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八国史  作者: 月詠 夜光
〜風の章〜

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35/59

第35話:カメラ

 地底国入りをして、先ずアイヲエルが驚いた事があった。


「ふぁぁぁ~〜〜、こんなにもハッキリと日が差している事が明らかだなんて──」


 地底国は、射し込む『光のカタチ』が分かるような日の射し込む美しい光景の国だった。

 それを見てアイヲエルは思った。


「──うん。いつか、俺がこの世の光景を写真に写して廻る」


 風神王継承後、引退してからの目標をハッキリと口にした。


「──その時、儂は居らんぞ?」


「結構です。

 何ならミアイも、風神国に残れば良い」


 ミアイも、流石にそこ迄は付き合い切れないと思った。

 ただ、フラウは兎も角、ヴァイスとシュヴァルツは同行する事になる可能性は高い。

 何せ、寿命が永い。

 成人すらしていないことだろう。

 そして、護衛として訓練を受けて行く事になる。


 問題は、アイヲエルが生き続けられる可能性が低いと云うことだろう。世はソレを『エタる』と云う。

 その可能性はかなり高い。

 むしろ、世界ごと消滅する可能性もある。

 もしも戦争の始まる気配がしたら、彼女の名前を明かす。

 その時は、盛大に彼女を呪えよ、世界!

 いっそ、『呪□反射』でコチラがレジストに失敗し、□んでも構わない。

 だから、彼女の名前を明かす時を(たの)しみにしているが良い、世界よ!


 ──ハッ!コレが正しく、『公開処刑』と云う奴ではあるまいか?

 何方が□んでも、何方も両方とも□んだとしても、『公開処刑』になるに違いない。


 いっそのこと、今すぐ明かしても良いのだが、アチラは未だ実力行使して来ていない。明かす大義名分が未だコチラには無い。

 故に秘匿しよう。例え、コレが切っ掛けでコチラが□んだとしても。


 閑話休題。


 兎も角、写真の技術の向上が、アイヲエルの目的の為には必要だ。

 その為に必要な技術は、恐らく光朝国にある。

 そうとなれば、善は急げだ。


「良しッ!皆、光朝国に行くぞ!」


「慌てるな、莫迦者(ばかもの)。地底国で一泊ぐらいして行け。

 地底国の名物は温泉だぞ?」


「ええ~!!俺、大浴場は好きじゃない……」


「偶に温泉ぐらい、良いじゃろうが!」


「……まぁ、偶には……?」


 火王国と並ぶ、温泉が名物の地底国。水帝国は、残念ながら温泉では無く冷泉が湧く。

 それ故に、温泉旅館ともなれば、温泉に入る為のサービスが充実している。


 男女に分かれ、カポーンと温泉に浸かる一行。

 女風呂では、竜人娘が騒いでいる様子だったが、ミアイの一喝で静かになった。


「偶には温泉も良いのぅ……」


「そうですねー……」


 男風呂では、二人、静かにお湯に浸かっていた。

 特に話題も無く、じっくりと入り続ける。

 アイヲエルには、それが不気味だった。


 風呂上り。フルーツ牛乳やらコーヒー牛乳やらを飲んだりして、涼を取る。

 落ち着いたところで、旅館の部屋へ行き、温泉饅頭を頂く。

 何だ、意外に裕福ではないかとアイヲエルは思う。


 だが、高級旅館だから、成り立っている訳だ。

 安宿なら、温泉饅頭は有料でも置いてあったら良い方、フルーツ牛乳やらコーヒー牛乳やらは、コチラも有料でも普通の牛乳が置いてあれば良い方だった。


 勿論、温泉のサービスの料金の内には含まれているのだろうが……。

 アイヲエルは、旅館の窓から外の景色を見て、こう呟いた。


「八国七十二景とでも題して、写真、撮って回りてぇなぁ……」


「その前に、フルカラー写真を撮るための技術開発を依頼しに、光朝国へ行くのじゃろう?」


「そうなんですけどねぇー……」


 その瞬間にしか見えない景色がある。

 それを考えたら、各国九枚計七十二枚の写真を撮るだけでは満足出来ないだろうが、最終的に厳選して、その景色を七十二枚に収めるつもりだったのだ。

 その為には、光朝国に因る写真機(カメラ)の発明は必須事項だった。


 今のアイヲエルの所持金では、依頼料として足りない。

 だが、風神王を退いてから撮影しに廻れば良いのだ。風神王への在位中に、国として依頼すれば良い。

 恐らく、その頃には光朝国は少なからず豊かな国になっている筈だ。

 カメラの発明にも、力を注ぐ余力はある筈だ。


 と云うか、あって貰わねば困る。

 最悪、食糧支援してでも、アイヲエルは依頼する心づもりだった。


 余生の趣味として、悪くはなかろう。

 写真集も発売したいが、採算が取れる見込みはゼロだ。


 何せ、高い。一部の好事家にしか売れない事は確定だ。

 ならば、八ヵ国の王家には一冊ずつ配ろうか……。

 等と、アイヲエルは考えていた。


「開発に、何年掛かるか判ったものではないぞ?」


「判ってますって。多少、画質が粗くても、フルカラーの写真が撮れれば充分ですから」


「粗くても良いのなら、ミアイ嬢に頼んではどうだ?」


 急に話題を振られて、キョロキョロとアイヲエルとヴィジーを見廻すミアイ。


「そ、そんな急に言われても!──困ります。私には何をどうしたら良いのやら、さっぱり……」


「そりゃあ、新しい技術を開発するのじゃから、そりゃそうじゃろう。

 問題は、ミアイ嬢がアイヲエルに尽くす覚悟があるかどうかじゃ」


「そう問われては──無いと申す訳には参りませんわ」


「ならば、あるのじゃな、覚悟が」


「──あります!」


 ヴィジーはアイヲエルを振り返った。


「──と云う訳じゃ。早速、試作段階から開発を始めて貰うと良いじゃろう」


「頼む、ミアイ!」


 アイヲエルに真正面から迫られ、ミアイは頬を紅く染めて視線を逸らした。


「何十年掛かるか、判ったものではありませんわよ?」


「でも、造ってくれるのだろう?」


「造れと仰るなら、造りますわ」


「そうか!俺のイメージでは……」


 そこからは、アイヲエルの持つ技術に関する知識を披露する話だ。

 一般的に、カメラとはどのような存在なのか。そして、そこからどの様に発展していく余地があるのか。又、印刷技術をどう導入するのか……。

 積もる話は止まらない。

 ミアイは、この点だけ取っても、よくもアイヲエルとはここまでの知識と予測を立てているものだと、感心する次第だった。


 この情熱を、他の分野に広げて貰えれば……と、ミアイは思わずに居られない。

 だが、記録を残す為には必要な技術だ。

 ソコに着目した事には、悪い事は何も無い。

 ただ、その風景を撮りにまで、風神王を引退してから行く必要も無かろうと、ミアイには思えて仕方ない。


 だが、別に良いのだ。

 アイヲエルが戴冠すれば、ミアイは風神国の王族となる。即ち、超越者に。

 それから豊かな国を満喫すれば、ミアイは満足なのだ。

 余計な趣味なぞ、持たなくて良い。


 ただ……。アイヲエルの、そこまでのめり込める趣味と云うのも、ミアイには感心深かったりする。

 その情熱を、自分も持てれば……。そうすれば、もっと幸せなのかも知れない、と。

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