第060話 ニーナの実家
カルロと別れた俺達は工場街を抜け、坂を登っていく。
「結構、急だな」
疲れる……
「そうですね……大変です」
エルシィもちょっと嫌そうな顔をしている。
なお、エルシィに抱えられているウェンディは涼しい顔だ。
「私は子供の頃からだから慣れたものだけど、2人はきついかもね。たまに旅行に来た老夫婦が音を上げているのを見るよ」
俺達は老夫婦か……
「この町の人間は強そうだな」
「そうかもしれませんね。あとちょっとですので頑張ってください」
俺とエルシィはちょっと息が上がりながらも坂を登っていくと、ようやくさっきニーナが指差した家の高さまでやってきた。
「あー、疲れた」
「イラドの王都には坂なんかありませんもんね」
イラドの王都は平地なのだ。
「まあまあ。ほら、後ろを見てごらん」
ニーナがそう言うので後ろを振り向く。
すると、一面に海が見え、きらきらと輝いていた。
「おー……」
「海です!」
「これはすごいな」
高台から見ているため、かなり遠くまで見え、水平線が横一面に広がっている。
何隻かの船も見え、今世はもちろん、前世でも見たことがない素晴らしい景色だった。
「でしょ? でも、ここはまだ中腹。一番上に灯台があるんだけど、そこからの景色が一番すごいよ」
ニーナにそう言われて、丘の上を見ると、確かに一番上には灯台があった。
「高いな……」
「まだ三分の一くらいなんですね……」
あそこまで行けば景色はすごいと思うが……
「すぐに慣れるよ。こっち、こっち」
ニーナが左の方に歩いていくのでついていく。
今度は坂ではなく、横に歩いているのでたいして疲れない。
むしろ、眺めが良く、風も気持ちいいため、快適だった。
「こういう風景を毎日見られるのも良いですね」
「そうだな。朝の目覚めは最高だろう」
良いと思う。
「夢を壊すようなことを言いますが、住めばそれが当たり前になりますよ」
現地民のせいで夢が壊れたな。
「でも、ニーナちゃん、学生時代は海が見たいとか言ってたじゃん」
「それはただのホームシック。あなた達だっていつかはイラドに帰りたいって思うわよ」
いやー……
「思いますかね?」
「俺は思わないと思う」
貴族社会だし、飯が不味い。
そして、何よりも追われているし。
「ですよね。私も多分、思わないと思います。そもそも王都出身じゃないですし、地元もそこまで良い思い出がないです」
「俺は王都出身だが、同じくだな」
孤児だし。
「人それぞれなのかな? でもまあ、2人は宮廷錬金術師という地位まで捨てて国を出たからそれもそうか」
そこは何とも言えないな。
「私達には夢があるんだよ」
「良いことね。あ、着いた、着いた」
ニーナが下からも見えていた赤い屋根の建物の前で立ち止まる。
建物は2階建ての店兼家のようであり、1階は商店っぽく、店の出入口の上にタルティーニ商店という看板があった。
「ここか……俺達、あそこにいたんだよな」
下の方の港を見る。
まだ俺達が乗ってきた白い船は停まっており、ここからでは小さく見える。
「ウェンディちゃん、飛んでみる?」
エルシィがそう聞くと、ウェンディがふよふよと浮き出し、高台からまっすぐ飛んでいった。
しかし、途中で下を見ると、くるりと振り向いて引き返してくる。
そして、エルシィの腕の中に戻った。
「私は鳥ではなかったようです。部屋の中でしか飛べません」
怖かったらしい。
「そっかー。じゃあ、仕方がないね」
「その人形、がっつり飛ぶんだね……」
ニーナはいまだに慣れないっぽいな。
「使い魔だよー」
「ウェンディでーす」
「うん……私の勘では使い魔じゃないっぽいけど、スルーするね」
良い勘だな。
「ニーナ、それよりも家に入らなくていいのか?」
「あ、そうですね。どうぞ、どうぞ」
ニーナがそう言って店の中に入っていったので俺達も続く。
店の中はそこまで大きくはなく、コンビニサイズだったが、ぱっと見でも様々なものが売られているのがわかる。
そして、店の奥には受付があり、ひげ面のおっさんが座っていた。
「父さん、ただいま」
ニーナが受付に向かいながらひげ面のおっさんに声をかける。
どうやらニーナの父親らしい。
「おー、ニーナ。帰ったか……ん? 客か?」
親父さんが俺達を見て、ニーナに聞く。
「ううん。ヤークの町で偶然会ったイラドの魔法学校の同級生のエルシィと先輩のレスターさん。レスターさんは兄さんのクラスメイトだね。2人はご結婚されたようで新婚旅行中なんだよ。それで観光地であるこの町まで案内した」
「ふーん、なるほどな……2人共、よく来てくれた。俺はニーナの父親でこの店の店主のロマーノだ」
親父さんが俺達に自己紹介してきた。
「レスターです」
「エルシィでーす」
「イラドでは娘と息子が世話になった。歓迎する」
親父さんがそう言って頭を下げる。
「いえ、こちらこそ世話になりましたし、娘さんにはここまで案内してくださいましたので礼を言いたいです」
「ありがとうございまーす」
俺達も頭を下げ返す。
「そうか……ニーナ、友達と先輩がここに滞在されている間、面倒を見てやれ」
「わかってるよ。これから町を案内する予定。そういうわけで王都での成果の報告なんかをしたいんだけど」
「そうだな。2人共、店の商品でも眺めながらちょっと待っててくれ」
「ごめんねー」
2人はそう言って店の奥に入っていった。
「店の人間がいなくなったけど、いいのかね?」
そんなことしないが、店のものを盗まれるとは思わないのだろうか?
「王都なんかの大きな町では考えられませんが、田舎はこんなものでは?」
「そうかもな」
この町は田舎って言うほどではないが、さすがに王都なんかの大都市と比べると、一回りも二回りも規模が小さい。
「せっかくですし、見ていきましょうよ。売れそうなもの探しです」
「そうするか」
俺達は待っている間に店の商品を見ていくことにした。
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