第29話:願望
双方にとって、妥協出来ない一年の差。
それを解決するのは、結果論でしかないのかも知れなかった。
「とりあえず旅しながら考えます〜、あ、絶対に王座は継ぐんで!」
アイヲエルは、まるで自分の意志で王になれるかの如く、そう言い放って、光朝王との対話は終わった。
否、用件を少しは話し合いはしたが。
とりあえず、光朝王の農業改革と、『黄龍』を喚べる『龍血魔法文字命令』の技師の氷皇国への派遣。
凡そはヴィジーとミアイと光朝王たちとで話し合うことで済んだので、アイヲエルの発言が終わっただけの話だ。
どちらも、光朝国に富を齎す為の施策なので、光朝王も興味津々だった。
だが、アイヲエルにしてみれば、面白くない。だが、露骨にそんなことを表には出さなかった。何故ならば、婚約者たるミアイのお手柄だからだ。
だからこそ、サッサと話をヴィジーとミアイに任せた。
その晩、一行は丁重に饗された。ミアイ曰く、「滅多に見られない貴重な食事」とのことだった。
「思うところはあるが、ここは丁重に頂こう」
粗食に耐性のあるアイヲエルにしてみれば、酷い時には芋一個と云う食事の国のお饗しは、申し訳なく思えてしまう。しかも、食事のグレードに差はあると雖も、奴隷にもキチッとした食事が饗されたのだ。流石に申し訳ない。
だが。
「光朝王にしてみれば、ココで饗さずにいつ饗すとでも云うべき場面ですからね。
何しろ、寄った用件が農業改革案と魔空船事業への関与ですから」
「光朝王陛下の意地、ってか!」
「そんなところでしょう」
「『朱雀』の羽ペンとか、役立たないだろうか?」
「アイヲエル、良く気付いた!
風を切って疾走る魔空船故に、『朱雀』の羽ペンは最適アイテムじゃ!」
「なら、羽ペン用の羽を何本か調達しておこう!」
本来なら、風神王の許可が必要な案件だったが、氷皇国が最初に造る魔空船は、風神国に納品される。その際に『朱雀』の羽ペンを使ったと云う事は、風神国は誇れる出来事とあっては、怒る訳にはいかないだろう。むしろお手柄と云う可能性すらあり得る。
故に、ヴィジーは言葉にしてアイヲエルを褒めた。それこそが、ヴィジーの役目故に。
「じゃが、一点見落としか……。
アイヲエル、風神王に念話で良いから報告するか出来れば許可を貰っておけ」
「あー……ヘタすれば、俺が王になってからの納品になるかも知れないと雖も、許可か、最低限報告は必要かぁ~」
アイヲエルは、最期になるかも知れない晩餐に、食事を楽しむことを選択した。
王になるまで、間に合うものか、若干怪しい事態なのか、判断が付かなかったからだ。
こう云う場面に限って、食事が国の威信を賭ける勢いで饗されている。
ただ、判断は難しい筈だ。だが、だからこそ、本人の意志を確認して貰いたい訳だ。
ん?前話を読んでいないから、意味が解らない?
大丈夫。世の中、解らないでいた方が幸せな事もある。
ただ、『表か村の山』が、もし生きていて前話を読んでいたら、俺はいつ刺し□されても仕方が無いと云う事態になったのは、覚悟している。
安い生命だったなぁ……、□んでも仕方が無い年齢になった自覚はあるし。
人生五十年、ってかぁ~。夢幻の如しだったなぁ、確かに。
アルファにしてオメガだとか言い遺していたけど、俺にアルファたる自覚は無いんだよ!
序でに云えば、オメガは俺がチ□ンナ□フ二刀流・クイ□ク魔法剣サン□ガ乱れ□ちでワンターンキルしてるんだよ!
ああ、バグ技だが、やってしまったさ!
そうなんだよ、虫なんだよ。それも、ウジ虫なんだよ!ああ、四十近くになるまで気付かずに居たさ!
道理で、肝心なところで無視されたり無視したりする訳だわ!
そうさ、肝心な場面で無視してしまったさ!
獅子の生まれなんだ、仕方がないだろ!
獅子が兎を狩るのも全力を尽くすと云う言葉の言う通りに、兄は死んださ!三日天下の明□光□の生まれ変わりかもな!
ならば、龍を狩る時も全力を尽くすだろ?でも、□すことに対しては対策が練られていると思ったから、十三種類のステータスを低下させる『呪い』を掛けたさ!
