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八国史  作者: 月詠 夜光
〜風の章〜

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第13話:騎士姫の嫁入り

 『騎士姫』の嫁入りには、天星国は歓喜した。


 一方で、火王国では「天星国に因る侵略なのでは?」と云う説が出ていた。


 だが、グラハムの嫁として、相応しく、そして応じる者は他にいなかった。火王国の血が途絶えるよりは、不可説不可説転倍ほどもマシだ。


 グラハム20歳、『騎士姫』28歳と云う、歳の差婚であった。


 肝心の鳳凰の召喚であるが。


 ヴィジーは、アイヲエルにこう言った。


「『朱雀』だ。万に一つだが、朱雀の羽は鳳凰の羽の代わりになり得る」


 そう訊いて、アイヲエルはホワイトウルフの血で魔法陣を描き、朱雀の召喚を試みた。


 すると、何故か魔法陣から炎が立ち昇り、現れたのは朱雀ではなく、明らかに『鳳凰』だった。


「良し!やはりこの可能性があったか!」


 火王国王不在が故の現象であった。大変珍しい現象だ。


 この際、雄の鳳であるか、雌の凰であるかは、余り関係ない。


 兎も角、抜け落ちた羽一枚で良い。出来れば、抜きたくは無かった。自然に抜け落ちたものを……と探すと、やはり、あった。


「良し!あとはコレで羽ペンを作って……」


 羽ペンの作成には、羽ペン作成用キットが売られているので、問題なく手順通りに作れば完成した。


 天龍はヴィジーが召喚し、願い出て血を少し分けて貰った。龍は図体がデカいので、痛みに鈍感な為、痛みを感じる前に血の回収を十分に済ませた後、痛がる前に送還する。


 そしてシュヴァルツが鳳凰の羽ペンで蓋付きの試験管に天龍の血で『龍血魔法文字命令』を書いた後に、試験管に天龍の血を詰め、『龍血魔法文字命令』の実行を行なった。


 そうして完成したポーションを、仮死状態のヴァイスの口に流し込む。喉を下るように、溢れさせないように、ゆっくりと。


 ドクンッ!


 周囲に音が聞こえるかと思う程の、強い脈動だった。


「フゥーッ。これで峠は越えたな」


 後は、ヴァイスが眠りから目覚めれば良いだけ。


 その刻は意外と早く訪れた。


「うーん……もう食べれないです」


 そんな寝言を言った後、ヴァイスは目覚めた。


「……アレ?皆、どうしたのですか?」


「ヴァイス!」


 アイヲエルが感極まってヴァイスに抱きつこうとしたところを、ミアイに首根っこを取り押さえられて止められる。


「ヴァイス、蘇生薬を使ったのだす。大丈夫だすか?」


「えーと……は!魔犬に噛まれたのです!許せないのです!退治に行くのです!」


 ヴァイスが元気だと分かると、一同、笑ってヴァイスの復帰を喜んだ。


「ヴァイス、もう危険な迷宮に入る必要は無い。

 野盗の類が出たら、また戦って貰うから、明日からシュヴァルツと特訓な」


「シュヴァルツと特訓して良いのですか?」


「ああ、問題ない。危ない時は、宜しく頼むぞ!」


「はいなのです!」


 ヴァイスはシュヴァルツとの特訓を、どうやら遊びの一種だと認識しているようだった。


 兎も角、フルメンバーが揃った。迷宮にも潜れるだろうが、アイヲエルの目的が明らかになった今、目指すは世界を股に掛けた旅だ。その旅の中で、アイヲエルは何かを学び取らなくてはならない。


 実際には、殆どの仕事は国の役人が行なってしまう。風神国王の仕事は、作業に関する書類が愚策か良策かを見極め、採択する事になる。あとは、外交ぐらいだ。


 アイヲエルにとっては、他の国の王族との交流が、仕事にも繋がる一手になる。故に、王族とは頻繁に会った方が良い。


 ソレは兎も角、今は『騎士姫』の嫁入りの準備だ。結婚式が、そのまま王の戴冠式に繋がる。なので、実は周囲は結構忙しい。


 後はヴィジーの権限で何とかするしか無いので、グラハムが無事に王座を継げるかは、実はかなりヴィジー次第なところが大きい。


 アイヲエルにとっては、それらの手続きをするのを眺めるのも、良い勉強になった。


 ただ、年上とは言え、ライバルを自認していたグラハムが先に王座に就くのは、ちょっとだけ悔しかった。ちょっとだけなので、旅を終えた後に王座を継ぐ決意を固める程の効果はあった。アイヲエルの両親は、実はすぐにでも王位をアイヲエルに継がせたかったのだ。


