第042話 派閥争い
俺達は宿屋に到着すると、チェックインした。
その際にもう1人来ることを伝え、料金を払うと、部屋に入り、暖炉をつける。
そして、暖炉の前のテーブルにつき、エルシィと共にキュアポーションの作製に入った。
ようやく俺も作れるからちょっと嬉しい。
「レスターさん、ちょっといいですか?」
キュアポーションを作っていると、テーブルの上にいるウェンディが聞いてくる。
「何だ?」
「あのラック商会の商会長さんはなんであんな高額を出すんですか?」
それか……
「この国でポーションが足りてないのはわかっているだろ?」
「ええ。それはわかっています」
「現状、この国は誰しもがポーションを欲しがっている。その最たる者が貴族なんだ。貴族は金持ちの上級だから念のために確保しておきたいんだ」
暗殺とかもあるし、跡取りの子供に何かあった時のために普通のポーションもキュアポーションも欲しがっている。
「お金持ちが真っ先に確保するっていうのもわかりますね。天使である私には何故、人々に差があるのか理解できないことですが、イラドもそんな感じですのでわかります」
まあ、天使さんはそうだろう。
「それは仕方がないことだ。人間はそういう競争で発展していったんだからな。とにかく、貴族はポーションを欲しがっている。これがポーション高騰の原因だ。本来なら安いポーションでも数が少なすぎるゆえに貴族みたいな権力者が金に糸目を付けなかったからどんどんと高騰していった」
今も上がり続けている。
「それであんなに高いんですか……」
俺達はラッキーだが、この国の一般庶民はたまったものじゃないな。
「ああ。しかも、イレナが言っていたようにこの高騰はまだ収まらない。そして、高騰が収まる時期を貴族と繋がりがあるダリウスは知っているんだよ。だからあれだけの額でも利益が出ると言い張っていたんだ」
「しかし、交渉がありませんでしたね? 少しでも儲けるために交渉があっても良さそうでしたけど」
まったくなかったな。
「それはダリウスがイレナを見て、そう判断したんだ。イレナは商人だが、感情を優先するところがある。ダリウスはそれを元々知っていたのか、イレナを見てそう思ったのかはわからんが、そういう人間と判断したんだろう。だからイレナを自分の派閥に加える方を取った」
「派閥ですか?」
「今回の取引の裏にいるのは貴族だ。おそらくだが、この国の貴族は2つの派閥がある。そして、その派閥のお抱えの商会がラック商会とクムーラ商会だろう。結果、派閥同士も争っているし、商会同士も争っている」
派閥に属したから商会同士が争ったのか、元々、商会が争っていたからそれぞれの派閥が抱えたのかどうかの前後関係はわからんがな。
「なるほど……」
「そして、さっき言った貴族がポーションを確保したいっていうのが繋がってくる。要はそれぞれの派閥はお抱えの商会にポーションを確保しろって頼んだんだ」
イレナはそれを知らずに両商会を天秤にかけた。
「クムーラ商会は密輸を選んだ?」
「そういうことだ。密輸なんて危険な橋をよく渡るもんだと思うが、それだけ自信があったんだろう。多分、常習だな」
前から輸入禁止のものを密輸していたんだろう。
「ラック商会はそれを選ばなかったってことですか?」
「そうだな。老舗らしいし、地に足をついた方法を選んだんだろう。まあ、選ばなかったというよりも選べなかったって言う方が正しいだろうが」
元からそういうことをしていないラック商会にはそのノウハウがない。
「そこにイレナさんが現れたわけですね」
「ああ。真っ当な方法で買い取れるラック商会にとっては渡りに船の商人がやってきた。ラック商会はこの取引を絶対に成功させなければならなかった。ところが、イレナはあんな感じで元からクムーラ商会を嫌っているし、どう見てもラック商会に売る気満々だった。だから下手な交渉をして機嫌を損ねるより、最初から誠意を出し、取り込もうとしたんだ」
逆にそれが交渉する気満々だったイレナのプライドを傷つけ、感情を逆なでしてたけどな。
さすがにイレナも利益を取ったが……
「じゃあ、今回の交渉はイレナさん的には大成功ってところですね」
「ああ。あいつの最大の功績はクムーラ商会の時には数を少なめに言い、Aランクポーションがあることを言わなかったことだ。もし、言っていたら泥沼だったぞ」
ラック商会が本命でクムーラ商会が対抗馬だが、イレナは最初から売る気が全然なかった。
「なんでです?」
「密輸はゲイツからだ。列車は検問があるし、馬車かなんかで国境を越えているんだろう。そうなると数を確保できないし、割れる可能性があるからそこまでの高ランクのポーションは持ってこられない」
ポーションといえどAランクは安くない。
それをガタガタの馬車なんかで運んで割れてしまったら赤字になる。
「飛空艇は? レスターさんを密輸したみたいにすればいいのでは?」
「飛空艇は高い。それだと利益が出ないんだ。貴族の頼みとはいえ、商人は利益が出ないと動かない。魔法のカバンも同じ理由だ。もし、失敗して紛失したら大赤字になる」
魔法のカバンは数百万ゼルもするのだ。
「なるほど……クムーラ商会的にはあの数のBランク、Cランクなら密輸できるからそこまで必要じゃなかったわけですね。でも、実際はもっとあったし、何ならAランクまであった。それならもっとまともな交渉になったでしょうね」
「ああ。でも、イレナは交渉する気がなかった。多分、お茶が出なかった時点でAランクを言う気がなかったな」
あいつ、まだ若いし、田舎の商人らしく、都会の商人に対してコンプレックスがある。
だから今回のポーション高騰に関わってきたんだろうし。
「どっちの商会も欲しがる……良い天秤じゃないですか。さらに儲かりそうです」
「いや、マネーゲームをしても結果は今の値段辺りで落ち着くと思う。しかし、それには時間がかかるし、貴族も出てくる。それが泥沼だ」
はたしてイレナにそれを対処できる能力があるのか。
「私達の足も止められそうですね」
絶対にそうなる。
何故なら俺達はいくらでも作れるからだ。
まあ、俺達の報酬は決まっているからイレナに金をもらってさっさと逃げるけど。
「ああ。そういうわけで今回の交渉は俺達から見ても非常に良かった」
特にキュアポーションが良いね。
ぱぱっと作って、金をもらったらさようならだ。
「先輩、長居はしない方が良さそうですね」
エルシィの言う通りだ。
「今回のことが貴族に伝われば貴族は俺達を確保しようとする、もちろん、外国人の俺達を無理やりってことはないだろうが、貴族はしつこいし、面倒だ。取引を終えたら昼の便で南に行こう」
南方面の便は10時、12時、14時だ。
10時は難しいかもしれないが、12時と14時なら十分に乗れる。
「そうしましょう」
「寝台列車が楽しみですね」
まあ、俺もちょっと楽しみだったりする。
前世でもそういうものがあることは知っていたが、乗ったことはなかったし。
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