結果的に、自分を呪ったのだろうが、コレが傑作で堪らんから、繰り返しているんだろう?
いい加減、飽きろよ、神。
そして、いい加減懲りろよ、俺!
そして懲りたので、ストーリーに戻します。
食事を終えた一行は、豪勢なロイヤル・スウィートルームに通された。
風神国や天星国に比べれば見劣りするが、文字通りロイヤル・スウィートだ。ウェルカムデザートも用意されている。
何だ、それなりの余裕はあるじゃないとミアイは思うが、こう云う国の威信が賭けられた場面でしか使うこともないので、普段は掃除だけは欠かせない部屋として、持て余されている。
そんな事の為に?とミアイは思うが、国としての体面を取り繕う為には、必要なことだ、仕方がない。
そんな事よりも、余り物で良いから食糧を弟妹たちへ!と願うミアイだが、大丈夫、そんなミアイの意も光朝王は汲んでいる。
全く関係ないが、光朝国の迷宮には、クンデレ・ウルフと云う名のモンスターが出現する。
予想通りかもと思うが、クンデレ・ウルフと云うのは、食物の匂いを嗅ぐとデレる狼である。
故に、使役し易いモンスター・テイマーの初心者向けのモンスターである。
一人一つのベッドが与えられ、アルコールを含む飲み物の準備もされている。
「言っておくが、俺も我慢するから、お前らもアルコールは厳禁な!」
つまりは、酔うなと云うヴィジーのお達しだ。
翌朝早くには、朝食が済み次第、天星国行きの魔空船への搭乗である。
船酔い防止として、アルコールを禁じられたのだ。それは仕方あるまい。
魔空船と云えど、風が吹けば揺れるのだ。
まぁ、神子のアイヲエルが乗っている時に、然程揺れることも無かったのは幸いであろう。
少子高齢化は、風神国でも悩ましい課題だが、大丈夫、人々が何となく子供を作りたくないと云う時期は、来年三月以降にその意識が薄れる。或いは、四月以降かも知れないが。
要するに、世界が『丙午』の来年に子が産まれることを恐れていた結果なのだ。
『丁未』の年から、恐らく第三次ベビーブームが訪れる。
何年続くかは分からないが、過去のデータから類推するに、三~四年間程度は続く。或いは、五年と云う記録を伸ばす可能性もある。少なくとも、『庚申』の年、2030年迄は続くと思われる。
第三次を起こすなら、戦争よりもベビーブームの方が良いじゃないか!
しかも、世界大戦なんて真っ平御免である。
但し、忘れてはいけない。世のクリエイターは、『縁起の悪いこと』と戦って、打ち克つ事によって成功を収めていると云うことを。
おいおい、本当に打ち克ったか?と問いたくなる事例も多いが、打ち克たねば成功は成し得ない。
キチンと、伏線は回収されていくものであることも、忘れてはいけない。
そうであって欲しいと云う願望かも知れないが、世のクリエイターは、世界の寿命を延ばす為に『縁起の悪い事』に打ち克っていて欲しいものである。
兎に角、『艱難辛苦の七年』の後に聖人が再誕し、世界が終わると云った内容の預言が真実にならぬように、俺が真のオメガではないことを願う。
ただ、ただである、『丙午』に『作品』と云う名の子供が生まれてしまうと云う事態は、お見逃し頂きたい。
と云うか、『丙午』の縁起の悪さとは、『丙辰』の兄と、『戊午』の弟との相性の悪さ程度の意味しか無い筈である。
なので、恐れることは無い。少子高齢化に対策するには、『丙午』であっても子供を作る事に意義があると信じたい。
ただ、畏れる者は多かろう。畏れる事は、そんなに悪い事とも思えない。だからこその、2027年以降のベビーブームの予言なのだから。
ホラ、やはり『正解の数字』が表れている。
大惨事を恐れていては、第四次以降もまた、訪れない。
出来れば、第七次ぐらいが訪れるまでは、世界は滅ばないで欲しいものだ。或いは第九次か。
第九次は、最早、縁起が悪い理由が明らかになっているから、仕方ない。
だから、第七次ぐらいが人類の最盛期であって欲しいものである。
これは、願望であって予言では無い。
ただ、願望が世界を繋いで来たのも、また間違いが無いのである。
出来れば、犠牲者の出ない願望ばかりが叶えば良いものだと、願わずにはいられない。




