第043話 恨み
俺達がひたすらキュアポーションを作っていると、夕方になった。
すると、ノックの音が部屋に響く。
「誰だー?」
『私、私。ご飯食べましょうよー』
イレナだ。
「ちょっと待ってろ」
俺達は錬成を中断すると、立ち上がって、部屋を出た。
部屋の外には当然だが、イレナがいる。
「じゃあ、行きましょうか」
俺達は階段を降りていくと、1階の食堂にやってきた。
そして、受付にいた若い女の子に定食とワインを頼むと、4人で食べだす。
「いやー、あなた達のおかげでかなり儲かりそうだわ。ありがとうね」
イレナが上機嫌でそう言うと、グラスにワインを注いでくれた。
「どうも。俺達も儲かりそうだから助かったわ」
「キュアポーションはどう? 作れてる?」
「ああ。あと少しで60個できる」
1個10万ゼルと思ったら頑張れたのだ。
「本当にすごいわね、あなた達……王都に留まった方が儲かるわよ?」
「面倒なのはごめんだ。そういうのが嫌いなんだよ」
貴族とは関わりたくない。
それにここで活躍したら確実にイラドから刺客が来る。
「そっか。まあ、ミックでアトリエでも開いてよ」
「それは考えておく」
良い人生を送れると思う。
「イレナさんの方はどうだった? クムーラ商会に断りに行ったんだよね?」
エルシィがイレナに聞く。
「受付に用件だけ言ってそのまま帰ってきた。あんなところはそれで十分でしょ」
本当に嫌いなんだな。
「ラック商会で良かったか?」
「ちょっとムカついたけど、あれ以上はないでしょ。それに今後の付き合いなんかも考えると、断る選択肢はなかったわ。ムカついたけどね」
相当、ムカついているな。
イレナの商人としての欠点はこの人間臭いところを消しきれないところだ。
「もうこのポーション問題に関わるのはやめとけよ」
「そうする。もう私の力量的にも撤退時よ。儲けたお金で店の改修でもしようかな」
相当、儲かったしな。
俺達が飲み食いしながら話をしていると、一人の男が食堂に入ってきた。
その男は髭を生やした太った男であり、見たことがある。
「ここにいたか……」
男は俺達というか、イレナを見ている。
「あら? レシェックさんじゃない? あなたも夕食?」
男はクムーラ商会の商会長であるレシェックだ。
「ふざけるな。貴様、ラック商会にポーションを売ったそうだな」
まだ売ってないけどな。
「そうだけど? 別にいいでしょ。商売は自由よ」
「何故、ウチに売らない?」
「あなた、それでも商人? ラック商会の方が高値だったからそっちに売っただけ」
ケンカ腰だな……
まあ、それはレシェックの方もだけど。
「貴様こそ、商人か? 何度でも交渉するものだろう」
「交渉の余地がないと言ったのはあなたでしょ? 私は正直者だからその通りにしただけ」
ウェンディ、エルシィの腕を叩かなくてもいいぞ……
「貴様……Aランクポーションまで持っていたらしいな?」
そこまで掴んだのか。
早いな。
「売る気はなかったけど、ラック商会の商会長さんに頼まれたからね。流れよ、流れ」
「数も相当な数だな?」
「流れね、流れ。私は未熟だからラック商会の商会長さんに流されちゃった」
煽るな、こいつ……
あと、ウェンディ、叩かんでいい。
「今からでもなかったことにして、ウチと契約しろ。ラック商会の倍を払う」
倍はすごいなって思ったが、ウェンディがエルシィの腕を叩いている。
倍を払うというのは嘘のようだ。
多分、時間稼ぎだな。
時間を稼いで貴族が出てくるんだろう。
「嫌よ。契約を破棄なんてしたら私の信用がなくなるじゃない。私は誠実を売りにしているの」
「金が欲しくないのか?」
「欲しいけど、あなたがその倍とやらを払うとは思えないわね。だって、どうせ口約束だし、後で言った言わないの水掛け論になるだけよ」
イレナって本当にクムーラ商会が嫌いなんだな。
「そんなことせん」
「そうね。何が倍って言及してないからいくらでも誤魔化せるもんね……舐めんな。帰れ」
イレナがしっしと手で払うと、ワインを飲みだした。
「貴様……!」
「何? これ以上は恐喝とみなして兵士を呼ぶわよ」
「ふん! ロクなことにならんぞ!」
レシェックはそう捨て台詞を言うと、食堂を出ていった。
すると、イレナはもうレシェックの姿が見えないのに出入口の方を睨み続ける。
「ロクなことにはならないのはあんたよ。誰があんたみたいな泥船に乗るか。あんたは忘れているでしょうけど、駆け出しの頃に枕を要求されたことを私は一生忘れないからね」
そんなことがあったのか……
そりゃ嫌うわ。
「ささっ、イレナさん、機嫌を直して飲んでください。今日は祝勝会ですよ」
ウェンディがボトルを持って宙に浮き、イレナのグラスにワインを注ぐ。
「この人形ちゃん、可愛らしいわね。ちょうだい」
「やらん」
ウチの天使ちゃん人形だ。
「そうですよー。ウチの使い魔ちゃんです」
天使だけどな。
「ふーん……まあいいわ。あなた達も飲みなさい。キュアポーションを作らないといけないかもしれないけど、最後の夜でしょ」
「まあな」
良い国だったから少し名残惜しい。
「じゃあ、もうちょっとだけもらいますか。飲んだところでそこまで錬成に影響はないですし」
たいした難易度じゃないし、あと数個だからな。
「そうそう。飲みなさい」
俺達はもう1本だけワインを開けて、飲食を楽しんだ。
そして、部屋に戻ると、残りのキュアポーションを作ってしまい、この日は就寝した。
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