第032話 初めての魔法
俺達は町中を歩いていき、広場、【風の住処】を通りすぎる。
そして、そのまま歩いていくと、剣が交差した看板を見つけた。
「冒険者ギルドですね。先輩、どうします?」
エルシィが聞いてくる。
「俺は正直に言って、冒険者を信用していない」
あいつらは学のないならず者だ。
冒険者という職業はそういう奴らが盗賊になったり、悪さをしないように職を与え、管理するためにギルドを設置したのが始まりと言われている。
もちろん、有名な奴や真面目で優秀な奴もいるが、9割は兵士崩れや町の悪ガキだった奴らだ。
「護衛の仕事を頼み、いざ始まったら急に値段を上げてくるっていうのも聞きますしね」
護衛で森に行ったらそこで最初に頼んだ金額から追加でさらに要求してくるのだ。
こちらは身を守る術がないし、人の目がない場所で断ったらどうなるかわからないから要求に応えるしかない。
これが盗賊と何が違うのかギルドに聞きたい。
「なしだ。ウェンディに魔法を教わり、自分達で身を守る術を学んだ方が良いだろう」
「そうですね。ウェンディちゃん、お願いね」
「お任せください。それに私は大天使ウェンディです。魔物が出てきても蹴散らしてみせましょう」
無理っぽいけど、まあ、期待しておくか。
「じゃあ、行くか」
俺達は冒険者ギルドをスルーし、門を抜けた。
町の外は綺麗な平原が広がっており、風が気持ち良い。
そして、数百メートル先には森が見えていた。
「あそこですね」
「いきなり行くのはちょっと危ないか。ウェンディ、魔法を教えてくれ」
「いいですよー」
エルシィの腕の中にいたウェンディがふよふよと宙に浮く。
「その飛んでいるのも魔法だったか?」
「そうですよ。ただ浮遊魔法は高度なのでまだ教えられません。まずは基礎中の基礎である火を出す魔法と水を出す魔法ですね。とはいえ、あなた方は錬金術師だけあって魔力のコントロールも上手ですし、すぐでしょう」
魔力のコントロールこそが錬金術師でもっとも大事なものだからな。
錬成では魔力を込める量が多すぎても少なすぎてもいけないのだ。
「どうやったら火が出るんだ?」
「魔法はイメージです。己の魔力を魔法に変換させると思ってください。そうですね……あなた方で言えば魔力を錬成し、火を作ると思ってください。こうです」
ウェンディが手を森の方に向けると、その柔らかい手からバスケットボールくらいの大きさの火の玉が出てきて、勢い良く発射された。
そして、その火の玉は数十メートルほど飛んでいって消えた。
「ファイヤーボールか?」
魔法学校で貴族が使っているのを見たことがある。
獣やゴブリンなんかの弱い魔物に有効な基礎の火魔法だ。
「そうですね。すぐにできるでしょうからやってみてください」
ウェンディにそう言われたので手を森の方に掲げると、魔力を込めた。
そして、先程の光景を想像しながら手のひらに集めた魔力を錬成する。
すると、一瞬だけ手のひらが温かくなると、先程と同じようにバスケットボールくらいの大きさの火の玉が出てきて、発射された。
「おー! できた!」
喜んでいると、隣で同じように試しているエルシィからも火の玉が発射される。
「すごいです! 魔法ですよ、先輩!」
「だなー!」
「はしゃいでますねー。見ただけで私が出したファイヤーボールとまったく同じものを出しておいて初心者みたいに喜んでいます」
初心者なんだよ。
「初めての魔法だから仕方がないだろ」
異世界に転生し、魔法があることを知った時から使いたいと思っていた。
「初めてでここまでコントロールが完璧なのがすごいんですけどね。さすがはエリート夫婦です」
今は無職だけどな。
「ウェンディちゃん、水魔法も教えて!」
「ええ。水魔法はもっと簡単ですね。そして、これは攻撃魔法というよりは飲み水やあなた方が錬成で使う水を出す魔法になります。上級になれば火を消したりもできますが、まずはより実践的な方を教えましょう。まあ、難しくはなく、大気中にある水蒸気を集めるだけですね」
ウェンディが手を掲げるとあっという間に10センチくらいの球状の水の塊が現れた。
「水道から出すより早くて良いな」
いちいち洗面所に行くのも面倒だし。
「ええ。出す水の量は魔力の強弱で調整できます。では、レスターさんは先程のファイヤーボール程度の大きさを出してください。エルシィさんはこれと同じサイズです」
ウェンディ先生が指示してきたので魔力を調整しつつ、大気中の水蒸気を集めた。
すると、先程と同じようなバスケットボールくらいの大きさの水の塊が出てくる。
さらにエルシィを見ると、ウェンディが出した10センチくらいの大きさの水の塊を出していた。
「おー、エルシィ、上手じゃないか」
「先輩もすごいですね。きっと天才ですよ」
やっぱりそうなのか。
「仲が良くて何よりです……まあ、基礎の魔法はこんな感じです。ファイヤーボールがあれば弱い魔物や獣は倒せますし、水魔法は生活に便利です。他にもあるのですが、それは追々教えていきましょう」
これで俺達も魔法使いの仲間入りか。
「ウェンディちゃん、ありがとー。これからどんどんと魔法を覚えていきたいですね」
「そうだな。夢が広がるわ」
錬金術師として初めてポーションを作った時も感動したが、今も同じくらいに感動している。
「良かったですね。では、そろそろ森の方に行って薬草を採取しましょう」
「それもそうだな」
「行きましょう」
魔法を覚えた俺達は大満足で森の方に向かった。
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