空を飛ぶのね」


「でなくば、フライトカーとは申しません。

 シートベルトを装着して下さいませ!

 発車致しますよ!」


 ゆっくりとフライトカーが前方上に飛び上がって行き、スターは興奮を覚える。と同時に、身体が後ろのシートへと押しつけられるような感覚を覚えた。


「今、2Gぐらいで御座います。更に加速致しますよ!」


 次第に、シートにビッタリと貼り付いたように動けなくなる。

 苦しい……と同時に、空を飛ぶ感覚が気持ち好い。


「今、意識レベルが8にまで上がっております。

 それ以上、意識レベルが上がらないようにご注意願います!」


 そうは言われても、窓の外に見える景色が物凄い勢いで通り過ぎて行くのを、興奮する以外にどんな気持ちになればいいと言うのか……。


「加速圧、4Gに到達致しました!

 お見事です!意識レベルも、9に届いておりますよ!」


「……!もうちょっと、耐えられそう……!」


「残念ながら、ココまでです」


 速度が一定となり、加速圧も無くなり、グラウンドを周回しながら、スターは理解した。


「……そう。これ以上のスピードを出すには、この国は狭すぎるのね」


「風神国に掛け合いましょう!でなくば、レースに出て恥ずかしくない最低限のレベルの訓練も、積めたものではありません。

 コレは、予想外に地底国が狭すぎました。

 風神国ならば、姫様の訓練に空を自在に飛び回るのも容易かと思われます。

 まずは、許可を頂けるよう、書状で申し込みましょう!」


 それから、フライトカーは少しずつ減速して行き、やがてスタート地点に戻って着陸した。


「ふぅん……予想外に揺れないのね」


「そうで御座いますね。

 シートベルトをお外しになられて結構で御座いますよ。

 明日は、5Gに挑戦してみましょう。念のために、吐いてもいいように吸引マスクを着用して。

 今日は、意識レベルが上がり過ぎで御座いますので、落ち着けるよう、ゆったりとお過ごし下さいませ」


「そんな!今日はまだ大分時間があるのに!」


「風神国に至急で許可を頂き、海も含めて上空を飛ぶ準備をしませんと、私めの腕前でも、このグラウンド内で5Gを出すのは困難に御座います」


「──許可を頂くのに、最短でどのくらい掛かるかしら?」


「そうですね……これから書状を認めて頂いて、私めが届けに参れば、早ければ明日にでも」


「──そう。

 その書状を書くのは、私で構わないかしら?」


「出来れば、地底国王の直筆の手紙が一番ですが……祐筆(ゆうひつ)の方の書状でも問題ないでしょう。

 姫様は、風神国神子殿へと書状を認めると、判断を早めて頂けるかも知れませんよ?」


「そ……それは、一般的にラヴレターと呼ばれるものになるのではないかしら?」


「色気を出せば、そうで御座いますね。

 いえ、むしろ色気で誘って、一緒に空の旅を!……とでも認めておけば、風神国神子も喜んで許可を急いで頂けましょう!」


「……ラヴレターなんて、書いた(ためし)が無いから、ちょっと迷いますわ」


「そこは時間を掛けて、誠意を見せれば、風神国神子の心も鷲掴みに出来る事で御座いましょう。

 むしろ、後で読んで恥ずかしいぐらいの誠意を示すことが重要で御座いますよ!」


 このトレーナーは、何処までの指示を受けて来たのか……。

 スターは、このトレーナーもスターとミヲエルを結び付ける為に派遣されたのではと、そう疑いを持つも、そのように指示を受けて来たのなら、むしろ嬉しいなと云う気持ちで、(はや)る気持ちを筆に乗せて勢いに任せて手紙を認めると、二度読みしてニマニマと笑いながら、これでいいわと判断し、楽しみにして手紙を送りつけるのだった。

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