 だから、アイヲエルが王位を継ぐ決意を固めただけでも、アイヲエルが旅をした甲斐があった。ヴィジーも安心している程だ。


 ただ、火王国王の罷免の件は、ニュースとして各国へ広まっていくことは中々止め難い。アイヲエルの来訪を歓迎しない国も出て来る筈だ。


 話としては、各国の王は知っていた。でも、そんなにも簡単に罷免出来るのかと云う衝撃が走る。


 果たして、それが現役の王にのみ適用される事案なのか、それとも、王座を退いた超越者にも影響を与えるものなのか。


 それは、本当のところは分からない。だが、奴隷一人の命を軽視したから、等と言われても、たったそれだけで?と云う疑問が本音だ。


 ただ、超越者たちは普段の行いを改めようと思うぐらいの効果があった。


 聖獣を大切に思う気持ちと、命一つを大事に思う気持ち。少なくともアイヲエルは、後者の方を重要視したのだ。


 全く関係の無い第三者の話になると、アイヲエルの意見もどうなるか分からなかったが、この期に及んで、『禁呪』開発の愚かさと、富国政策の大切さを悟った。


 後は、現役の王たちが政策の梶切りを改めるばかりだ。


 『禁呪』の完成は悲願だった。が、天星国の豊かさを伝え知る王たちにとっては、『禁呪の不可能論文』の価値は値千金に感じられる。


 特に、光朝国は、ミアイの美しさを見てしまった。王妃が『禁呪の不可能論文』の完成を急かす程であった。


 グラハムが吐いた、『光朝国の芋娘』と云う発言は、良くも悪くも有名であり、それを娶ったアイヲエルは、『見る目が無い』と噂されていたが、とんでもない!


 『光朝国の芋娘』のシンデレラストーリーは、吟遊詩人も歌い廻る程だ。アイヲエルの先見の明も、それに伴って鰻上(うなぎのぼ)りだ。


 例えそれが、アイヲエルが好みの娘を選んだだけだと言われても、その時、選ばれなかった女性はどう思うのか。


 そして、屈強な女性として有名な天星国の『騎士姫』が火王国の王を継ぐ者の伴侶として選ばれたのも、嫁き遅れの女性のシンデレラストーリーとなる得るのであった。


 実際は、『騎士姫』はイメージで嫌悪されていただけであって、国の化粧の技術も相まって非常に美人なのだ。その為、やはりシンデレラストーリーを駆け登るのには美貌が重要!と思われてしまった。


 グラハムにして思えば、幸運でもあったが、災難でもあった。何せ、国の学力のレベルが違い過ぎて、一度国策を『騎士姫』に意見を求めたが最後、政を『騎士姫』に掌握されてしまった。


 それでも意見が的確であるが故に、火王国は飛躍的な発展を遂げるのだから、国民は『騎士姫』を持て(はや)した。


 そして、超越者の権限すら失ってしまった全火王国王は、『愚王』との悪名を(ほしいまま)にするのだった。望んでもいないのにだ。


 だが、火王国はグラハムの代を以て、非常に富んだ国へと発展を縦にするのだ。


 それに『騎士姫』が貢献したことは間違いの無い事実だ。騎士への道を歩んでしまったが故に、国の良いところ・悪いところが良く見えてしまう。土木作業も兼務するが故にだ。


 従って、国の道と河川の整備、畑の開墾、等、挙げたらキリが無い程の政策を打ち出した。


 故に、『騎士姫』に続いて得た称号は、『賢火王妃』であった。


 国民にしてみれば、これ程有り難い王妃も中々存在しないのだった。

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