第089話 新たなる旅路 ★
俺達が船室で待機していると、船が動き出す。
すると、少佐が部屋にやってきて、ニーナを連れ、出ていった。
多分、交渉を再開するのだろう。
「カルロ、やはり明日には出ようと思う」
「そうか。最後にピンチはあったが、儲けられて良かったじゃないか」
まあな。
そのまま船の中で待っていると、1時間くらいでニーナが戻ってきた。
「交渉してきましたよ」
ニーナが席につく。
「どうだった?」
そう聞くと、魔法のカバンから木箱を取り出した。
木箱の中には金貨が大量に入っている。
「半分をもらうことになりましたね。ただし、無人島であったことは他言無用なことと、この金貨をターリー国内で売らないこと。これが条件です」
その条件なら問題ない。
明日にはここを出るのだから。
「悪いな」
「いえいえ。商人の腕の見せ所ですよ」
「分け前は?」
「大丈夫です。祝儀ですよ、祝儀」
本当に人間ができた兄妹だ……
「感謝する」
「ありがとー」
礼を言うと、金貨が入った木箱を魔法のカバンに収納する。
「それとこれが今回のお仕事の依頼料です」
ニーナが札束をテーブルに置いた。
「500万ゼルか」
「はい。兄さんが言ってたようにレスター先輩達が250万ゼルです」
ニーナが半分をこちらに渡してくれる。
「確かに」
「兄さんはどうする? おこづかいにする? 家に入れる?」
「とりあえず、家に入れとけ」
「わかった」
ニーナが頷くと、札束を収納したので俺も収納した。
「ニーナ、レスター達はやはり明日発つそうだ」
「あ、そうなんだ。寂しくなるけど、こればっかりは仕方がないね。じゃあ、今夜、夕食を食べに行きましょうよ」
「そうだな」
俺達は今夜の予定を話し合いながら待っていると、船が軍港に到着したので船から降りる。
そして、宿屋に戻り、一休みすると、カルロとニーナと食事に出かけた。
場所は上の方にある個室があるレストランであり、ちょっと高そうだった。
それでも最後の夜なので5人で遅くまで飲み食いしていき、最後はべろんべろんになったカルロに肩を貸しながら家まで送り、俺達も宿屋に戻って就寝した。
翌日、ちょっと遅めに起きた俺達は朝食を食べた後に準備をし、1階の受付に降りる。
受付の前にはカルロとニーナがおり、女将さんと話していた。
「よう。大丈夫か?」
かなり飲んでいたカルロに聞く。
「ウチには二日酔いに効くポーションがあるんだよ」
そういやニーナがそんなことを言ってたな。
「兄さん、飲みすぎ」
「いいじゃねーか。今日は休みだしな」
カルロは今日、俺達を見送るために仕事を休んだのだ。
ニーナも店の仕事を休み、ここにいる。
「レスター先輩とエルシィは大丈夫ですか?」
「俺はそこまで飲んでない」
「私もー」
というか、本当にがばがば飲んでいたのはカルロだけだ。
俺達は普通に嗜む程度しか飲んでいない。
「普通はこうだよ。兄さんも船乗りとか職人に染まらないでね」
「わかってるよ。それよか、そろそろ時間だし、行こうぜ」
時刻は10時半を回っている。
出航の時間は11時なのでそろそろ出ないといけない。
「女将さん、世話になった」
「ありがとうございましたー」
「ご飯、美味しかったです」
俺達は女将さんに礼を言う。
「またおいで。いつでも歓迎するから」
「ありがとうございます」
俺達は女将さんに頭を下げると、宿屋を出る。
そして、坂を降りていくと、港に行き、イパニーア行きのチケットを購入した。
「じゃあ、俺達は行くわ」
イパニーア行きの船の前まで来ると、振り向く。
「ああ。気を付けてな」
「お店を開くのは大変だと思いますけど、頑張ってください」
2人は笑顔だ。
「ああ。お前達もこの町で頑張ってくれ。坂はあれだけど、本当に良い町だと思う」
「俺もそう思う」
カルロが笑った。
「エルシィ、店を出したら手紙をちょうだい。今度は私達が遊びに行くから」
「うん。絶対に送るね」
エルシィとニーナが両手を握り合う。
「レスター、また飲みに行こうぜ」
「ああ。またな」
もう友達と呼ぶことにも一緒に飲みに行くことにも抵抗はなかった。
「じゃあ、私達は行くね」
「元気でな」
「色々とありがとうございました。御二人の息災を祈ります」
天使が祈るの?
