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八国史  作者: 月詠 夜光
〜風の章〜

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第17話:魔空船の製造

 アイヲエルの希望で、ヴィジーが許可を取り付けて、魔空船ドックの見学が出来ることになった。


「間違っても、邪魔するなよ」


 ヴィジーからは、質濃い位にそう言い含められた。大声での会話もダメらしい。


 一行は、無言で作られてゆく魔空船を見上げた。


 全体が水のアルフェリオン結晶──その実を言えば、ミスリル銀を使って作られてゆくが、それ自体には強い浮力は働かないらしい。


 そこで、施されるのが『龍血魔法文字命令』だ。


 特に、動力源であるコアには、強力な魔法命令が掛けられている。


 魔空船の動きは、六~七個から成るコアの持つそれぞれの機能に従って動くらしい。


 残念ながら、コアの見学は出来なかった。


 その代わり、船内の見学は出来た。


 アイヲエルの興奮した事は、言うまでもあるまい。


 完成してはいないのだ。つまり、作業工程をある程度遠くから見ることが出来たのだ。


 ミアイも、アイヲエルが興奮するのも無理はないと思った。


 それ程の刺激だった。滅多に味わうことの出来ない。


 幸い、コア周り以外の完成している場所はほぼ何処へでも見学に行けた。


 つまりは、それだけコア周りが重要だと云うことだろう。


 特許料──技術の全てを見る料金は、決して安くは無いが、魔空船程もの技術となれば、そう高いとも言い切れない。


 コレが、特許権使用料──特許を取った技術の使用権利を得るとなると、ぐんと高くなる。具体的には、特許を申し出た、今回の場合は天星王が許可を下せる金額まで、大白金貨百枚ほど必要になる。但し、コチラの方は期限付きなのだ。


 事実上、特許権の期限が切れるまで、他の何者も作る事が出来ない。


 そこまでに、特許権と云うのは強い権利だった。


 逆に言えば、特許権の切れた特許は、誰でも手軽に使うことが出来る──筈なのだが、ココで特殊素材・水のアルフェリオン結晶と云うのが重要になって来る。


 コレは、『禁呪』の研究の産物で、簡単に言えば銀に近い性質を持った水の結晶──つまり氷──であった。


 特殊配列故の強固性を持っており、銀の融ける温度までは融けない。


 加工は容易ではなく、パーツ毎に作るか、パーツのサイズで作り上げて、削り出す、位しか加工の方法が無い。


 当然、特許は取っており、期限は切れているので一見、誰にでも作れそうに思えるが、水帝国の血筋が必要となる。


 そりゃそうだ。水の『禁呪』の研究の産物なのだ、水属性の魔法が得意でなければ作れない。


 それも、粒子の配置をコントロールするレベルの技術だ。生半可では無いのは、アイヲエルとて想像がつく。


 問題は、風と水は敵対属性で、国としての相性も悪い。


 ただ、唯一、希望があるとするならば、『氷』の一種でもあるので、特許料を支払って製法を学び、『氷皇国』に頼んで作って貰える可能性がある。


 物は試しだ、『氷皇国』に共同研究を申し込むのも良かろう。


 ──と、アイヲエルが結論を出した頃に、魔空船製造見学ツアーはお仕舞いとなった。


 そうしてから、アイヲエルは根本的な問題に気付いた。


 この魔空船、パーツの一つ一つに至るまで、『龍血魔法文字命令』が施されている。


 つまり、大量の『龍の血』が必要だ。


 そうなると、天星国の聖獣『天龍』に頼ることは出来ない以上、光朝国の聖獣『黄龍』に頼る必要がある。


 ならば、風神国・氷皇国・光朝国の三ヵ国に因る共同事業とせねばなるまい。


 天星国は魔空船の技術を余り漏らしたくないから協力を得られないものの、幸いにして光朝国はミアイの祖国でもある。


 加えて、優先権は低くても、魔空船を得られるのならば、光朝国は断るまい。


 (キー)は氷皇国の協力と、水のアルフェリオン結晶の製作可能性にある。


 実際に試してみた天星国は知っていることだが、水のアルフェリオン結晶を融かして加工しようと思うと、銀の融点で水蒸気爆発を起こす。


 危険なことであるので、ヴィジーはソレだけは入れ知恵をした。


「そうか、そんな危険性もあるのか……」


 つまりは、高温に弱い。しかも、負ける時は一気に爆発を起こしてしまう。


 さて。この難物をどう扱い、どう収拾を付けるのか。ヴィジーは、師匠としてアイヲエルの対応が気になるのだった。


 肝心のアイヲエルは、交渉の手順と特許料の確保に脳のリソースを割いていた。


 先ずは、水のアルフェリオン結晶の製作。それが出来ねば、何も出来ない。


 アイヲエルは、試しに水のアルフェリオン結晶製の刀でも作って貰うところから始めようかと考えていた。


 ただ、問題点は多い。氷皇国は氷を作ることは出来ても、水を作る事は出来ない。


 つまりは、氷の材料となる水が、大量に必要になる。


 この際だから、アイヲエルは水帝国の協力を取り付ける為に、水帝国の姫を側室に迎えようかと考え始めたのだが。


「……ミアイ──」


「ダメよ!」


 まだ何も言っていない内から断られてしまった。


 ミアイは、伊達にアイヲエルの正室の座を手に入れたのではない。


 今回ぐらい判り易ければ、アイヲエルの思考なぞ筒抜けである。


「重要な政策になると思ったんだがなぁ……」


 重要だからと云って、正室の座を脅かす側室なぞ、ミアイが許せる訳が無い。


 フラウは、未だ奴隷だから、側室にはなれど、正室には決してなれない。


 例え、嫡男を産もうが、ミアイに男の子供が恵まれなかったとしても、正室の座は揺るぎない。


 だが、水帝国の王族となると、話は違ってくる。


 嫡男一人産まれてしまえば、正室の座を奪われる。


 意外かも知れないが、子作りを焦っているのは、ミアイであり、アイヲエルではない。


 旅の途中であっても、妊娠さえしてしまえば、と云う思いがミアイにはある。


 その場合、即座に風神国に帰国しなければならない。ヴィジーも、ソレは心得ている。アイヲエルはそんな覚悟は決めていないし、子作りする気も無かった。


 その辺の危なっかしさから、ミアイはアイヲエルを追って来たものの、本当なら、風神国で快適に過ごしていたかった。


 まさか、天星国ですら、風神国に比べれば劣ることを、ミアイは予想だにしていなかった。


 やはり、風神国の豊かさは異常なのだ。


 そのことを再確認し、早めに風神国へ帰国を!とミアイは願っていた。


 この際、魔空船の製造を言い訳にしてでも、帰れないかと考えていた。だがアイヲエルにしてみれば、未だロクに旅もしていない。


 旅の目的が、段々、魔空船の製作を目指す方向に動こうとはしていた。


 ただ、大量の水を確保する為、アイヲエルが水帝国を目指そうとしていたことは、ミアイには誤算だ。


 水帝国は、領土が水に埋もれ過ぎていることが問題になるほどの水に溢れていると聞く。


 故に、水の回収は水帝国にとっては有難いことだし、その気になればまた水なら作れる。


 ただ、風神国の神子と云うだけで、アイヲエルは水帝国から嫌厭(けんえん)されている。そのことを、アイヲエルは未だ知らない。

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