第134話 さすがはエルシィさん
朝起きると、朝食を食べ、準備をする。
すると、フリオとオフェリアがやってきた。
「いよいよですね」
オフェリアが神妙な顔で頷く。
「ああ。でも、お前は寝てるだけでいい」
そう言って、丸薬を渡した。
「これを飲めばいいんですね?」
「それを飲めば数分以内に眠りにつき、1時間は起きない」
「わかりました。フリオ、お別れのキスはいりますか?」
そういうのはここに来る前にやってほしいね。
「やめておこう。成功するんだから」
「そうですね。レスターさん、エルシィさん、準備はいいですか?」
オフェリアが確認してくる。
「ああ」
「大丈夫でーす」
「それではあとのことはお任せします。もし、失敗したら私のことは切り捨てて構いません」
まあ、そうするしかないんだけどな。
「失敗した時のことは考えなくていいぞ」
少なくとも、オフェリアは考えなくていい。
「わかりました。では、私は寝ます」
オフェリアは丸薬を飲むと、カバンの中に入る。
そして、そのまま待っていると、オフェリアがゆっくりと目を閉じ、動かなくなったのでカバンを閉めた。
「よし、行こう。フリオ、カバンを任せるぞ」
すまんが、俺には持てない。
「ええ。行きましょう」
フリオが頷いて軽々とカバンを持ち上げたので部屋を出た。
そして、1階に降り、チェックアウトすると、宿屋を出て、駅に向かう。
「重くないか?」
フリオはキャスター付きのカバンだというのに持ち上げていた。
「大丈夫ですよ」
フリオは爽やかな笑みで答える。
「愛ですね、愛。私もイラドの時に大事にカバンを運びましたよー」
「私も抱えてましたね」
はいはい。
ありがとうよ。
俺達がそのまま歩いていくと、広場に到着し、駅の前に立つ。
「エルシィ、いけるな?」
「はい。御二人は特にしゃべらずに私に合わせてくれればいいです。今の状況なら押し通せます」
密輸実績があるエルシィに任せよう。
「わかった」
「お任せします」
俺とフリオが頷き、駅に入る。
駅の中は昨日よりもさらに人が増えており、改札の前に並んでいた。
「やはり多いな」
「ですねー。ちょっと切符を買ってきます」
エルシィが受付に向かったので俺とフリオは列に並ぶ。
前方の改札では裕福そうなおじさんと若い金髪の女性が兵士と話していた。
しかも、おじさんの方はかなりご立腹のように見える。
「……揉めてるな?」
「……ええ」
俺達は小声で話し合う。
「……貴族じゃないよな?」
「……違いますね。多分、有力な商人か資産家でしょう」
若い金髪の女性は娘か、愛人か……
そのまま様子を見ていると、若い金髪の女性が奥の部屋に連れていかれてしまった。
すると、エルシィが戻ってくる。
「お待たせしましたー。個室の方は空いていたので助かりました。はい、フリオさんの分」
エルシィがフリオに切符を渡した。
「ありがとうございます。また後で精算させてください」
「はーい。それでどうですか?」
「女性が奥に連れていかれた」
「あー、そんな感じですか……しかし、これ、間に合うんですかね? 10時発だからあと30分しかないですよ」
エルシィがそう言うと、俺達の前にいた男性が時計を見た。
「おい! まだなのか!? こっちは今日中にランスに行かないといけないんだぞ!」
前の男が怒鳴って兵士に文句を言った。
「俺もだぞ!」
「皆、そうだよ。何をしているか知らないが、早くしろ! 昨日からだぞ!」
連鎖するように文句の声が駅内に響く。
すると、兵士達が話し合い、もう1つの改札を開けた。
それにより、列が2つとなった。
「おー、エルシィ、上手いな……」
「ぱぱっと行きましょう」
俺達が右の列に並ぶと、少しずつ前に進んでいく。
すると、9時45分にはようやく俺達の順番になった。
「おはよう。ランス行きか?」
兵士が聞いてくる。
「はーい。これがチケットです」
エルシィが兵士にチケットを見せる。
「3名か?」
「はい。この3人でーす」
いつにも増して甘い声だな。
「ふむ……」
兵士は頷くと、後ろの兵士を見る。
すると、その兵士が首を横に振った。
多分、エルシィを見ての判断だろう。
「よろしい……しかし、大荷物だな?」
兵士がフリオが持っているカバンを見る。
もちろん、中身はオフェリアだ。
「あ、私達、錬金術師なんですよー。イラドから来たんです」
「ほう? イラドからこの国に?」
「実は新婚なんですー」
エルシィが腕を組んできた。
「新婚? この男性は?」
兵士がフリオを見る。
「昔の同級生です。ランスに用があるっていうことで一緒に来たんです」
「ふむ。となると、このカバンの中身は錬金術関係か?」
人だな。
「はい。機材とかポーションとかです」
「中身を確認してもいいかな?」
きたか……
「ダメでーす」
「では……え? ダメ?」
カバンに手を伸ばし始めた兵士が固まった。
「ダメです。錬金術師にとって大事な資料が入ってますし、何よりも私の下着とか入ってます」
「いや、さすがにそこまではチェックせんよ」
「ダメでーす。怪しいでーす」
さいてー。
「いや、あのな……」
さすがに兵士がイラっとした様子だ。
「ひえっ……うえーん、レスターくーん!」
エルシィが泣きながら抱き着いてきた。
「エルシィ、ちょっと見せるだけだろ」
「うえーん! ひどーい! 私のことを愛してないんだー!」
あの、エルシィ?
君、マジで泣いてない?
涙が見えるんだけど?
「ちょ……あ、あのー……」
助けを求める目で兵士を見る。
実は結構マジだったりする。
周りの目が気になるのだ。
「いや、そう言われてもな……」
兵士達が困惑しながら顔を見合わせる。
「おい! 時間がねーんだぞ! 早くしろ!」
「そんなにその子の下着が見てーのか!」
「遊んでないでさっさとしろ!」
俺達の後ろの客が怒鳴りだした。
「お、おい、どうする?」
「面倒だから通してしまえ。このままだと苦情を軍部に入れられるぞ。下着ドロ扱いは嫌だ。それにこれ以上は暴動になるぞ」
「それもそうだ……行ってくれ。奥さんには誤解だと説明してくれよ」
兵士が親指を後ろに向け、さっさと通れのジェスチャーをする。
「すみません……ほら、エルシィ、行こう」
「ひっぐ……ひっぐ……」
エルシィが泣いたままなので抱きしめたまま改札を抜ける。
そして、そのまま駅のホームに向かうと、列車に乗り込んだ。
「よし。個室に行きましょう。あっちですね」
エルシィは俺から離れると、ケロッといつもの笑顔に表情を変え、奥に向かった。
「素晴らしい奥様ですね……」
「自慢の妻なんだ」
あの兵士達の顔にはバカ女って書いてあったけどな。
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