第34話:カメラ
地底国入りをして、先ずアイヲエルが驚いた事があった。
「ふぁぁぁ~〜〜、こんなにもハッキリと日が差している事が明らかだなんて──」
アイヲエルは思った。
「──うん。いつか、俺がこの世の光景を写真に写して廻る」
風神王継承後、引退してからの目標をハッキリと口にした。
「──その時、儂は居らんぞ?」
「結構です。
何ならミアイも、風神国に残れば良い」
ミアイも、流石にそこ迄は付き合い切れないと思った。
ただ、フラウは兎も角、ヴァイスとシュヴァルツは同行する事になる可能性は高い。
何せ、寿命が永い。
成人すらしていないことだろう。
そして、護衛として訓練を受けて行く事になる。
兎も角、写真の技術の向上が、アイヲエルの目的の為には必要だ。
その為に必要な技術は、恐らく光朝国にある。
そうとなれば、善は急げだ。
「良しッ!皆、光朝国に行くぞ!」
「慌てるな、莫迦者。地底国で一泊ぐらいして行け。
地底国の名物は温泉だぞ?」
「ええ~!!俺、大浴場は好きじゃない……」
「偶に温泉ぐらい、良いじゃろうが!」
「……まぁ、偶には……?」
火王国と並ぶ、温泉が名物の地底国。水帝国は、残念ながら温泉では無く冷泉が湧く。
それ故に、温泉旅館ともなれば、温泉に入る為のサービスが充実している。
男女に分かれ、カポーンと温泉に浸かる一行。
女風呂では、竜人娘が騒いでいる様子だったが、ミアイの一喝で静かになった。
「偶には温泉も良いのぅ……」
「そうですねー……」
男風呂では、二人、静かにお湯に浸かっていた。
特に話題も無く、じっくりと入り続ける。
アイヲエルには、それが不気味だった。
風呂上り。フルーツ牛乳やらコーヒー牛乳やらを飲んだりして、涼を取る。
落ち着いたところで、旅館の部屋へ行き、温泉饅頭を頂く。
何だ、意外に裕福ではないかとアイヲエルは思う。
だが、高級旅館だから、成り立っている訳だ。
安宿なら、温泉饅頭は有料でも置いてあったら良い方、フルーツ牛乳やらコーヒー牛乳やらは、コチラも有料でも普通の牛乳が置いてあれば良い方だった。
勿論、温泉のサービスの料金の内には含まれているのだろうが……。
アイヲエルは、旅館の窓から外の景色を見て、こう呟いた。
「八国七十二景とでも題して、写真、撮って回りてぇなぁ……」
「その前に、フルカラー写真を撮るための技術開発を依頼しに、光朝国へ行くのじゃろう?」
「そうなんですけどねぇー……」
その瞬間にしか見えない景色がある。
それを考えたら、各国九枚計七十二枚の写真を撮るだけでは満足出来ないだろうが、最終的に厳選して、その景色を七十二枚に収めるつもりだったのだ。
その為には、光朝国に因る写真機の発明は必須事項だった。
今のアイヲエルの所持金では、依頼料として足りない。
だが、風神王を退いてから撮影しに廻れば良いのだ。風神王への在位中に、国として依頼すれば良い。
恐らく、その頃には光朝国は少なからず豊かな国になっている筈だ。
カメラの発明にも、力を注ぐ余力はある筈だ。
と云うか、あって貰わねば困る。
最悪、食糧支援してでも、アイヲエルは依頼する心づもりだった。
余生の趣味として、悪くはなかろう。
写真集も発売したいが、採算が取れる見込みはゼロだ。
何せ、高い。一部の好事家にしか売れない事は確定だ。
ならば、八ヵ国の王家には一冊ずつ配ろうか……。
等と、アイヲエルは考えていた。
「開発に、何年掛かるか判ったものではないぞ?」
「判ってますって。多少、画質が粗くても、フルカラーの写真が撮れれば充分ですから」
「粗くても良いのなら、ミアイ嬢に頼んではどうだ?」
急に話題を振られて、キョロキョロとアイヲエルとヴィジーを見廻すミアイ。
「そ、そんな急に言われても!──困ります。私には何をどうしたら良いのやら、さっぱり……」
「そりゃあ、新しい技術を開発するのじゃから、そりゃそうじゃろう。
問題は、ミアイ嬢がアイヲエルに尽くす覚悟があるかどうかじゃ」
「そう問われては──無いと申す訳には参りませんわ」
「ならば、あるのじゃな、覚悟が」
「──あります!」
ヴィジーはアイヲエルを振り返った。
「──と云う訳じゃ。早速、試作段階から開発を始めて貰うと良いじゃろう」
「頼む、ミアイ!」
アイヲエルに真正面から迫られ、ミアイは頬を紅く染めて視線を逸らした。
「何十年掛かるか、判ったものではありませんわよ?」
「でも、造ってくれるのだろう?」
「造れと仰るなら、造りますわ」
「そうか!俺のイメージでは……」
そこからは、アイヲエルの持つ技術に関する知識を披露する話だ。
一般的に、カメラとはどのような存在なのか。そして、そこからどの様に発展していく余地があるのか。又、印刷技術をどう導入するのか……。
積もる話は止まらない。
ミアイは、この点だけ取っても、よくもアイヲエルとはここまでの知識を持ち、同時に予測を立てているものだと、感心する次第だった。
この情熱を、他の分野に広げて貰えれば……と、ミアイは思わずに居られない。
だが、記録を残す為には必要な技術だ。
ソコに着目した事には、悪い事は何も無い。
ただ、その風景を撮りにまで、風神王を引退してから行く必要も無かろうと、ミアイには思えて仕方ない。
だが、別に良いのだ。
アイヲエルが戴冠すれば、ミアイは風神国の王族となる。即ち、超越者に。
それから豊かな国を満喫すれば、ミアイは満足なのだ。
余計な趣味なぞ、持たなくて良い。
ただ……。アイヲエルの、そこまでのめり込める趣味と云うのも、ミアイには感心深かったりする。
その情熱を、自分も持てれば……。そうすれば、もっと幸せなのかも知れない、と。
アイヲエルの、国の豊かさに関係の無い趣味に、ミアイは何処か羨ましさのような感情を抱くのだった。




