第20話:水帝国の観光
途中、グダった気がするが、気にすんネェ。
「で、俺としては、一刻も早く氷皇国に行きたいのですけれど」
「先走るな!何のための旅だ!?そんなに早く終わらせたいのか?」
そうは言われても、アイヲエルは敵対属性国で協力を得ることが難しい以上、氷皇国でアルフェリオン結晶の作成実験を行なって欲しい。一刻も早く。
そして、最終的には魔空船の製作に取り掛かって欲しい。そこまで出来れば、国に貢献出来たと言えるようになることだろう。
その政策を、自分の手柄として行いたい。──おや?とアイヲエルは思った。
コレ、急がなくていいんじゃねぇの?と。自分が風神王になってから、ゆっくり着手すれば良いのでは、と。
そうとなれば、観光だ。この国の観光名所を知りたいが……。
「師匠、この国の観光名所って知ってます?」
「──何だ、唐突に。
そうだな、虹の湖とかが有名だな。時刻にも依るが、虹色に輝くらしい」
「その湖の場所は?」
「この国の南東部にあるらしいが……気が変わって、観光でもしたいのか?」
「ええ。そんなところです」
不確定な勲章なら譲っても構わないが、確定の勲章は欲しい。それがアイヲエルの本音だった。
魔空船は、そのくらい確定的に勲章モノの業績になる。この際、風神国だけの都合による勲章でも、アイヲエルは構わない。
それよりも、虹色に輝く湖と云うのが気になる。虹色と云うことは、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の七色に輝くと云うことだろうか?
やはり、赤が一番か。そして紫は七番か。
で?藍が六番?女神の順番?メガは悪いんじゃなかったのか?
しかも、青が五番。真剣勝負の順番?
で、橙が二番?代々、『サタンの家系』だとでも言いたいのか?
黄色い三連星なんて訊いたことが無いな。でも、五黄土星が最強だと聞いたことがある。特に、寅。寅は十二支の三番目か。成る程。
そうか。二番は七番から逆に数えて六番か。代々悪い?まぁ、ペテン師の遺伝子をばら撒くとか言われているしな。……ん?ぺ天使?堕天使じゃなくて?
『エル』で終わる名前の天使、何故か異常に多いんだよな。まぁ、『アイヲエル』なんて名前の天使は訊いたことが無いが。
……そうか。アイヲエルは新しい天使なのかも知れないな。風神国の神子だし。神の子が天使なんて、あり得そうなことだ。
ヴィジーは、深く考えを巡らせていた。
良し、ココはアイヲエルを虹の湖に案内しておこう。
この世の摂理に気付けば、王として役立つこともあるだろう。
問題は、寅の子の寅が産まれるまで、この世が平和を維持していられるかの問題もあるのだが。
迷った時は、『七』の数字に導けば良いのだ。ヴィジーも、それは判る。
だが、虹?ああ、七と足せば、九になるか。
──ダメじゃね?菊の数字になってしまう。
誰か死人が出たりしないだろうな?等とヴィジーは考えながら、虹の湖行きの魔空船の席を確保した。
否、物語中に死者は出ないで済むだろう。
問題は、現実世界で死者が出ないか、と云う問題だ。
九は、古くから死者を出す原因になって来た数字だ。
恐らく、その原因は今現在、明らかになっている。
九は、鬼の数字だ。鬼は、滅ぼされる定めだ。
或いは、九に届かせない為に、『禁呪』たる『空間破壊呪』は、全九種類中、二種類しか完成しなかったのかも知れなかった。
否、ありとあらゆるパターンを試せば、9+28+56+70+56+28+8で255種類を編み出せるのかも知れないが、二属性~七属性の『空間破壊呪』と云うものは、存在するかどうかも怪しかった。
原理で言えば、敵対属性の四種類の『空間破壊呪』は存在可能かも知れなかったが、誰も試していない、誰も試そうとしない。何故ならば、『禁呪』だから。
序でに言えば、単独属性の『空間破壊呪』も事実上不可能なものが多い。
まぁ、それはそれとして、ヴィジーは本来、虹の湖行きを止めるべきだった。
何故ならば、竜人娘を二人も連れているから。
その血は、『龍血魔法文字命令』のインクの役目を果たす血の、代用品たり得るから。
実は、水帝国帝子、ウィニー・ウォーターはアイヲエルを敵対視しており、そして、ヴィジーの跡を蹤けて来て、竜人娘二人に目を付け、その血を狙っていた。
出来るならば、早く国を出た方が良かったのだ。ヴィジーが気付いていれば。
でも、まさか水帝国帝子が、跡を蹤けて来ていたなんて、想像だにしなかったのだ。その気配にも気付かず。
ヴァイス&シュヴァルツはターゲッティングされた。
出来れば、アイヲエルでも気付いていれば良かったのだ。
ただ、ミアイを除くアイヲエルとヴィジーの、奴隷三人娘に対する警戒は強かった。一度、死に掛けていたが故に。
その警戒の強さを感じ、ウィニーが思い切った行動に出られなかったことは確かだ。
だが、水帝国の聖獣は『青龍』だ。
ウィニーが、そちらの血を狙わずに、竜人娘の血を狙った理由は、甚だ謎だった。
ひょっとしたら、アイヲエルに対する意趣返し、嫌がらせの類だったのかも知れない。
ウィニーにとって、アイヲエルの水帝国入りは、そこまで許せない行為だったのかも知れない。
ウィニーは、一人、竜人娘の血を狙った。だが一行に油断が無いことに、舌打ちをするのだった。
単純に「出て行け」と言えば、アイヲエル一行は国を出て行かざるを得ないことを、ウィニーは知らなかった。そこまで、自分一人に強い権限があるとは知らなかったのだ。
それが、どちらにとって不幸を招くのかを、ウィニーは一切考えていなかった。
ただ、アイヲエルが目的を果たす為に、水帝国入りをした際。以前から感じていた、ウィニー帝子の敵対意識。それはアイヲエルに警戒を促すに十分なレベルのものであることを、ヴィジーは知らない。




