第144話 ザ・庶民!
俺達は部屋の中に入り、リビングスペースを見渡す。
何故、リビングスペースかというと、ベッドがないのだ。
そして、扉がいくつかあり、多分、寝室が別にあると思われる。
「それでは当宿のシステムを説明いたします。まず、こちらのベルをご覧ください」
店員がソファーのところにあるガラステーブルを見る。
そこには良い音が出そうなベルが置いてあった。
「鳴るのか?」
「はい。そちらは特殊な魔道具になりまして、鳴らすと、1階の受付に聞こえるようになっております」
へー……長いこと錬金術師をしているが、初めて見る魔道具だな。
「何かあったら呼べばいいわけだな」
「はい。簡単な用事でも構いませんし、料理、お酒等の注文があってもそれでお呼びください。基本的にお食事はこの部屋で摂ってもらって構いません」
ルームサービスが無料って言ってたな……
めっちゃ飲み食いをしても無料なわけだ。
「いつでもいいのか?」
「はい。受付には誰かしらが24時間おりますのでいつでも対応させてもらいます」
すごいね……
乗らなかったが、船や飛空艇の特別室ってこんな感じなのかな?
「じゃあ、ちょっとしたら夕食を持ってきてくれるか。あ、そこの人形っぽい使い魔も食べるから3人分を頼む」
「かしこまりました。ワインはいかがしましょう? ギルドから御二人のお祝いということで預かっておりますが……」
あ、本当に用意したんだ。
「じゃあ、それも一緒でいい」
「では、そのように……何かありましたらお気軽にお呼びください。それでは失礼します」
店員は綺麗に頭を下げると、部屋から出ていった。
「すごく広いです!」
ウェンディがふよふよと浮き出して、リビングスペースをゆっくりと飛び回り始めた。
俺とエルシィは近くにある扉を開け、中を覗く。
扉の先は寝室のようでキングサイズのベッドがひとつ、天蓋には薄いレースが優雅に垂れ下がり、ベッドカバーには刺繍が丁寧に施されていた。
「「おー……」」
俺達は感嘆の言葉を漏らすと、次の扉を開けた。
そこは風呂場のようであり、広めの脱衣所がある。
さらにその先の扉を開けると、大理石のバスルームがあり、足を完全に伸ばせるほどのバスタブがあった。
「「おー……」」
さらに感嘆の言葉を漏らすと、脱衣所を出て、隣にある扉を開ける。
そこにはトイレだった。
「「おー……?」」
いや、トイレはトイレだ。
もちろん、綺麗だが、感嘆の言葉を漏らすほどじゃない。
俺達はトイレを出ると、奥にある窓の方に行き、バルコニーに出た。
「「おー……!」」
町の塀より高い5階なので町の外が見える。
また、西側にある部屋なので外の森や大きな湖が一望できた。
湖は夕日に照らされており、茜色に輝いている。
森と調和しており、ものすごく綺麗な風景だ。
「今度も情報を漏らしてくれないかね?」
「いくらでも漏らしてくれって感じですねー」
さすがに冗談だが、それだけすごい部屋だ。
「明日はあの湖ですか?」
いつの間にか来ていたウェンディが聞いてくる。
「そうなるな」
「楽しみですね」
「ああ」
俺達は部屋に戻ると、ソファーに腰かける。
ウェンディは上のシャンデリアの周りを飛んでいた。
「こんなところでポーションを作るのか」
「贅沢ですね」
これがVIPか。
「貴族って毎日、こういう生活なんだろうな」
「貴族というより、お姫様って感じですよ」
すごいわ。
「まあ、そういうお客様が来た時用の部屋なんだろうな。いつまでいるかはわからないが、堪能しようぜ」
「そうしましょう。じゃあ、夕食が来るまでの間に仕事をしますか」
「そうだな」
俺達は採取した薬草なんかをテーブルに並べた。
そして、手分けをして各種ポーションを作っていく。
「なんかここまで広いと落ち着かない気がしませんか?」
「するな……ウェンディは楽しそうだが」
ウェンディは笑顔で部屋中を飛び回っている。
「店を建てる際の住居スペースは普通でいいですよね?」
「ああ。普通でいい。身の程というのがある」
寝室だけでもこれまでの宿屋の部屋よりも広かったぞ。
でも、今までの宿屋がしょぼいんじゃない。
この部屋がおかしいのだ。
「資金も順調に貯まっていますし、普通を目指しましょうか」
「そうしよう」
「話を仕事に変えますけど、ポーションのランクはどうしましょう?」
エルシィは今、キュアポーションを作っている。
「Aランクで良いぞ。その質のエトナ草ならできるだろ」
「Aランクのキュアポーションですか」
キュアポーションは毒消しのポーションであり、Cランク以上は効果がさほど変わらない。
「ギルドが2.5倍で買い取ってくれるって言ってるからな。どうせ貴族なんか金持ちが買うんだろ。あいつらはわかってないからAランクっていうだけで価値を見出して買うんだろうよ」
貴族の中にはAランク以外は認めないと言う人間もいると学生時代に聞いたことがある。
「一緒なのになー。まあ、調整が面倒ですからAランクにしますよ」
錬金術師はずっとランクを上げるための努力をしているので逆にランクを下げるというのは苦手だったりする。
「ベルで呼んでギルドに持って行ってくれって言ったら持って行ってくれるのかね?」
「多分、午前中の受付嬢が来るんじゃないですかねー? というか、材料を採ってきてくれって言ったら採ってきてくれるんでしょうか?」
いやー、さすがに買うんじゃないか?
「無料かな?」
「どうでしょう?」
「聞いてみるか?」
お試しで。
「やめときません? 気が引けますよ……」
「それもそうだな」
慣れないことはするもんじゃないわ。
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