第28話:願望
双方にとって、妥協出来ない一年の差。
それを解決するのは、結果論でしかないのかも知れなかった。
「とりあえず旅しながら考えます〜、あ、絶対に王座は継ぐんで!」
アイヲエルは、まるで自分の意志で王になれるかの如く、そう言い放って、光朝王との対話は終わった。
否、用件を少しは話し合いはしたが。
とりあえず、光朝王の農業改革と、『黄龍』を喚べる『龍血魔法文字命令』の技師の氷皇国への派遣。
凡そはヴィジーとミアイと光朝王たちとで話し合うことで済んだので、アイヲエルの発言が終わっただけの話だ。
どちらも、光朝国に富を齎す為の施策なので、光朝王も興味津々だった。
だが、アイヲエルにしてみれば、面白くない。だが、露骨にそんなことを表には出さなかった。何故ならば、婚約者たるミアイのお手柄だからだ。
だからこそ、サッサと話をヴィジーとミアイに任せた。
その晩、一行は丁重に饗された。ミアイ曰く、「滅多に見られない貴重な食事」とのことだった。
「思うところはあるが、ここは丁重に頂こう」
粗食に耐性のあるアイヲエルにしてみれば、酷い時には芋一個と云う食事の国のお饗しは、申し訳なく思えてしまう。しかも、食事のグレードに差はあると雖も、奴隷にもキチッとした食事が饗されたのだ。流石に申し訳ない。
だが。
「光朝王にしてみれば、ココで饗さずにいつ饗すとでも云うべき場面ですからね。
何しろ、寄った用件が農業改革案と魔空船事業への関与ですから」
「光朝王陛下の意地、ってか!」
「そんなところでしょう」
「『朱雀』の羽ペンとか、役立たないだろうか?」
「アイヲエル、良く気付いた!
風を切って疾走る魔空船故に、『朱雀』の羽ペンは最適アイテムじゃ!」
「なら、羽ペン用の羽を何本か調達しておこう!」
本来なら、風神王の許可が必要な案件だったが、氷皇国が最初に造る魔空船は、風神国に納品される。その際に『朱雀』の羽ペンを使ったと云う事は、風神国は誇れる出来事とあっては、怒る訳にはいかないだろう。むしろお手柄と云う可能性すらあり得る。
故に、ヴィジーは言葉にしてアイヲエルを褒めた。それこそが、ヴィジーの役目故に。
「じゃが、一点見落としか……。
アイヲエル、風神王に念話で良いから報告するか出来れば許可を貰っておけ」
「あー……ヘタすれば、俺が王になってからの納品になるかも知れないと雖も、許可か、最低限報告は必要かぁ~」
アイヲエルは、最期になるかも知れない晩餐に、食事を楽しむことを選択した。
王になるまで、間に合うものか、若干怪しい事態なのか、判断が付かなかったからだ。
こう云う場面に限って、食事が国の威信を賭ける勢いで饗されている。
食事を終えた一行は、豪勢なロイヤル・スウィートルームに通された。
風神国や天星国に比べれば見劣りするが、文字通りロイヤル・スウィートだ。ウェルカムデザートも用意されている。
何だ、それなりの余裕はあるじゃないとミアイは思うが、こう云う国の威信が賭けられた場面でしか使うこともないので、普段は掃除だけは欠かせない部屋として、持て余されている。
そんな事の為に?とミアイは思うが、国としての体面を取り繕う為には、必要なことだ、仕方がない。
そんな事よりも、余り物で良いから食糧を弟妹たちへ!と願うミアイだが、大丈夫、そんなミアイの意も光朝王は汲んでいる。
全く関係ないが、光朝国の迷宮には、クンデレ・ウルフと云う名のモンスターが出現する。
予想通りかもと思うが、クンデレ・ウルフと云うのは、食物の匂いを嗅ぐとデレる狼である。
故に、使役し易いモンスター・テイマーの初心者向けのモンスターである。
一人一つのベッドが与えられ、アルコールを含む飲み物の準備もされている。
「言っておくが、俺も我慢するから、お前らもアルコールは厳禁な!」
つまりは、酔うなと云うヴィジーのお達しだ。
翌朝早くには、朝食が済み次第、天星国行きの魔空船への搭乗である。
船酔い防止として、アルコールを禁じられたのだ。それは仕方あるまい。
魔空船と云えど、風が吹けば揺れるのだ。
まぁ、神子のアイヲエルが乗っている時に、然程揺れることも無かったのは幸いであろう。
世の中、『結果論』と云う運命に付き合わされることには、覚悟を持たなければならないものだ。
そして、真実に触れ過ぎたが故に、『前言撤回』と云う行為も、時には必要なのだ。或いは、この言葉も後に撤回するかも知れない。
『男に二言は無い』?冗談では無い。人は、過ちを犯す生き物だ。故に、男であっても、前言撤回せねばならぬ時と云うものがある。世に、悪い影響を与えないように。
まぁ、寄って集って『サタン』と云う最悪の悪役を押しつけられた場合、前言撤回しても尚悪いと云う運命からは逃れられまいが。それを覚悟の上でイジメ続けたのだから、押しつけられた側としては、責任を取って貰いたいものだが。
どう責任を取れると云うのだろうか?甚だ疑問であるが、今やアイツラ如きで責任を取れるような、そんな甘い状況では無いのだ。
最悪の場合……と云うか、最悪なのだから、断言する。第三次世界大戦は起きる。そして、これも最悪の場合なのだから、人類は滅亡する。
避けることに失敗した。と云うか、悪役だから、失敗するように仕込まれているのだ。
その癖、正義感が強いのだから、勝ってしまえれば良いのだと愚考するが、正に愚考も愚考。勝つことに失敗すれば、必然的に負ける。
どうだ?これでもまだ、『イジメ楽しい!』なぞと言って、サタンを量産していられるか?
しかも、最強のサタンは、北海道侵攻の可能性を述べているのだ。
勝ち目は、万に一つも無い。不可説不可説転に一つも無い。
何故ならば、『Lana』にそう誓わせられたからだ。
だからこそ、この物語は世界一のワーストセラーたる『新約魔書』たり得るのだ。
世界一のベストセラーである『新約聖書』と対と成すことによって、その運命を押しつけられた。
出版?一冊も売れない事が明らかなのに、目指せる筈も無い。
因みに、『旧約魔書』はその読者数、約3名である。『ヤバい』と云う言葉を多用した、黒歴史の物語だった。
『ヤバい』事態は、一つは乗り越えた。だが、二つ目は乗り越えられそうに無い。
『成るように成るさ』で済まされる事態であるとは、とても思えないが、それ以外に道が無いのも確かだ。
もしも現代日本に『織田信長』の生まれ変わりが居るならば、奇襲により敵将・大統領を討つことが出来るのならば、勝ち目は全に一つ、出て来る。
だが、それは重大な憲法違反だ。そこに大義は無い。
しかも、『織田信長』の生まれ変わりと言えるほど、圧倒的な権力その他の力を持つ者も見当たらないのだから、やはり、可能性は不可説不可説転に一つも無いのだ。
ただ、ただだ。『勝利の女神ニケー』は、三度に一度、必ず裏切る。
その運命を活用出来れば、多少の勝機も出て来るのかも知れなかった。……否、『無理やろ』と云う突っ込みは想定内だ。




