第093話 中の人などいない!
部屋は2人部屋なだけあってそこそこ広く、10畳以上はある。
ベッドが並ぶように置かれており、窓際には窓から外が見える配置でソファーが置かれている。
他にもシンプルながらも上質な家具が揃い、清潔感と落ち着きが同居する空間だった。
「良い部屋だな」
「ですね」
俺達は窓際に行くと、カバンを置き、ソファーに並んで腰かけた。
窓の外には建物があるが、この宿屋は少し高いところに建てられていることもあり、ここからでも海が見えている。
「今日は休みな」
「はーい」
俺達はぼーっと海を眺めながらゆっくりと過ごしていく。
部屋の静寂とわずかに外から聞こえる町の喧騒が心地良かった。
「お前、子供相手にも上手に対応するんだな」
「んー? まあ、村でも下の子を見てましたし、王都の孤児院でも似たようなことをしていましたからね」
そうか……
「俺も孤児院にいたが、そういうのが非常に難しかった。どうすればいいのかわからなかったんだ」
何故騒ぐ? 何故泣き叫ぶ? 何故じっとしていられない?
「先輩、前世の記憶があるんですよね? そのせいじゃないですか? 子供じゃなくて精神が大人なんで難しかったんだと思いますよ」
それもあるだろうな。
でも、それ以上に前世を含め、子供を得意としていなかった。
「子供か……」
当然、俺にも子供の時はあった。
今世は大人びた生意気な子供だったと思う。
前世はどうだっただろうか?
もう覚えていない。
「宿屋の子、可愛かったですね」
「確かにな。まだ小さかったが、しっかりしていた」
ちゃんと客の対応ができていたと思う。
あれならご両親も任せられると思うだろう。
さっきの女の子のことを思い出していると、部屋の中をふよふよと飛んでいたウェンディが俺達の前にあるローテーブルに降り立った。
「レスターさんは男の子と女の子でしたらどちらが良いですか?」
ん?
「どういう意味だ?」
「いや、子供の話です。どっちが良いかなーっと」
どっち……
「そう言われてもな……考えたこともない」
「そうですか? ご結婚されたわけですし、考えても良いと思いますが……」
結婚、子供……
確かにそういう風に繋がっていくだろう。
店を開き、エルシィと暮らす。
そうすると、子供もでき、育てていく。
それが普通だ。
「子供……俺が親? 親……親?」
親って何だ?
金を稼ぐだけが父親の役目ではないことはわかっている。
「いや、そんなに葛藤しなくても……」
「すまん。親の顔も知らない孤児だったし、前世は前過ぎて思い出すのに時間がかかるみたいだ」
働いている時のことはすぐに思い出せるのに何故かそれ以前のことがあまり思い出せない。
「前過ぎてって言ってもそんなに忘れるようなことでもないような気がしますが……ご両親のことですよ?」
両親……
確か共働きで……あれ?
「顔も名前も思い出せる。でも、なんか記憶が異様に薄いな……別に普通の家庭で嫌な思い出があるわけじゃないんだが……」
もやがかかっているような感じだ。
何だ、これ?
「レスターさん、すみません。無理に思い出すのをやめた方が良いと思います。多分、あなたはイレギュラーなので記憶が混乱している可能性があります。もしくは、脳が正常な状態を保とうとしているからだと思いますので無理することはありません」
それもそうか……
人間の記憶の容量は決まっている。
昔の記憶から消していっているのかもしれない。
「いつか前世のことを完全に忘れてしまうのかもな」
そんな気がする。
「別にそれでも良いじゃないですか。あなたはレスターさんです。素敵な奥様がいらっしゃいますよ」
ウェンディにそう言われてエルシィを見る。
すると、エルシィがウィンクをしながら舌を出した。
「そうだな。前世は前世、今は今だ」
前世のようにはなりたくない。
だから俺はここにいるし、店を建てるために旅をしているのだ。
「エルシィさんは男の子と女の子、どっちが良いですか?」
ウェンディが今度はエルシィに聞く。
「両方。私、子供が好きだもん」
「あなたはそんな感じがしますね。旦那さんは子供の扱いが苦手そうですし、頑張ってください」
「いやー、どうだろう? 先輩って、なんだかんだ言いながらいざ子供ができると、猫可愛がりしそうじゃない?」
そうか?
「そうですかね?」
「だって、先輩って自分が大好きというか、身内びいきの人だもん」
「あー……それもそうですね。実際、エルシィさんに甘々ですし」
うーん、自分ではわからない。
「想像ができんな」
俺って、そんな感じか?
「そんなものですよ。離れた弟や妹がいるパターンやエルシィさんみたいなパターンもありますが、大抵の人は未経験です。でも、何とかなるものなのですよ。人間はそうやって今日まで子孫を繋ぎ、発展していったんですから」
おー、ウェンディが珍しく天使っぽいことを言っている。
「わかるな。仕事だって未経験なことの方が多い。この旅だってそうだ」
「ええ。人はそうやって成長していくのです。大丈夫……今のあなたは前世とは違い、一人ではありません。どんなことがあっても支えてくれる人がいます。逆に支えなければならない人もいます。常に感謝し、お互いを尊重しながら日々成長していくと良いですよ」
天使だ。
実に天使っぽい。
うーん……中身が別の天使に入れ代わってないか?
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