第013話 ベッド最高!
「お前が行きたいならそこに行ってみるか……運賃は3等の個室で1人80万ゼル……」
個室で一番安いのが3等になる。
2等は100万ゼル、1等は150万ゼルだ。
「わかってましたけど、高いですね。いっそ自由席にします? 60万ゼルですけど」
差額の20万ゼルは大きい。
とはいえ、ポードまで1日以上かかるし、他の客と雑魚寝になる自由席はな……
「いや、個室がいいだろう」
俺1人なら自由席にする。
しかし、エルシィがいるなら無理だ。
この世界はけっして治安が良いとは言えないし、女性がいるなら個室一択だ。
それにおしゃべり人形もいるし。
「では、3等の個室ですね……2人で160万ゼル……先輩、大丈夫ですか? すでに100万ゼルも払ってますけど」
ここに来るまでが高かった。
とはいえ、本来なら俺の分もかかるからその倍は必要だった。
「ああ。残り180万ゼルはあるから問題ない」
残金が20万ゼルか……
「私の分は私が払いますよ」
「お前、正直、いくらもってる?」
「すみません。100万ちょっとです。節制はしているつもりなんですが、良いところに住んでましたし……」
エルシィが住んでいたところは治安が良い地区であり、防犯面もしっかりしていたアパートだったから家賃が高かった。
「いい。そもそもそのアパートを勧めたのは俺だ」
エルシィが就職する際に一緒にアパートを見たのだが、色々と心配だったのだ。
金を持っている女の1人暮らしなんて危ないに決まっているし、ましてや、エルシィは可愛らしく、モテそうなうえに小柄で弱そうなのだ。
「やっぱり一緒に住むべきでしたよー」
そういう話もしたな。
「まあ、済んだ話だ。しかし、ポードに行くと、俺が100万でお前が20万しか残らないのか」
2人で120万。
かなりあると言えばあるが……
「当分は宿屋暮らしでしょうし、何もしなければ3ヶ月もてば良い方ですかね?」
「そんなもんだな。まあ、その辺は着いてから考えよう。資金を使うのは痛いが、まずはここから離れることだ」
重要なのはそこ。
「そうですね。明日は……おー、8時発です。早いですね」
8時に出発し、翌日の朝9時に到着予定となっている。
「さっさと離れたいからちょうどいいけどな。寝坊するなよ」
「先輩が起こしてくれるから大丈夫でーす」
そういや同室だな……
まあ、どっちかが起きるだろ。
「じゃあ、今日は早めに寝るか」
「そうしましょう。先輩はもっとでしょうけど、私も足を伸ばせて寝てないので疲れました。ウェンディちゃんはグースカ寝てましたけど」
まあ、そいつは小さいから関係なく寝られるわな。
「そんなことないですよ。お布団の方が気持ちよかったです」
ウェンディが両手を上げてアピールする。
「良かったな。エルシィと寝ろ」
「そうします。じゃあ、寝ましょうかー」
ウェンディはふよふよとベッドまで飛んでいくと、掛け布団をめくり、横になった。
「シュールだな……」
「ちょっと気になりますね……」
人形が行儀良く布団に入っているのはなんかちょっと怖い気もする。
「お気になさらずに。御二人も寝たらどうです?」
「そうだな」
ワインも飲んだし、寝るか。
「あ、先輩、寝る前にちょっと良いですか?」
立ち上がろうとしたらエルシィが止めてくる。
「何だ?」
「エリクサーです。作れるようになったんですよね?」
そのことがあったな。
「ああ。薬草と水でポーションを作ろうとしたらエリクサーが作れる。おかげでポーションが作れなくなってしまった」
錬金術の基礎であるポーションが作れない錬金術師になってしまった。
「ポーションがエリクサーになるっていうのもすごいですね……」
とんでもなくな。
「ただ、かなり魔力を消費する。俺が部長にエリクサーを見られたのもエリクサーを作ったら魔力切れを起こし、気絶してしまったからだ」
「なるほど。エリクサーですもんね……」
俺とエルシィは同時にベッドの方を見た。
「ごめんなさい。その辺の調整はしていませんでした」
まあ、ウェンディや神を責めることはしない。
もうだいぶわかったことだが、こいつら、かなりいい加減だし。
「再調整はできるか?」
「無理です。与えた技能はもはやレスターさんの一部です。それを切り取ると、記憶の喪失や人格破綻が起き、最悪は脳が処理できずに廃人化も十分にありえます」
ほら、いい加減だ。
「何をしても記憶の喪失や人格破綻が起き、最悪は脳が処理できずに廃人化かい……」
「やめてほしいですね」
ホントだよ。
「まあ、もらったことはありがたいことだし、有効に使わせてもらうさ」
「1個作るだけで魔力切れを起こすんですよね? 大丈夫ですか?」
「そこは問題ない。量産は厳しいだろうが、1回作ったらだいたいの魔力消費量もわかったからな。もう調整できる。見てろ」
カバンから薬草と共にコップを取り出すと、洗面所に行き、水を入れた。
そして、テーブルに戻ると、水が入ったコップに薬草を入れ、錬成を始める。
すると、とんでもない脱力感が襲ってきたが、なんとか耐える。
「おー……」
錬成を続けていくと、水と薬草入りのコップが光り出し、徐々に収まった。
「どうだ?」
テーブルの上には虹色に輝く液体が入ったフラスコがあった。
「これがエリクサー……文献にあるように本当に虹色なんですね。しかも、神秘的な感じがしますし、明らかに普通じゃないです。これを見たら部長もただ事ではないと思いますね……」
事実、そう思った部長は俺の言い訳を一切、聞かなかった。
「エルシィ、これはお前にやる」
「……え? 伝説の薬ですよね? もらえませんよ」
「伝説の薬だが、薬草と水で作れるものだ。さっきも言ったが、保険で持っておくべきものだし、何かあったら躊躇なく使え。これはそういう使い方をする」
もったいないと言って躊躇してはダメだ。
「先輩の分は?」
「魔力が回復したら自分の分も作る。まずはお前だ」
お前、弱そうだし。
「おー……愛ですね」
「そうそう」
愛だよ、愛。
「わかりました。しかし、疑うわけじゃないですけど、本当にどんな怪我も病気も治るんですかね?」
伝説だからわからんな。
「ある程度のストックができたらそういった検証もいるかもしれんな」
「それもそうですね。いくら材料が薬草と水でもかなりの魔力を使う様ですし、湯水のようには使えません」
そうしてほしいね。
今も結構、眠気がヤバいし。
「見られないことっていうのにも注意が必要だ」
「確かにそれもありますね。これは魔法のカバンにしまってきます。この虹色に輝いている感じが目立ちすぎですし」
エルシィがエリクサーを自分の魔法のカバンにしまった。
「それがいい。その辺の対策も今後、考えていこう」
「はい。じゃあ、今日は寝ましょうか。ウェンディちゃんはもう寝てますし」
ベッドの方を見ると、ウェンディが目を閉じてすやすやと寝ていた。
「そうするか」
俺達はそれぞれのベッドに行き、布団に入る。
なお、エルシィは真ん中に陣取って寝ているウェンディを横にずらした。
「じゃあ、先輩、おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」
灯りを消すと、目を閉じる。
すると、魔力をかなり失ったため、あっという間に意識が遠くなっていった。
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