第160話 休憩
「よろしく。ここはいつもこんな感じで人が多いのか?」
ブレーズに聞く。
「ええ。むしろ、時間帯的には少ない方ですよ。朝と夕方は列ができますので」
やっぱり利用者が多いんだな。
「商業の町だからか?」
「ええ。ここはゲイツからの輸入品が入ってくる町ですので国中の多くの商人が集まります。逆にランス側の輸出品も集まりますのでゲイツの商人も多いんですよ。商人が多いと仕事は増えます。現に商人の手伝いや護衛の仕事はいつも募集している状況です。もちろん、あなた方錬金術師はさらに需要があります」
予想通りだな。
「護衛の仕事なんかあるのか?」
「町中にも盗みを働く者はいますからね。荷や主人を守ったりする仕事です。他にもこのナンスの町からゲイツに行けますが、列車でトールハイルの町に向かうルートと馬車などでブルクの町に向かうルートがあるんです。貨物列車は高いですし、需要に対して便が足りていない状況なので馬車を使う商人の方々も多いんですよ。ただ、魔物や盗賊もいますので護衛を雇うってケースも多いんです」
ポーションなんかの壊れ物は列車がいい。
しかし、そうでない品物なら時間はかかるが馬車の方が安いだろうな。
「町中で盗みを働く者もいるって言ったが、治安が悪いって本当か?」
「まあ、お金が集まるところですし、食い詰め冒険者も多いですからね。犯罪がなくなることはないでしょう」
濁しているけど、悪いんだろう。
「俺には大事な妻がいる。安心して泊まれる宿屋を紹介してほしい」
「もちろんでございます。正直、ご自分で探すのはやめた方がいいでしょう。当ギルドが安心しておすすめできる宿は【木陰亭】ですね。老舗の宿屋です。ウチからの紹介と言っていただければ割引もあるかと思います」
引き続き、VIPだな。
「場所は?」
「ギルドを出まして、右手の方に見える赤い屋根の建物がそうです」
近いようだ。
「わかった。行ってみる。それとだが、実は連れが2人いてな。そいつらは俺と妻の同級生なんだ。そいつらも同じ宿屋で良いだろうか?」
どうせだし、あいつらの分も確保しておこう。
「もちろんですよ。その旨を宿の店員に伝えてもらえば大丈夫です」
「そうさせてもらう。それでその2人はちょっと別行動をしていて、後からここに来るんだが、【木陰亭】のことを伝えてもらえないか?」
「その御二人のお名前は?」
「カルロとニーナという兄と妹の兄妹だ。それとターリーの人間だな」
「ふむ……わかりました。それではお伝えしておきます」
よし。
こんなもんだな。
「では、宿屋に行ってみる。仕事についてはまた相談するかもしれない」
する気はないが、一応、こう言っておく。
どれだけ滞在することになるかわからないし。
「わかりました。仕事はいくらでもありますのでぜひとも声をかけていただければと思います」
「そうさせてもらう」
そう言って頷くと、この場をあとにする。
そして、ギルドを出て、右の方を見ると、100メートルくらい向こうに赤い屋根の建物が見えた。
「あそこですねー」
エルシィも見つけたようだ。
「まだ昼前だが、どうする?」
「昼食を食べたいですが、先に宿屋に行って部屋を確保しましょうよ。それに今日はあまり出歩かない方がいいかと」
それもそうだな。
まずはカルロとニーナを待つべきだ。
「じゃあ、行くか」
「はい」
俺達は右の方に歩いていき、赤い屋根の建物までやってきた。
建物には【木陰亭】という看板が扉の上にかかっており、ここで間違いないようだ。
「雰囲気あるな」
木製の建物で歴史がありそうだが、ぼろくもなく、飴色の木壁が良い感じになっている。
「良さそうですね」
俺達は頷くと、中に入る。
宿屋の中は歴史がありそうな外観とは異なり、真新しく白塗りされた壁は新築のような雰囲気があった。
奥に受付があるのだが、その手前にはいくつかの丸テーブルと椅子が置いてあり、ぱっと見は酒場か定食屋のように感じる。
「いらっしゃい。泊まりかい?」
奥の受付にいるおばさんが聞いてくる。
「こんにちはー。泊まりでーす。冒険者ギルドから紹介されてきたんですよー」
受付に向かいながらエルシィが答えた。
「ギルドからね。2人かい?」
「私達と夕方くらいにもう2人が来ますので2人部屋を2部屋お願いします」
「はいよ。宿泊代は1泊2000ゼルね。食事はどうする? サービスだけど」
宿泊代が安すぎるし、食事はサービス……
これがVIPか。
「お願いしたいです。あのー、ここって酒場も兼ねているんですか?」
エルシィが後ろのスペースを眺めながら聞く。
「いや、宿泊のお客さんだけだよ。単純に元々酒場だった店を改修したってだけだから」
なるほど。
じゃあ、騒がしくもなく、普通に食事ができそうだな。
「わかりましたー。食事は後から来る2人と食べます。あ、この子も食べますんで」
エルシィが抱えているウェンディを見せる。
「ウェンディでーす」
ウェンディが手を上げて、いつもの挨拶をした。
「ほー……何かの魔道具かい?」
「使い魔なんですよー」
「へー……随分と可愛らしい使い魔だね」
ウェンディを見た時のリアクションでその人の器の大きさや性格がわかるな。
「そうなんですー」
「まあ、わかったよ。じゃあ、5食分を用意しておく。また声をかけてよ」
「ありがとうございまーす。あのー、私達、この町に来たばっかりなんでわからないんですけど、この辺りに昼食を食べられるところはありますかね?」
「そりゃいっぱいあるね。ウチでも食べられるよ」
昼食もあるのか。
「どうします?」
エルシィが聞いてきた。
「疲れたし、せっかくだからここで食べよう」
「はーい。すみませんが、お願いします」
エルシィが頷き、おばさんに頼む。
「はいよ。できたら呼ぶから部屋で待ってな。2階の1号室だから」
おばさんがそう言って鍵をカウンターに置くと、エルシィが料金を支払い、鍵を取った。
「ありがとうございまーす」
「ごゆっくり」
俺達は近くにある階段を上がると、手前にある1号室に入った。
部屋の中は白を中心とした全体的に落ち着いた色調であり、安らぎのひとときを感じられるような温かい部屋だ。
広さも20畳はあり、大きなベッドが2つある。
窓際にはテーブルやソファーもあり、部屋の一角にはお茶セットまであった。
「確かに良い宿屋だな」
「これが2000ゼルなのがすごいです。1万ゼルは超えていると思いますよ」
俺もそう思う。
「VIPだからな。よし、夕方まではゆっくりしよう」
「はーい」
俺達はソファーに座り、休むことにした。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
本日より、本作が発売となりました。
皆様の応援のおかげで書籍化でき、無事に販売日を迎えることができました。
webで読んだ方にも楽しんで頂けるように改稿を行いましたのでぜひとも書店に寄った際は手に取ってもらえると幸いです。
よろしくお願いします!




