第023話 お店へ
路地は大通りと比べるとそこまで人が多くなかったが、ガラの悪い人間がいるということもなく、普通に一人歩きしている買い物中の女性の姿も見えた。
「本当に治安の良い町ですね……」
同じく一人でいる女性を見ていたエルシィがつぶやく。
「行政がしっかりしているんだろうな。ウチは貴族社会だし、その分、あれだ」
「あれですねー」
うん、あれ。
「そんなに治安が悪いんですか?」
ウェンディが聞いてくる。
「スラムもあるからな。それに小さい道でもスリやガラの悪い奴らがいたりもした」
「大通りならともかく、そういう道は1人では歩けなかったよ。夜遅くなった時は大通りでも先輩がいつも家まで送ってくれたけどね」
それくらいはする。
よく過保護って言われたけど、心配なんだ。
「愛が深い方ですね」
「先輩、私のことが好きだから……」
エルシィが困ったわーって感じで頬に手を当てる。
「やっぱりそうなんですか?」
「うん。いつも守ってくれたよ。でも、たまに有無を言わさずに家に連れ込まれたことも何度か……」
何言ってんだ?
「ほう? それで?」
「ゴキブリを退治させられたり、蛾を窓から追い出す作業をさせられたりした。先輩、虫が苦手だから」
その節は大変助かりました。
エルシィさんはとても素晴らしい方だと思います。
「一緒に住めばいいのに」
「ねー? そう思うよね。しかも、その後、家まで送ってくれるんだから」
俺は前世から虫が苦手だったから仕方がない。
そして、頼るべき人間がエルシィしかいないのだ。
「しょうもないこと言ってないで行くぞ」
「はーい。というか、あそこですね」
エルシィが指差した方向には丸フラスコの絵が描いてある看板の店があった。
「あまり大きくないな」
サイズ的にはコンビニくらいだ。
「ここって結構な人口がいそうですけど、あれで大丈夫なんですかね?」
「大丈夫じゃないんじゃないか? おばさんも不満げだったし」
「うーん……まあ、行ってみますか」
「そうだな」
俺達は店まで行くと、中に入る。
店の中は様々な薬品が売られており、数人のお客さんが商品を見ていた。
「種類はあるな」
ただ数はない。
「そうですね。もしかしたらここにあるのは見本で在庫は別の倉庫にあるのかもしれませんね」
多分、そうだろうな。
さすがにこの王都の規模でこの店の大きさはない。
「えーっと、ポーションは……」
「レスターさん、あそこです」
ウェンディが奥の方を指差す。
指ないけど。
「あそこか……」
俺達は奥の方にあるポーションのコーナーにやってきた。
そこには基本の回復ポーションからマニアックな毒なんかを治すキュアポーションなんかも売られているのだが……
「ポーションが1万ゼルしますけど……」
「すごいな……ハイポーションが3万ゼルだ」
高っか……
「ちなみになんですけど、この5万ゼルもするキュアポーションをイラドで買おうとしたらいくらなんですか?」
ウェンディが聞いてくる。
「1万5千ゼルくらいか?」
「キュアポーションは需要がそこまでなので相場が上下しますけど、そのくらいでしょうね」
少なくとも、5万ゼルもするわけがない。
これならヒーラーに頼むか、医者に行った方が安い気がする。
「一番安いポーションで1万ゼル……薬草と水だよな?」
「ええ。薬草なんて下手をすると、その辺に生えてますよ」
薬草はすぐに育つし、管理も楽だから家庭菜園で育てている錬金術師もいるくらいだ。
「なんでこんなに高額なんだ?」
「さあ? 供給量が少ないからですかね?」
数が少ないことで希少価値が付いて値段が跳ね上がったってところか?
「ランクは……おい、Dだぞ」
値札にDと書いてある。
「ホ、ホントですね……Dランクのポーションが1万ゼルって……」
俺達錬金術師が作るものにはランクがあり、品質によってFランクからAランクにランク分けされる。
もちろん、Aランクが一番良く、Fが下だ。
一般的にF、Eが粗悪品であり、D、Cが普通、そして、B、Aが上質と言われている。
「ハイポーションがDランクならわかるんだが、普通のポーションだよな?」
当然、ポーションよりハイポーションの方が効果が高いし、作製難易度も上がる。
「ええ。普通のポーションです。ちなみに、ハイポーションはEランクです」
え? あ、ホントだ。
「表記ミスか?」
「えっと……」
エルシィはDランクのポーションを手に取り、じーっと見る。
「どうだ?」
「Dだと思います」
エルシィがそう言って渡してきたので俺も鑑定してみる。
ポーションはわずかだが、不純物が入っているように見えるし、魔力に乱れもある。
そして、決定的なのは本来なら綺麗な青色なはずなのに若干、薄いように見えた。
「Dだな……」
絶対にCランクはない。
「ですよね。学生さんが作ったんでしょうか?」
ポーションは錬金術における基礎中の基礎であり、魔法学校で錬金術を学んでいる生徒なら誰でも作れる。
もちろん、プロのような品質は確保できないが、それでもポーション程度ならDランクのものを作れるはずだ。
実際、俺が心の中で無能と蔑んでいた貴族連中でも作れたし、エルシィに至ってはBランクも作っていた。
なお、俺は良い素材だったらAランクも作れた。
「店員に聞いてみるか?」
チラッと出入口近くの受付にいる職務中なのに新聞を読んでいるおじさんを見る。
「何て聞くんですか?」
「この程度のポーションがなんでこんなに高いんだ?」
ぼったくりか?
「あの店員さんが作ったものだったらどうするんですか。ケンカを売ってますよ」
「そうですよ。もし、真面目に作っていたら塩を撒かれちゃいますよ」
それもそうか……
「エルシィ、なんか良い感じに聞き出してくれ。お前、そういうのが上手いだろ」
それで上手く密輸ができ、イラドを脱出できたのだ。
「ポーションを売ってもいいですか? それで反応を見たいと思います」
「任せる」
「では……」
エルシィがウェンディを渡してきたので受け取る。
そして、受付の方に向かったので俺もちょっとだけ距離を取りながらついていった。
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