第003話 おやすみ
「エリクサーです。すごいでしょ」
すごいというか……
「エリクサーって怪我でも病気でも一瞬で治るとかいう伝説の薬か?」
俺が働いているこの国の研究機関の最終目標がそれだったりする。
宮廷錬金術師はかつての国王陛下がエリクサーを手に入れるために研究機関を作ったのが始まりなのだ。
「それですね。あなたはもうそれを作れます」
え? もう?
いつの間に……
「えっと、どうやって作るんだ?」
「いつも錬成しているように薬草と水で作れますよ」
ポーションじゃん……ん?
「いつも錬成しているようにってことはポーションを作ろうとしたらエリクサーができるってことか?」
「そうなりますね」
ウェンディが人形のくせに『ふふん!』っとドヤ顔になる。
「それ、俺はもう普通のポーションを作れないってことでは?」
ポーションを作ろうとしたらエリクサーができるってことはそういうことだ。
「大丈夫ですよ。エリクサーが作れるんですから!」
あ、こいつ、人外だから事の重要さがわかってない。
「返却はできるか?」
「あ、もう無理です」
やっぱり……
うーん、これから先、ポーションを作らずに錬金術師をやらないといけないのか……
まあ、ハイポーションは作れるだろうし、ポーション恐怖症になったとかでエルシィに任せればいいか。
なんとかなる。
「わかった。一回作ってみたいな」
「どうぞ、どうぞ」
うーん、とはいえ、家に水はあるが、薬草がないな。
「明日にする。とにかく、ありがとうな。エリクサーもだし、説明してくれたのは助かった」
何故、前世の記憶があるのか悩んだこともあったし、ちょっとすっきりした。
「いえいえ。では、今日はもう遅いですし、おやすみください」
ウェンディはそう言うと、ベッドに降り、掛け布団を被って、横になる。
枕に人形の顔だけが出ていて、ちょっとシュールだ。
「いや、帰れよ」
「いえ、数日ほど滞在します。記憶の混乱等があってはいけませんし、少し様子を見ないといけませんから」
そうなの?
人形が飛んでしゃべっているという事実以上の混乱はないぞ。
「まあ、いいけど」
俺もベッドに行くと、掛け布団をめくり、横になる。
「あわわ……人間の男が同衾してきました」
何言ってんだ、こいつ?
「俺のベッドなんだが? 嫌なら元の位置に戻れよ」
呆れながら元々人形が置いてあった棚を指差す。
「我慢します……ずっと天上から見ていて布団に憧れがあったんです」
布団に憧れって……
天使ってどうやって寝てるんだろう?
「そうか。俺はもう眠いから灯りを消すからな」
「灯り……変な気を起こさないでくださいね。きゃっ」
マジで何言ってんだ、こいつ?
30センチ程度しかない人形だろ、お前……
ウェンディのリアクションはよくわからなかったが、眠いので就寝した。
そして、翌朝。
「すかー……すかー……」
上半身を起こし、隣を見ると、後輩にもらった天使ちゃん人形が寝息を立てていた。
「夢じゃない、か……」
どう見ても人形が寝てるし……
しかも、目を閉じているのだが、どうなっているんだろう?
よくわからないが、気持ちよさそうに寝ているので起こさないようにそーっとベッドから降り、寝室を出た。
そして、朝食を作っていく。
「今日は……エルシィは朝から打ち合わせだったな」
ということはどうせ部長は重役出勤だし、午前中は俺1人か。
「おー……目玉焼きにトーストですか。美味しそうですね」
後ろから声が聞こえたので振り向くと、目をこすりながら宙に浮いているウェンディがいた。
「起きたか?」
「ええ。布団って気持ちいいんですね。天界に持って帰ろうかな?」
持って帰れるのか?
というか、俺の布団を持って帰ろうとしてないか?
「買えよ」
「すみませんねぇ……」
俺に買わせようとしている……
「お前、飯は?」
「ありがとうございます。人間が食べるご飯も憧れてたんですよー」
「そうかい……」
よくわからないが、目玉焼きとトーストを2つずつ焼いていく。
そして、できたのでテーブルに置いた。
「美味しそうですし、良い匂いですね! レスターさんは料理がお上手のようで何よりです」
いや、目玉焼きもトーストも焼くだけだ。
「そんなことはない。ただの一人暮らしの男の料理程度だ。それよりもお前、食べられる……の、か……」
「おー! 美味しいです!」
なんか人形がトーストの上に目玉焼きを乗せ、バクバクと食べている……
え? どうなってんの?
「大丈夫なのか? 人形だろ、お前……」
「天使ですって。ちゃんと私の魔力となるんです」
へー……なんかこいつのことを考えるのはやめた方が良い気がする。
人外も人外の天使だし。
「俺は飯を食ったら仕事に行くからな」
「頑張ってください。あのー……私のお昼は?」
なんかペットに見えてきたな、こいつ……
「冷蔵庫にハムとかあるし、トーストの焼き方は見ていたからもうわかるだろ。適当に食べていいぞ」
「おー! ありがとうございます! あなたの次の人生がお金持ちの家に生まれるように神に頼んでおきますね」
「どうも……」
こんなのでそんな大層なことをしてくれていいのかね?
俺は朝食を食べ終えると、準備をし、ウェンディを家に残して家を出る。
そして、城近くにある研究所に出勤し、端の方にある部署にやってきた。
「おはようございます……って、やはり誰もいないか」
わかっていたことだが席につき、まずは残っている書類仕事を片付ける。
そして、在庫のチェックを始めた。
「エリクサー、か……」
ダメだ。
仕事に集中できない。
どうしても昨日の話が気になってしまう。
「薬草はあるな……」
デスクの引き出しから薬草を取り出す。
「誰もいないし、やってみるか……」
本当は家に帰ってから錬成しようと思っていたが、俺も錬金術師の端くれ。
錬金術師の最高目標の1つであるエリクサーがどうしても気になって仕事に集中できない。
「よし」
ビーカーに水を入れ、その中に薬草を入れる。
そして、ポーションを作る要領で錬成を開始した。
「あ……」
何だ?
身体が重い。
それに急激に体が冷えていっているし、とんでもない喪失感が全身を走っている……こ、これは魔力切れで起きる現象だ。
ヤバい……意識が……!
「くっ! マジかよ……!」
力が入らなくなり、デスクに突っ伏す。
そして、瞼が重くなり、それに抗うことができずにそのまま意識を離してしまった。
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