第25話:『虹舞丸』
「じゃあ、次は刀の方な。
自動修復機能で良いかな?」
アイヲエルを引き剥がして、ヴィジーは言った。
「師匠、まさかその刀も──?」
「儂は似たような物を持っているしなぁ……」
弟子に激甘の師匠である。
「それだけ、今回の件はお手柄だったのじゃぞ?」
「そんなに……」
何しろ、氷皇国は代価として、自国用の魔空船の材料となる水しか要求して来なかったのだ。当然、ヴィジーが魔空船の仕上げに『龍血魔法文字命令』を書き込む際には、費用を取る。それこそ、天星国にも一隻は魔空船を作製して売って貰う代価ぐらいの金額で。
と云うより、天星国の技師を一人派遣した方が早かろう。
自動修復機能を持つ刀と言っても、水に浸す程度の手間は必要とする。
故に、柄に隠れる部分に『龍血魔法文字命令』を書き込む必要がある。
この世界に於いては、『龍血魔法文字命令』はプログラミング言語の一種である。
だから、イニシャルを綴って、『Dragon Blood Magic Character Command』の頭文字を取って『DBMCC』としても良いのだが、却って分かり辛かろう。意味から考えると、『Character』は『Word』に替えても良い。『Command』も少し柔らかくして『Order』に替えても良い。だが、いずれを取っても分かり辛い。
ただ、HTNL形式の『龍血魔法文字命令』を使う場合は、必ず『DragonBloodMagicCharacterCommand』と表記する必要性が出て来る。でなければ、HTML形式の『龍血魔法文字命令』であると認識がされないからだ。
等と、『龍血魔法文字命令』も制約が多い。使用する技術を持っているのは、聖獣が龍の眷属である『天龍』の天星国、『青龍』の水帝国、『黄龍』の光朝国の三ヵ国だけである。
そして、ヴァイスとシュヴァルツは、奴隷としての売買の際に違う手続きを踏めば、料金が莫大に跳ね上がるし違法だが、その血を取り尽くされてしまう可能性があった。
違法故に奴隷商もその条件で売るのは業腹であり、それこそ大金貨十枚とか必要になるが、『龍血魔法文字命令』の行使の為に命を奪われていた可能性もあった。
まぁ、賢い者なら活かさず殺さずに致死量寸前を何度も血を採取していただろうが、それですら違法である。
だから、二人が異常に安かったのは、幼生体であるが故の、血の採取限界の低さに因るものである。序でに言えば、奴隷商からすれば、「何故、仕入れた!?」と苦情モノの案件であったし、その心配の無い相手に売れたのは、例え安くても幸いだったのである。
何しろ、バレたら一蓮托生で逮捕、罰金刑である。割に合わない。
しかも、『龍の渓谷』から連れて来たことがバレれば、追加で最悪、懲役刑である。全く、やってられない。
と云う訳で、仕入れ値は極低く、食費のことを考えるとチョンチョンぐらいの金額で二人は購入されたのだった。
アイヲエルが悪魔の選択肢を選ぶと、下手すれば神子の権限の全てが剥奪される。そのくらい、竜人の血を取ると云う行為は罪が深かった。
理由を敢えて挙げれば、三ヵ国の持つ技術の優位性が失われるからだ。そう、国際問題になるのだ。
だから、神子の権限を剥奪される程の罪なのだから。
因みに、アイヲエルは『龍血魔法文字命令』の教えを、ヴィジーから授かっていた。練習程度にしか使ったことが無いから、初心者に毛が生えた程度の腕前だが。
「さて、刀も仕上がるぞ?」
刀に『龍血魔法文字命令』の命令文を書き込んだ状態で、乾くのを待ってから組み立てる。
補足説明だが、純粋な龍の血でも大丈夫なのだが、インクとしての機能を考えた場合は、添加物を加えることも可能だ。
直接、そのままインクを混ぜてしまっても良いし、インクを少し濃縮したものを混ぜるとより良い。
「大事に使えよ」
氷皇国から白鞘の刀として受け取ったものを、キチンと鍔や装飾された柄・鞘を揃えられて、アイヲエルの手に渡る。
「……軽い」
アイヲエルは、その軽さに驚いた。もっと、違う意味でも重いものだと思っていたのに、だ。
「軽量化の加工も加えたからな。
手入れは、定期的に水に漬けてやると良い。
斬りと突きに特化した刀だぞ?」
アイヲエルは、膝を突いて刀を授かった。
そして、受け取るとその場で刃を抜いて眺めた。
「美しい……」
アイヲエルは今回、刀に陶酔した。そして、元々腰に差していた剣の代わりに、その刀を装備した。だが──
「美し過ぎて、使うのが躊躇われる……」
「お前には刀を使う経験なんて、無い方がマシなんだよ。
だが、護身用だ。抜く時には躊躇うな!」
久し振りに、ヴィジーがアイヲエルに厳しい言葉を掛けた。
そのくらい、その刀が実用品だと教え込む為に。
「ちょっと、刀舞を試してもよろしいか?」
「傷つけんなよー。気を付けてやるなら、見ててやる。
他全員、儂の横に並んで座れ」
見物客も出来たところで、アイヲエルは抜刀術から始まる刀舞を始めた。
普段ならば、ギリギリを掠める太刀筋を披露するのだが、何せ、切れ味が如何なものか、計り知れない。アイヲエルは、緊張感を感じるギリギリで、余り太刀筋を観客に近付けない刀舞を舞った。
それは、気持ちの良い体験だった。舞う側も、観る側も。
透明で七色に光を反射する刀が行き交う。
広めの作業場とあって、アイヲエルは余裕を持って舞うことが出来た。
アイヲエルは、刀舞を楽しいと感じた経験は、今回が初めてだった。
そのくらい、その刀は美しく輝いてくれた。
アイヲエルは、刀舞を終えて、刀に銘を与える。
「銘銘、『虹舞丸』!
師匠、銘を彫って下さい!」
「透明で分かり辛いから、龍の血で染めといてやるよ」
こうして、アイヲエルのメイン装備一式が決まった。
ヴィジーの分は必要ない。
ただ、ミアイの分も何らかの形で用意し、アイヲエルからプレゼントするべきだと考えた。後ほど、それをヴィジーに相談する。
「さて。魔空船で急ぎの旅にはなっているが、次は氷皇国に行って、進捗状況を確認しつつ、次の依頼も頼んでみるぞ!
ああ、技師を一人連れてかねばならんか」
急ぎで天星国に来て、また急ぎで天星国を去り、氷皇国に行く。
全く、魔空船があったからこそ、出来た急行旅行だった。
アイヲエルは、一度、風神国にも戻った方が良いのだろうなと、旅行の行程の中に帰国を含めることを、真剣に検討していた。




