第31話:コア技術の格差
打ち合わせが済んだら、氷皇国へと蜻蛉返りである。
モンスターの腸を堆肥にする話は、氷皇王も飛び付いた。光朝国や天星国で話した内容の確認が取られた時、公開した事案だ。
腸を食べようと思ったらその洗浄が丁寧かつ丹念な作業になるが、堆肥にするなら、中身もそのままで良い。
冒険者に集めさせるなら、腸は洗って食べるより、堆肥にした方が効率が良さそうだった。
フライトカーの件は、各国、三社くらいはスポンサーを確保していた。フライトカーレースは、その優勝がスポンサーの名誉となる。
何処の国でも、有力な商人とは居るもので、とりあえず十二社のスポンサーを得た。
レーサーは、各スポンサーが推す、各国の王族で、アイヲエルにも一応お声掛けがあった。慎んで辞退したが。
レーサーともなれば、レースの際の華形である。アイヲエルはその役を弟に譲った。
否、だって、開発の段階から関わっているとなったら、不正を疑われる。
そんな思いをしてまで、ヒーローにはなりたくなかった。どうせ嫌われるに決まっている。
フライトカー自体は、四機同時に造り始めているらしい。用意するドックも小型で、一ヶ月で仕上がったらしい。そして、コアのシステムが、天星国と水帝国の研究の髄を確かめて、応用する事になった。
コアを増やせば増やすほど、高性能にはなるらしいが、操作が難しくなるので、六〜七個が現実的らしい。
その六〜七個と云うのが、メインコア・サブコア・ブレーキコア・アクセルコア・ベクトルコア・スピードコア・パワーコアの七個で、サブコアが省かれることがある。サブコアと云うか、ターンコアなのだが。
この位置関係で、フライトカー及び魔空船は翔ぶらしい。あとは増やすとしたら、ハイトコアとかブーストコアとかなのだが、現実的に言って、操作が追い付かないらしい。あと、サブコアとターンコアを別にする可能性もある。操作の上級者になると、テンコア・システムでも操作が追い付くそうだ。だが、最初はセブンコア・システムで製作するらしい。
コレを、魔空船のドックが仕上がる迄は開発する。
コアは、『アルフェリオン結晶』真球に『龍血魔法文字命令』を書き込んで造り出す。
コアの製作は、光朝国の技師には難しいらしい。なので、光朝国の技師は本体の『アルフェリオン結晶』の軽量化に取り掛かった。
単なる軽量化なら、光朝国の技師にも出来るのだが、コアとなると、ノウハウを積んだ天星国の技師には遠く敵わない。
ましてや、コアはフライトカーにとって最大限に重要な精密パーツである。光朝国の技師には手に負えなくても、仕方の無い事だった。
だとしても、光朝国の技師にも意地がある。何とか、コア作製の技術を得ようとしていた。
だが、天星国の技師にも守秘義務がある。見て学び取られる分には構わないが、その内容をイチイチ説明するような真似はしなかった。
球面上に緻密な『龍血魔法文字命令』を記すので、一見して、何処からどう書き進めているものか、分かりはしなかった。
ただ、書き始めだけは、『DBMCC』の表記があるので、明らかに判る。その先を、何処をどの順で巡って書いているものか、それが判別が付かなかった。
そう、『龍血魔法文字命令』は、その命令をどの順で書いているのかも重要なのである。
なので、仕上がったコアだけを見て、判別は付かなかった。
せめて、書く順序を見られれば良いのにと光朝国の技師は思ったりするが、そこは国の独自の技術である、そうそう簡単に見せる筈も無かった。
そう、コアの製作技術は天星国独自のものなのだ。水帝国と言えど、今すぐにコアの製作迄は真似する事は出来なかった。その点に関しては、技師が技術の全てを詳らかにしていなかったので、水帝国も追従が出来ない。
「フライトカーって、明かりを付けた方が良いと思うんだけど、どう思います、師匠」
アイヲエルの発言に、光朝国の技師が目を光らせた。
光を操る『龍血魔法文字命令』では、光朝国が第一人者である。夜間の走行も考えると、明かりはあった方が良い。
すぐさま、設計図を少し書き直して、明かりを灯す設計が加えられた。
だが、この技術を簡単に交換出来るほど、話は都合の良いものではなかった。ただ明かりを灯すだけなら、光朝国で無くとも、出来る事には出来る。ただ、効率の良し悪しとなると、光朝国に軍配が上がる。
だからと云って、交換してそれで済むほど、双方にとって技術を安売りする事の出来ない事案であった。
結果、どちらも技術の全ては明かせない。でも相手の技術は見たい等と云う、お互いに自らにとって都合の良い事を願望する状況になった。
事、此処に至っては、どちらがどうと云う話では無くなった。
ただ、コアの『龍血魔法文字命令』に於いては、天星国に一日之長がある。コアのように『アルフェリオン結晶』真球に記された光朝国の明かりを灯す技術を、天星国の技師は見てほぼ学び取った。
流石に、一方的に見て学び取っただけでは、光朝国に対して申し訳無いと云う状況になり、天星国はコアの『龍血魔法文字命令』の書き順だけを知らせた。
それで、自ら学び取る事で、お相子と云う判断が下された。
光朝国の明かりを灯す技術は、それだけハイレベルだったのである。少なくとも、指向性を持たせて明かりを灯すくらいのレベルでは。
アイヲエルは、風神国から齎せる技術が無いものか検討したが、風の方向を操る程度だなと、甘く考えて技術を交換する機会を失った。
実は、フライトカーにとって、風の流れとは飛行に伴う重要なファクターだったのだが、龍の血があれば役立つ一方、風神国には龍の血を得る手段が無い。
竜人は血を得るには小さ過ぎて禁じられていたし、聖獣も龍の眷属では無い。
従って、『龍血魔法文字命令』が育つ土壌が無かった。
実は、三割程もの性能差を与える技術があったのだが、ソレはアイヲエルは知らなかった。
一応、王族に『龍血魔法文字命令』の研究家は居る。そんな者に限って、何処からか手に入れた龍の血と云う在庫もあったりした。
だからと云って、風神国のフライトカーにのみ、その手を加えると、チートと思われる訳である。
この時点で、ヴィジーすら、その事実を知らなかったのである。
後にもし、そんな加工が加えられたら、大問題である。
だが、この場の誰も、そんな事実は知らないのだ。どうなったとしても、彼らの過失──過失なのだろうか?
知らないものは仕方が無い。
だが、ヒントは鏤められているのだ。
呪いを信じていなかったから、自分に呪いを掛けて、ツラい思いをした上にその責任を問われるのに近い。
道理で、イジメられる事に対して、異常に嫌がっていた筈だ。未来がヤバいと知っていながらも、何がどうヤバいのか、理解が及ばなかったのに近い。
最早、流れに流されるしか無い。
未来を自らの望むものに出来るものか、甚だ怪しかった。




