第23話:『アルフェリオン結晶』
氷皇国で、真っ先にミアイの防寒着を買った。オーダーメイドでは間に合わないが、最上級品だ。アイヲエルの金貨がまた一枚、散った……。
それから、氷皇王への面会を申し出た。
アイヲエルが念話で風神王に許可を貰って、国の代表と云う立場を手に入れて。
氷皇王としては、何事か!?と思う急な報せも無い訪問に戸惑ったが、結果的に賢明にも、その面会に許可を下した。
歴史に記されるべき瞬間である。
アイヲエルは、『水のアルフェリオン結晶』と『魔空船』の製法を氷皇王に進呈した。
「コレは……」
アイヲエルは頷く。
「貴国ならば、生成出来ると思いまして。
『氷の空間破壊呪』を試し打ち出来る技術があれば、充分可能かと予想しますが」
「貴様の思惑を訊きたい」
「アルフェリオン結晶絡みの製品と、魔空船の購入をしたく、国の代表として参りました」
「成る程……」
暫く、氷皇王はうーん……と唸った。
「しかし、我が国の聖獣は『白虎』。『龍血魔法文字命令』を施せない」
「そこは、コチラの前天星王に『天龍』を喚んで頂ければと」
「何ッ!?そう云えばヴィジー殿ではないか。挨拶が遅れた、先に報せて頂ければ良いものを……」
「儂は今回、オマケのようなものでのぅ……」
「ん?そう云えば、アイヲエル殿下に、光朝国の……殿下の許嫁の姫君ではないか!
三人での訪問とは、中々に不用心な……。
このタイミング、相当に寒かったのではないか?」
「いえ、奴隷を三人、護衛として連れております。
失礼ながら、控え室に控えさせております」
「しかし……」
氷皇王は手許の資料を見た。
「確かに、『アルフェリオン結晶』とやらは再現可能かと思われるが……」
「この際、先ずは『水のアルフェリオン結晶』製の刀を一振、購入させて頂ければと……」
「……否、刀一振で済めば良いが、魔空船となると、水の確保がかなりの困難だ」
「──代価、大量の水で支払っても?」
「高が水、然れど水だ。半端な量では済まないが?」
「そうですね……この部屋の高さ一メートル程を埋め尽くす程の量は用意してございます」
「何……だと──?」
「時空魔法使いの者は?」
「ココに居る、王宮魔導士長アスクレパスならば使えるが……」
「では、亜空間経由でお支払いしても?」
「待て」
氷皇王は、この驚くべき状況で冷静だった。流石と云うべきか──
「何の対価としてだ?」
「そうですね……、刀一振と、魔空船一隻と……あと、師匠、腹案と云うのは?」
「ああ、それならば、直径十センチ程の『アルフェリオン結晶』真球を一つ」
「以上、三点になりますが、何か問題は?」
「……その水で、魔空船は二隻造れるだろうか?」
「……師匠」
アイヲエルには判断がつかず、ヴィジーに返答を促した。ヴィジーは軽く頭の中で計算する。
「大型の魔空船でなければ、可能かと思われますが」
「そうか!ならば、対価はそれで良い。
アスクレパス、受け取って差し上げろ」
アイヲエルがアスクレパスに時空魔法で大量の水を渡す。そんな風景を、ヴィジーは感慨深げに眺めていた。流石に、アイヲエルも知っている筈だ。アスクレパスはヴィジーと同じGランクとして冒険者ギルドに登録している有名人だ。
そんな相手に、何気なく亜空間の座標を交換して水を受け渡す。傍から見たら何をしているのかは解らないが、時空魔法の知識があれば、想像はつく。流石に、座標も解らないのに観測は出来ない。
「フム……、確かに。
むしろ、言っていたより多いのでは?」
「まぁ、その辺はご愛嬌と云うことで」
……分からない。ヴィジーには、まさかアイヲエルがアスクレパスを知らないのではないか、と云う疑問の答えが。
だが、この場で問い質すのはアスクレパスに対して非常に失礼だ。
結果、ヴィジーは無難にスルーした。
後ほどアイヲエルに訊くと、流石に知ってましたよ、とは言っていたが。
時空魔法使いの有名人として知っていた、と。
とりあえず、刀一振。先ずはそれを作るところから依頼して、最終的に魔空船。
ただ、真球の作成を依頼する意図が見えない。
或いは、それがヴィジーの隠し玉なのか。
隠し玉だったとして、どんな用途があるものか。
謎だ。或いは、そんなに深く考えなくても、簡単に解るシンプルな品なのか。
アイヲエルは、先日のカード占いから判別して、恐らく占い用の水晶玉の代わりなのだろうと予想し、興味を失った。
兎に角、『龍血魔法文字命令』で何かを書き込むことは間違い無いだろう。
そこまで予想して、最終目標が魔空船であることを考えれば、自ずと判ったのかも知れなかった。
刀一振と真球一つ。その二つで一週間あれば作れると訊いて、一行は一週間の氷皇国を巡る観光旅行に出ることを決めた。
アイヲエルにしてみれば、観光資源を作ると云う意味で、勉強になる旅の筈だが、イマイチ、何を学んだら良いのか判っていなかった。
結局、『虹の氷』と呼ばれる特殊な氷が見られると云う場所に行って、本当に七色に光る氷に、一行の殆どは感動したのだが。
アイヲエルは、『虹の湖』と被っているなと思って、どうせなら『黄金色の氷』とかあれば、ソッチの方が独自性が出るのではないかと思った。だが、日の加減で、一瞬、全ての氷が真っ赤に染まったのは、中々に見物だったと、それだけで満足してしまった。
ヴィジーにしてみれば、国に観光資源を創る事が大事なのだと伝えたかったのだ。しかし肝心のアイヲエルは、だからと云って何でも正解の数字たる『七』にしなければならない理由など、まぁ幸運を呼び寄せる為には必要か、程度にしか認識していないのだった。
「だからと云って、七色の風を吹かせるなんて、無理だしなぁ……」
一応、アイヲエルなりに真剣に、観光資源を作って観光客を集め、集客から集金に繋げる政策の実行の案は考えていた。
恐らくは、写真機の進化が鍵になるだろう、程度には。
それ以外に、見所を風神国なりに創るとすると、竜巻の見学が出来る地形を造る、程度の策しか考えられないし、それはそれで危険も伴うと、一応は真剣に考えていたのだ。
ただ、真剣に考えれば策が思い付くとは限らないところがツラいところでもある。
そうして、アイヲエルは大陸南西部の海に流氷が流れるところを見学したり、山の頂上が雪を被っている、美しい山を見るものの、「山は嫌いだ!」と言い放って無視したりした。
その上、「俺が神王になった暁には、風神国の全ての山を、丘に造り替える!」等と暴言を放ったりしていた。
まぁ、風神国に山らしい山は無いのだが。強過ぎる風の吹く時代を経由する事で、風神国内にある全ての山は、頂上を削られてしまったのだ。
なので、アイヲエルが神王になるのを待つことなく、山は既に無くなっていた。
そうして、一週間を確り満喫した一行は、氷皇国王宮に出向き、先ずは刀と真球を受け取ったのだった。




