第073話 そっくり
俺達は下の造船場なんかがあるところまでは下りず、その1つ上の階層を右に曲がった。
そして、2階建ての建物に入る。
店の中は高級な店といった感じではなく、大衆の居酒屋のような感じがした。
「いらっしゃいませー! あら、カルロさんじゃないの」
店に入ると、すぐに若いウェイトレスが元気良く声をかけてくる。
「ああ。2人なんだが、空いてるか?」
「もちろん。お好きな席にどうぞ!」
ウェイトレスがそう言うと、カルロが奥に行ったのでついていく。
そして、2人用のテーブル席についた。
「よく来るのか?」
「たまにだな。実家住まいだから基本的には帰ったら飯が出てくるんだよ」
それもそうだな。
「お母さんはいるのか? お父さんの方は見たが……」
「母親はずいぶん前に死んでるな」
あっ……
「そうか……すまん。聞いてはいけないことだった」
デリカシーがなかったわ。
「いや……孤児のお前に言われてもな」
まあ、そうなんだけどな。
「本当に悪い。その辺がわからなかったんだ。それよりも何を飲む?」
「俺はエールでいいが……ワインにするか?」
エールは美味いと思わないんだよな。
「そうする」
「料理はどうする? 俺がおすすめを適当に頼もうか?」
「そうしてくれ。地元民のおすすめに従った方が良い」
「わかった」
カルロはさっきのウェイトレスを呼ぶと、酒と共に料理を注文した。
そして、しばらくすると、酒と魚を中心とした魚介の料理がやってきたので乾杯し、食べだす。
「美味いな」
何かの貝の蒸したものだが、非常に濃厚で美味しい。
それに何よりもこの白ワインと合う。
「だろ? ニーナは上に行っていると思うが、味はこっちの方が絶対に上だ。観光客用は上品なものしかないからな」
うーん、これが下品とは思わないが、大衆向けなのは確かだ。
でも、非常に美味しい。
「イラドはどうだった?」
「ひどかったな……実家から送ってもらった缶詰だけが食の楽しみだった」
やっぱりか。
「俺もエルシィも国を出て、初めてそれに気付いた。世界には美味しいものがたくさんあるんだな」
「そりゃそうだ。ウチは何といっても海産物だ。オリーブも採れるし、世界的に見てもめちゃくちゃ人気なんだぜ?」
わかるな。
今、アヒージョみたいなオリーブオイルで煮込んだエビやキノコの料理を食べているが、にんにくとオリーブオイルがガツンと来て、非常に美味しい。
「カルロは卒業後にすぐにここに戻ったんだよな?」
「ああ。イラドは食いもんに関してはあれだったが、やはり錬金術を始めとした魔法関係はすごかった。あの国で学んだ技術を使って頑張っている」
ニーナと同じか。
「造船関係だったか? 良かったな」
「ああ。お前は? ニーナに聞いたんだが、宮廷錬金術師を辞めたんだって?」
「貴族と揉めてな……わかるだろ」
嘘はついていない。
「あの国、貴族の力が強かったからな……それでエルシィちゃんを連れて、国を出たわけか?」
「まあ、そんな感じだな。同じ部署にいたから同じように揉めたわけだ」
「子分だもんな。それで結婚か?」
結婚か……
「そうだな。俺は別に出世したいわけでも大成したいわけでもないんだ。ささやかな幸せでもいいから後悔のない人生を送りたい。そう思った時にアトリエでも開こうと思ったんだ」
「それにエルシィちゃんも賛同したわけ?」
「ああ。それでそういうことになった」
いまだになんでそうなったのかわかっていない。
でもまあ、これで良いだろう。
俺はエルシィに何の不満もないし、これまでずっと一緒にいてくれた人間がこれからもずっと一緒にいるだけだ。
「ふーん……まあ、あの子分ちゃん、いつもお前にべったりだったもんな」
べったりって感じではなかったと思うが……
「同じ孤児でな……気にかけていたんだ」
「ただでさえ、身分が面倒な国だしな。俺も別の国だったが、同じ留学生とは特に仲が良かったよ」
そういうのもあるだろうな。
「確かに似たような感じだな」
正直、お前以外に留学生がいたっけって思っているがな。
多分、ウチのクラスにはいなかったと思う。
「新婚旅行は楽しいか?」
「楽しいな。俺達はイラドしか知らないし、こんな海は見たことがない。何よりも飯が美味いのが一番だ」
貝、美味いわ。
そういえば、前世でも貝が好きだったことを思い出した。
「飯は大事だからな」
「まったくだ。まあ、新婚旅行と銘打っているが、実際は金稼ぎと店を出す場所探しだな。イラドはないし、良い町があったらそこで店を開きたい」
そして、自分達のペースで仕事をしていきたい。
「この町はどうだ?」
「良い町だと思うが、ないな。ニーナも言っていたが、土地がないだろ」
「ないな。あっても高い。それにお前らはこの坂ばっかりの町を好きになれないだろ」
うん。
「インドアなんだよ」
「お前、シティーボーイだもんな」
そんな良いものじゃないわ。
「正直、帰りを心配している」
「安心しろ。最悪はおぶってやる。これまでに良い町はあったか?」
うーん……
「ここに来る前にポードに行っていた。その際に王都近くの町に行ったが、あそこは良かったな」
イレナがいたミックの町だ。
穏やかで良い町だった。
「ポードは行ったことないけど、良い話は聞くな。あとはランスとかイパニーアか? 北部で言えば、ウェールか?」
こいつ、詳しいな。
「詳しいようだが、色んな国に行っているのか?」
「行ってはないな。留学する際に色々と調べたんだ。最終的にはイラドとゲイツを天秤にかけてイラドにしたってところだ」
ゲイツも魔法関係に力を入れている国だからな。
「ゲイツはないが、おすすめの国とかないか? 次に行く国を考えているんだ。あ、船での移動を希望する。なんかウチの使い魔とエルシィがイルカとかクジラを見たいって言ってる」
「イルカはたまに見るから見れるかもしれんが、クジラは無理だと思うぞ…………まあ、海路な。だったら西のランスかイパニーアだろ。東に行ってもいいが、一気に文化が変わるからおすすめはしない」
ランスかイパニーアか……
ランスは一応、行っているんだよな。
ただ、あそこはイラドの同盟国ということがある。
とはいえ、王都に近づかなければ大丈夫だと思うが……
「考えてみるわ」
「まあ、ゆっくりしていけよ。それよりもお前が結婚とはなー。そういうのに全然、興味がないと思っていた。やっぱりあれか? ああいう子が好みなのか? 親父も可愛い子って言ってたしな。いつからそういうのを意識したんだ? 最初から狙ってたのか?」
兄妹だな……
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