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八国史  作者: 月詠 夜光
〜風の章〜
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第4話:腕の差

「あー、アイヲエル。今回は迷宮に潜る前に、お前に言っておくことがある」


「はい、何でしょう、師匠?」


 フラウを連れて、最初の迷宮入りの前。空は生憎(あいにく)の曇り模様だった。


「フラウが攻撃される事態になったら、あの子は死んだものと思え」


「……!!」


 余りにも極端なヴィジーの予言。


「──師匠も、多少はあの子を(かば)って頂けないでしょうか?」


「うん、それはそうなんだがな。


 あの子が攻撃される事態になったら、儂はお前さんの身を助けなきゃいけない義理がある。


 故に、あの子は助からん。


 そうなる前に、戦闘を済ませよ」


「……分かりました!」


 意地でも、ヴィジーに助けられるような戦い方はしないと、アイヲエルは決意した。


 迷宮は、神造物だ。歴代の神王が拡大していると言われている。その手によって、ではない。魔法を使って、モンスターを行使してだ。


 故に、ある程度の階層別の難易度と云うものがある。


 未だ、アイヲエル達は第二層にすら入っていない。第一層で、只管シャイ・アント狩りだ。


 第二層入りすら許されていないとは、未だヴィジーはアイヲエル達の戦闘能力を認めていないと見える。


 そりゃそうだ。シャイ・アントにすら苦戦しているのだ。少なくとも、楽勝くらいにはならないと、恐らく第二層は疎か、シャイ・アント以外のモンスター狩りも許されないだろう。


 そう思って、アイヲエルは奮起した。気合を込めて、一戦一戦を戦う。


 そうして、ようやく許可が下りた。次の獲物は、ホワイトウルフだ。


「いやいや、ホワイトウルフって、群れるでしょう!


 そんなの、未だ俺たちには早いですよ!」


「だから、はぐれのホワイトウルフを見つけて狩るんだ。


 お前の俊敏さを考えたら、ジャイ・アントよりは戦い易いと思うが」


「え?ジャイ・アントってそんなに強いんですか?」


「相性の問題だ。竜人二人なら、鈍器だから然程影響は無いが、お前の斬撃では、未だ恐らくジャイ・アントの装甲を斬れない。


 練習不足が原因じゃない、実戦不足が原因だ。


 コレについては、(ワシ)も悪かったと思っておる。実戦なぞ、経験しない方が良いと思っていた」


「──確かに。実戦は、怖い」


 遂にアイヲエルも、実戦の怖さを認めた。勝てるから良いと云うものではない。ノーダメージで勝つことは難しい事なのだ。


「戦いを避けて稼ぐことも可能なのだぞ?」


 そしてヴィジーも、敢えて伏せていた情報を公開した。


「どう稼ぐんです?」


「薬草や、食べられる野草を集めて売ったり、だな」


「儲かるのですか?」


「否、小銭稼ぎ程度だな。


 でも、シャイ・アントを狩るのと同等くらいには儲かるぞ?」


「因みに、ホワイトウルフを狩るともっと儲かりますか?」


「ああ。シャイ・アントよりは一桁上だ」


「……勝てますか?」


「単独ならな。仲間を呼ぼうと遠吠えした瞬間に、喉笛を搔っ切るのが一番楽だな。


 斬撃の練習になるから、アイヲエル、お前には良いトレーニングになるぞ」


「じゃあ、立ち回りの打ち合わせをして、単独のホワイトウルフを探しましょうか!」


「はい、親分!」


「あい、親ビン!」


 相変わらず、竜人二人は明るかった。フラウは不安半分だったし、ヴィジーは師匠としての厳しい顔、ミアイは呆れた表情をして、それでもアイヲエルに付き従った。


「逆に、デメリットは何ですか?」


「シッ!奴ら、音には敏感なんだ。匂いにもな。六人がかりなら、逃げ出しかねんぞ?


 先制で一撃良いのを食らわし、抗戦的になって貰わないと、単独のは狩れん!


 手信号で合図するぞ。ついでに、今の内に手信号の使い方を伝授しておく」


 そう言って、ヴィジーは手信号を伝授して、皆が大体覚えた頃に単独のホワイトウルフを探し回った。


 突如、ヴィジーが手信号を発した。その内容は、『止まれ!』『居た』『アイヲエル』『お前、行け』『先制の一撃を入れろ』だ。


 アイヲエルが頷く。そしてヴィジーの指差す方を見て、単独のホワイトウルフを見つけた。


 最初は、一対一と思わせて、油断させる。その内、盾役兼打撃アタッカーの竜人二人が行く手を遮る。ホワイトウルフが仲間を呼ぼうと遠吠えを上げようと顔を上向きにした瞬間を狙って、アイヲエルがその喉を横に搔き斬る。


 それでオシマイだった。


「良し!サッサとその死体を回収して、帰るぞ!」


 この場で捌くでも無く、ヴィジーは空間魔法を使って亜空間にホワイトウルフの死体を回収し、隊列を整えさせて、油断なく最短距離を帰った。


 そうしてギルドの解体場を借りて、ホワイトウルフの皮を剝ぎ、牙を抜き、肉も食べ易いように捌いた。


「今回は儂が捌いたが、次の次ぐらいからアイヲエルに任せるぞ。それまで、見て技を学び取れ」


 アイヲエルからすれば、『次の次』ぐらいだと、まだ早過ぎる気がしたのだが、ヴィジーの教育方針は実践式であり、最初は失敗してもいいくらいのつもりでそう言ったのだった。


 序でに、解体用のナイフをアイヲエルは買う必要があり、また、金貨一枚が砕けた。


 但し、ホワイトウルフの素材は肉を含めて、金貨一枚程もの収入になり、シャイ・アント狩りの収入より、二桁ぐらいはギリギリで違っていた。


 それは、ホワイトウルフの解体がヴィジーは巧かったからであり、毛皮の洗浄迄行なったお陰だった。


 これを、下手な者がやったり、ギルドに任せると、収入が軽く一桁は違うらしい。


 ヴィジーは、半端な腕でGランクになった訳では無い事の、何よりの証明になったのだった。


 これに追い付け追い越せと言われるアイヲエルは、厳しい注文を付けられるなと期待の裏返しである事を悟り、覚悟を決めるまでだった。


 尚、二日後の狩りでホワイトウルフの解体を任せられたアイヲエルは、仕上げをヴィジーの監修の下で行われ、それでも、ヴィジー一人で捌くよりは収入が一桁低いのだった。


「何で、こんなにも安く……」


 ボヤくアイヲエルに、ヴィジーはパンパンッと腕を叩いて見せた。


 これが腕の差だよ、と云うヴィジーの無言のメッセージだった。

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