「ウェンディちゃんもまたね」
「じゃあな、人形」
俺達は2人と別れ、タラップを昇り、船の中に入った。
そして、個室に入ると、テーブルにつく。
「今回も色々とありましたけど、良い旅行でしたね」
「そうだな。来て良かった。本当にそう思える」
アラムのことなんてどうでもいいと思えるほどに良いことがあった。
「次はイパニーアですね」
「ああ。また観光を楽しみながら金儲けをしていこう」
「はい」
俺達は海を眺めながら出航を待つ。
そして、しばらくすると、船が動き出したので3人でクジラとイルカを探しながら海を眺めていった。
◆◇◆
レスター先輩達がこの町を出て、3日が経った。
私は軍に営業に行った父の代わりに店の受付で番をしていた。
「んー? お前だけか? 親父は?」
今日休みの兄さんが奥から出てきた。
「軍の方。二日酔いの薬の営業に行った」
「あー、あれな。効く、効く」
身をもって実験したもんね。
「暇なら手伝ってよ」
「あいよー。在庫の確認でもするわ」
兄さんが店の商品を見始める。
すると、店の扉が開き、長い金髪を一本に結んだ若い女性が入ってきた。
「いらっしゃいませー! ん?」
「いらっしゃい……あれ? ミュリエル先輩じゃないっすか」
本当だ。
魔法学校の先輩だったミュリエル先輩だ。
「やあ、2人共。元気だったかい?」
「お久しぶりです」
「どうしたんっすか? 旅行っすか?」
旅行ではないだろうね。
「いつものやつだ。今日は私が来た。何かあったか?」
ミュリエル先輩が商品を眺めながら聞いてくる。
「ターリーは海軍を強化しています。ただ、あくまでも東の諸国への対応です」
「相変わらず、この国は東しか見てないっすね。イラドは眼中にないっすわ」
私達はこの国の出身でこの国の人間だ。
だが、イラドの密偵でもある。
「まあ、そんなものだろうな。イラドは遠い」
ここからはちょっと遠いし、ランスやゲイツという大国を挟んでいる。
「特に不作があったこともないですし、いつもと変わらないですね」
「この前、ちょっと強い雨が降ったくらいっすかね?」
「ふーむ……まあ、変わりないか。引き続き、頼む」
自分でも祖国に弓を引いている自覚はある。
しかし、仕事は仕事だ。
「了解です」
「それにしてもミュリエル先輩がわざわざ来たんですか? ランスにいるんじゃなかったですっけ?」
うん。
この国を担当する密偵のリーダーは王都にいる。
その人が訪ねてくることはあるが、ミュリエル先輩が来るのは珍しい。
「ちょっと他の仕事もあってな。君達、レスター・ハートフィールドとエルシィ・ヘミンズリーを知っているか? 同じ魔法学校の生徒だった奴らだ」
え?
「レスターは俺の同級生っすよ」
「エルシィは私の同級生です」
「そうか……そいつらがここに来てないだろうか?」
えーっと……
「また懐かしい名前っすね。何かあったんですか?」
私が答える前に兄さんが聞く。
「詳しくは私も知らんが、陛下より直々に始末せよと命じられている」
は? 陛下?
レスター先輩とエルシィ、何したの?
ただ国を出ただけで陛下が出てくるわけないんだけど?
「陛下って……何があったか知らないですけど、レスターとは卒業以来会ってないですよ」
兄さんがそう答えたので私の答えも決まった。
「私もエルシィとは卒業以来会ってないです」
「そうか……」
ミュリエル先輩が腕を組んで考え込む。
「なんでここに来たんっすか? いないでしょ」
「私もそう思う。でも、陛下に言われたんだ。まあ、面倒だ。やれゲイツに行けだ、ランスに戻れだ……ハァ……次はヤークに戻って王都だよ」
大変ね。
「お疲れっす」
「ああ。何かあったら連絡してくれ。じゃあな。ハァ……」
ミュリエル先輩はため息をつくと、店から出ていった。
「兄さん、いいの?」
明らかに仕事を放棄した。
「素直に言った方が良かったか? レスターとエルシィはこの前までこの町にいて、次はイパニーアに向かったと?」
「私は言いたくない」
エルシィは大切な友人なのだ。
「俺も言いたくない。あの2人が何をしたかは知らねーが、どうせ貴族とトラブったとかだろ。まあ、貴族が悪いに決まっている」
私もそう思う。
レスター先輩もエルシィも真面目な人間で変なことをする人間じゃない。
逆にイラドの貴族は御察しだ。
「イラドのことなんかどうもでいいか」
「そうそう。そもそもイラドとこの国はほぼ関係性がないんだから密偵を置くのもアホらしいと思うわ。それに国は売れても友人は売れねーわ」
ホントにね。
ミュリエル先輩には悪いが、遠方の雇われ密偵に期待しないでもらいたい。
「今頃、2人はどうしているかな?」
「船の上でランデブーだろ」
ランデブー……
「兄さん、結婚しないの?」
「お前は?」
………………。
「「……さあ、仕事、仕事」」
今日も良い天気だ。
2人の成功を祈って仕事をしよう。
ここまでが第2章となります。
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