第30話:フライトカー計画
天星国でも歓迎を受け、やはりロイヤル・スウィートルームに案内された。天星王との会談は、後ほどと云うことだ。
そこで、やはりミアイは光朝国との差異を見出した。
「最早、無駄と思える程に豪華ね……」
光朝国では、必要なことは豪華にされていた。装飾も、必要最低限だ。
それに比べ、天星国では、大浴場が用意され、タオルや使い捨てのボディソープ及びシャンプー・リンス・コンディショナー迄。
バスローブは当然のように用意されているし、タオルは言うまでもない。
歯ブラシ・歯磨き粉も使い捨てで用意されていたし、剃刀も、男女共用のものが複数置いてある。使い捨てでは無いが、ドライヤーと云う魔法具も置いてある。
「どうして、こんな小さな国で、こんなに豪華なの!?」
明かりは当然のようにシャンデリアだし、ウェルカムデザートの他に、ウェルカムフルーツもあった。ウェルカムドリンクとして、お茶もだ。
ミアイは、思わずマスカットを一粒口にした。
「美味しい!これはもう、アレね。品種からして、根本的に何かが違うわ」
「世界のセレブ御用達のフルーツだからな。
コレを目当てに泊まりに来る客もいるんだが、追い出したのか、偶々居なかったのか……」
「そんなに毎日のように来るの!?」
「毎日、って程じゃないな。月に何日か程度だ」
「それじゃあ、偶々ではないかしら?」
「天星王も、張り切った事で」
全く以て、その通りである。
セレブによる、セレブの為の、セレブの産物が、ふんだんに使われている。
「全く、何日かしたら、それこそ食傷気味になるぞ。
師匠!用件が済んだら、直ぐにでもこの国を出ましょう!」
アイヲエルは、まるでアレルギーを持っているかのように、こんな豪華な待遇には飽き飽きしていた。
「俺は、王になったら、節制を美徳として生きるんだ……」
こうは言うものの、アイヲエルが耐性を持つのは、風神国レベルの粗食であって、本当の粗食には意外に耐性が無いことも判明した。
最早、全ての国を巡り終わったら、風神国内で旅をすれば良いと思う次第である。
要するに、産まれが良いとこの坊っちゃんなのだ。
ソレが判明したことも、旅の醍醐味である。
世の中に、こんなにもマズい食べ物があるだなんて!と云う話である。実際、罰ゲーム用の食べ物なんざ、喰えたものではないのだ。
舌が食べ物を受け付けない。そんな食事も、世の中には存在するのだ。
或いは、その事実を知りたくて旅に出たのかも知れなかった。
結果的に、アイヲエルは予想以上のグルメだったのだ。単に、B級グルメを好むのみである。
試しに、ミアイが褒めたマスカットを一粒、食べてみた。
確かに、新鮮で美味しいフルーツだった。
ただ、アイヲエルは余り舌を贅沢に慣らせたくないだけだった。
それは、真に飢えた時にマズいから喰えないでは困るから。
要するに、セレブが意外と庶民的な食事でも、好む食事があったりする、その現象だ。
そう云う料理をアイヲエルは好む。その事実に気付かされたのみだ。
「肝心の、用件の方はいつ呼び出されますかね?」
「然程急がないだろうな。
重要であって、至急では無い。
この部屋で寛げと云うことだろうよ」
「この、落ち着かない状況で?
ハァー、風呂でも入って来るかな?」
「男湯・女湯で分かれていましたわよね?
ワタクシも入って参りますわ」
そうして、露天風呂に入って一息ついた頃。
天星国の使者が来た。
「正装の方が良いかな?」
そう言って着替えると、奴隷娘三人を置いて王宮の会議室に案内された。
そこでは喧々諤々と議題が繰り出されたが、ほぼヴィジーに任せて問題の無い内容であった。
最終的に、水帝国が単独で魔空船を造れることが問題となったが、それは仕方が無いであろう。
議論もそこに落ち着きそうだったし、風神国の介入に因って、帆船型の魔空船の建造も検討された。
空軍に関しては、水帝国に優位があることが仕方の無い事だと判断された。魔空船が造れる以上、水上船の建造も可能だろう。単に、防水仕様の魔空船を水軍にすれば、水帝国の優位は揺るぎない。
問題は、戦争にならない程度に抑えさせる事だ。
何故、水帝国がこれ程迄に優位を保ってしまったか。
結果的に、火王国と闇夜国、それに地底国の三ヵ国が魔空船事業への不干渉と云う事態に陥った。
三ヵ国共に不本意であろう。
だからと云って、干渉を持ち掛けては、優位な条件を与えねばならなくなる。
とりあえず、天星国は水帝国にも魔空船の建造を依頼し、その費用を抑える対策の一環として、氷皇国にも建造を依頼する。
光朝国は『黄龍』の血を以て魔空船事業に参入し、魔空船を購入する。
風神国は『朱雀』の羽を以て帆船型魔空船の建造に参画し、魔空船も購入する。
議題として挙がった問題点として、将来的に建造を計画する、フライトカーと云う個人用小型魔空船の建造も中々悩ましい。だが、ソレは魔空船の建造が順調に進んで、余裕が出来てきてからで充分とされた。
だが、アイヲエルはフライトアーマーの方が製作が楽で普及も早そうだと言及すると、ヴィジーの意見として、フライトアーマーは使い手の魔法の技量にその性能を大きく左右されるとの意見を述べたに終わった。
それならば、フライトカーに因るレースの開催を前提に、商人にスポンサーになってもらい、建造を急いでは、とアイヲエルが意見すると、議論は大いに盛り上がった。
結果的に、より小型で造りやすいフライトカーの建造を急ぐ為に、スポンサーの募集を各国で急ぐ事で議論は一旦の終息を迎えた。
そして、ヴィジーはフライトカーの設計図の制作に急ぎで取り掛かり、三日三晩で仕上げると、特許の申請に向かった。──水帝国への牽制の為だ。
その特許に逆らったら、風神国からの干渉で帝王位が危うくなる。
流石に、特許法違反はしない筈だ。帝王位を捨ててまで造る程のものと判断する可能性は低いし、最悪、水帝王が傀儡になる。恐らく、風神王の。
王位は、それほど迄に特別なものだし、王になれるなら、言うことを訊く位の判断をする王族も一人は居るだろう。
まぁ、その座が魔王位ならば、断る者も多いだろうが。
……ん?風神王は魔王?
そうなのかも知れない。『唯一神信仰者』達からすれば。
兎に角、アイツラは、『唯一神』以外を悪魔にしたがる。因みに悪魔も魔王も、英語では共に『Devil』だ。魔は『D』で、悪は『Evil』。そう云う話らしい。
だから、『サタン』は『サタンと云う名のDragon』なのだ。
兎も角、ヴィジーは忙しく過ごしていた。
その上で、ミアイに「天星国の各種苗の買い取りはしたいか?」等と気遣いもするのだ。確かに、ヴィジーは超越者だっただろう。
アイヲエルは、念話で風神王に報告した。ミアイも光朝王に念話で報告したが。
これから先、どうやら忙しくなりそうだった。




