第056話 付喪神(天使)
エルシィがお茶を淹れてくれたので一緒にテーブルにつきながら飲んでいると、船が大きな汽笛を鳴らし、動き出した。
「おー、動きましたよ! こんな大きな船でも動くんですねー。帆船ですし、風ですかね? まさか手漕ぎじゃないですよね?」
ウェンディが興奮しながら聞いてくる。
「船も列車も飛空艇も動力は魔石という鉱石だ。魔石という魔力の結晶をエネルギーに変えて動かしているんだよ」
魔石は動力だけでなく、インフラ関係にも使われており、現代社会では必要不可欠なエネルギーだ。
「ほー……人類はすごいですね」
「お前も魔石で動く人形ってことにしたら良かったかもな」
「ウェンディちゃんが盗まれちゃいますよー」
それもそうだな。
エリクサーよりも珍しいかもしれん。
俺達はその後も外の風景を見ながらまったりと過ごしていると、ノックの音が聞こえてきた。
「はーい?」
エルシィが答える。
『昼食をお持ちしました』
外からそう聞こえたので備え付けの時計を見ると、昼の12時だった。
「ちょっと待ってくれ」
そう言って立ち上がると、扉の方に向かう。
そして、扉を開けると、ウェイターがおり、食事を乗せたワゴンがそばに置いてあった。
「こちらが昼食になります。食べ終えましたら外に置いておいていただければ回収いたします」
「どうも……あ」
ワゴンに乗っている昼食を見て、気付いてしまった。
「いかがなさいましたか? もし、苦手なものがございましたら取り替えさせていただきます」
メニューは肉料理とパン、それにサラダとスープだが、嫌いなものなんてない。
しかし、2食分しかなかった。
「申し訳ない。説明不足だった。実はウチには使い魔がいてな……3食必要だった」
「へ!? 私の分がないんですかー!?」
窓に張り付いている食いしん坊のウェンディが驚いて振り向いた。
「あれだ」
ウェンディを指差す。
「それは大変申し訳ございません。すぐにご用意いたします」
ウェイターが一切、非がないのにもかかわらず、頭を下げる。
「すまんが頼む」
「すぐにもう1食分、ご用意いたします」
ウェイターはそう言うと、足早に去っていったのでワゴンを部屋の中に入れ、テーブルまで持っていった。
「エルシィ、ウェンディ、先に食べろ」
そう言いながら食事をテーブルに並べる。
「待ちますよー」
「そうですよ」
「せっかくの料理だ。温かいうちに食べてくれ」
俺は後でも構わない。
「そうですか……じゃあ」
「いただきまーす」
2人が食べ始めたのでそれを眺めながらワゴンに置いてあったメニューを見る。
「追加で色々と頼めるみたいだぞ。ワインもあるし、デザートもある」
値段はちょっと高めだが、それは仕方がないだろう。
ハムサンドが5000ゼルの飛空艇よりずっと良心的だ。
「良いですねー。夜にワインでも頼みましょうよ」
「私、ケーキが食べたいです」
「そうだな」
そのまま待っていると10分程度でノックの音が聞こえてきたので扉の方に行き、開ける。
すると、さっきのウェイターがもう1食分の食事を乗せたトレーを持って立っていた。
「お待たせしました。この度は大変申し訳ございませんでした。お代の方は結構ですので」
えー……
悪いのはこっちなのに……
でもまあ、もらっておくか。
「こちらこそ申し訳なかった。そして、サービスに感謝する。それとだが、15時くらいにケーキを3つ頼みたい。また、夕食も3食で追加でワインを頼む」
そう言って、トレーを受け取る。
「かしこまりました。この度は大変申し訳ございませんでした」
ウェイターはそう言って頭を下げると、去っていく。
それを見送ると、テーブルに戻り、席についた。
「過剰なサービスだな」
「すごいですよね。これで2等なんですから1等はどんな感じなんでしょう?」
確かに気になるな。
「次の機会があったら1等に乗ってもいいかもしれん。まあいい。食べよう」
ウェンディはともかく、エルシィの方は明らかに食べるスピードを落としているのだ。
「このお肉、美味しいですよ」
エルシィに言われて食べてみると、確かに美味い。
「鴨肉か? 船の上で食べる肉料理も良いものだな」
「絶対に魚介類が出ると思ったんですけど、よく考えたらバランスが大事ですよね」
美味いけど、ずっと魚介類はな。
俺達は昼食を食べ終えると、話をしながら外を眺めて過ごしていく。
すると、またもやノックの音が聞こえてきた。
「はーい?」
エルシィが答える。
『私、私ー。入っても大丈夫?』
この声はニーナだ。
「いいよー」
エルシィが許可を出すと、扉が開き、ニーナが部屋に入ってきた。
「おー、良い部屋だね」
ニーナはきょろきょろと部屋を見渡す。
「ニーナちゃんのところは?」
「この部屋の半分くらい。まあ、1人用の個室だしね」
そうなのか。
まあ、ベッドが1つならそうなのかもしれない。
「そっかー。あ、座って」
「ありがとう」
ニーナが席につくと、エルシィがニーナの分のお茶を用意しだした。
「良い奥さんですねー。レスター先輩は良い子に目を付けましたね」
ニーナがエルシィを眺めながらにやにやする。
昨日の夜に話をした時にわかったのだが、やはり俺がナンパしたということになっているらしい。
「お前はどうだ? 兄のことをなんか言ってたけど」
結婚しないとかどうとか。
お前も1つしか違わないだろ。
「私は当分いいですよ。今は仕事が楽しいんです。イラドは貴族社会で庶民の私にはあまり好ましくない国でしたけど、レベルの高いところで錬金術を学べたのは良かったです」
それはそうだな。
「まあ、楽しいならそれでいいか」
「そうですよ。ところで、あの子は?」
ニーナが窓に張り付いているウェンディを見る。
「外の風景を見るのが楽しいらしいんだ。放っておいてやれ」
「ハァ……? 外に出られなかった人形ちゃんが自我を持ち、冒険でもしているんですかね?」
アーティストだねぇ……
そういう歌とか物語がありそうだわ。
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