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第012話 今後


「先輩。先輩が言いたいことはわかりましたし、私も全面的に同意します。次の話ですが、まずはどこに行くかです。少なくとも、明日にはここを出ないといけません」


 そうなるな。


「おそらく、イラドは追手か暗殺者を送ってくるだろう」

「追手はわかりますが、暗殺者ですか?」

「俺達は国を出た。これはイラドに貢献する気がないという意思表示と取られる。もちろん、そんな俺達の意思を無視する連中だから強引に攫って連れ戻したいだろうが、他国ではそれも難しい。俺はエリクサーを作れるのだからそれをネタに他国に庇護を頼むこともできるわけだからな」


 もちろん、そんなことをする気はないが、そんな事情をイラドは知らない。


「連れ戻すのが無理なら殺してしまえってことですか?」


 ホトトギス。


「そうなる。他国でエリクサーを作られるのは厄介だし、そうなる前に殺してしまえってことだな」

「それで暗殺者……マズくないですか? 暗殺者なんか来ても私達には対処できません」


 俺達、ただの研究職だしな。

 戦闘なんかできない。


「わかっている。だが、暗殺者はまず俺達の前に現れることはない」

「なんでですか?」

「イラドが暗殺者を送るのは俺が他国のためにエリクサーを作るからだ」

「あ、『宮仕えはしない』がそこに繋がるわけですか……」


 さすがはエルシィ。

 バカじゃない。


「そういうことだ。イラドが恐れているのは俺が宮仕えをし、他国でエリクサーを作ること。すなわち、イラドは暗殺者や密偵を各国の研究施設があるであろう王都周辺に送る。でも、俺はそんなところに行かない」

「なるほどー。さすがは先輩です。賢い!」


 まあな!


「もちろんだが、エリクサーを売って大儲け作戦みたいなこともしない」


 暗殺者を呼び込むようなものだ。


「わかります!」


 エルシィがうんうんと頷く。


「なんかすみません。レスターさんの生活を豊かにするためにエリクサーを作る技能を授けたのに逆に足を引っ張っているみたいです……」


 ウェンディがしょぼーんとなる。


「ウェンディ、気にするな。お前……じゃない、神が与えた技能は素晴らしいものだぞ」


 ここ、重要。


「でも、こんなことになってしまいました」

「違う。こうなってしまったのは俺のミスだ。俺は最初から『エリクサーで大儲け!』とは考えていなかった。強すぎる力は何であろうとトラブルにしかならんからな」


 何でも治すという奇跡の薬ならなおさらだろう。


「だったらやはりいらない能力では?」

「そんなわけないだろ。エリクサーだぞ、エリクサー。俺はそもそも最初からこれを売ったり、他人のために使う気がなかった。ただ、もしものための保険にはなると思ったんだ。俺の前世は身体を壊し、46歳という若さで亡くなった。今世でも身体を壊すかもしれないし、病気になるかもしれない。さらにはどこぞの暴漢や強盗に襲われて致命傷を負うかもしれない。そんな時の保険として役に立つのがエリクサーなんだ。もちろん、俺だけでなく、エルシィがそうなるかもしれない。だからこのエリクサーを作れる能力はいらない能力なんかでは絶対にない」


 本当にただただ俺が好奇心に負けてミスっただけなのだ。


「そうですか。役に立ちますか。なら良かったです」

「先輩……かっこいいです」


 そうか?


「とにかく、平穏な生活にはエリクサーは必要だが、それで金儲けとは考えない。いいな?」


 そう聞くと、2人が頷いた。


「先輩、そうなると、最初はどこに行きますか?」


 話はそこに戻る。


「一番の有力地はゲイツだ」

「ゲイツ……イラドの敵対国ですね。確かにあそこなら刺客は来づらいです」


 その通りだ。


「ああ。だからこそ、一番行ってはいけない国になる」

「イラドが一番怪しむからですか?」

「そういうことだ。あいつらは所詮、無能だ。あいつらが考えることは手に取るようにわかる」


 本当にバカの集まりだからな。


「どんな感じですか?」

「あいつらは俺がエリクサーを作れると知っている。そして、イラド出身の俺達がまずどこに庇護を求めるかと考えた時に敵国のゲイツが頭に浮かぶ。だからこそ、そこに刺客や密偵を送るんだ」


 イラドが一番嫌がる相手がゲイツなのだ。


「そうすると、あえてランスに残りますか? 逆にその予想から外れるイラドの同盟国です」

「ここもダメだ。俺達はここにいるというのはわかっているが、次にどこに行くかを予想した時にゲイツが浮かぶ。その次に浮かぶのが俺達が貧乏人であるということだ」


 貯金はあるが、王侯貴族から見たらそんなものはないも等しい庶民だもん。


「あー、飛空艇は高いですもんね。ここに来るまでで資金が尽きたのなら次の飛空艇に乗れません」

「そういうことだ。つまり飛空艇を使わずにこの国に留まっていると考える」


 この国に庇護を頼むか、陸路で別の国に行くか、この国で飛空艇の運賃を貯めるかだ。


「確かにこの国もマズいですね」

「ああ。実際はまだ金はある」


 2人分の運賃はあるのだ。

 さすがにそれで厳しくなるが……


「私も少しはあります。しかし、そうなると、どこにしますかね?」


 エルシィが1枚の紙を取り出し、テーブルに置く。

 見てみると、それはこの町から出る便が時間ごとに書いてあるフライトスケジュールだった。

 しかも、ちゃんと料金まで記載されている。


「いつの間にこんなものを?」

「先輩が寝ている間に空港でもらってきましたよ」


 あ、そうか。

 俺、昼間にガッツリ寝てたわ。


「悪いな。助かる。さて、どこに行くか……」


 フライトスケジュールを見ながら考える。

 距離を取るのが一番だが、当然、それは料金がかかる。

 飛空艇は高いし、現実的なところにしないといけない。


「基本的にはこことゲイツ以外ならどこでもいいんですよね?」

「そうなるな。永住の地探しをするって言ったが、とりあえずは置いていい。まずは資金集めをしながらほとぼりが冷めるのを待とう」


 今はイラドも躍起になっているだろうが、時間が経ち、俺達の情報が出てこなかったらどっかで野垂れ死んだとでも思うだろう。

 あいつらは結局、エリクサーが他国に流れなければいいのだから。


「アトリエを開く資金集めですね。えーっと、そうなると、いっそ行ってみたいところに行きませんか?」

「それでいいぞ。お前が決めろ。俺は特にない」


 どっかに旅行に行きたいと思ったことがないのだ。


「私はご飯が美味しいところがいいでーす」


 ウェンディが手を挙げてアピールする。


「多分、イラド以外はどこも美味いんだろうよ……」


 今日の夕食が普通ならそうだ。


「私はポードが良いですかねー? 昔、雑誌で見ましたが、歴史ある国で町並みが綺麗らしいんですよ。有名な通りがあってそこがすごいらしいんですって。一緒に手を繋いで歩いてみません? ロマンチックです」


 ロマンチック?

 まったく惹かれないワードなんだが?

 まあ、エルシィは昔からそういうのが好きだから口には出さないけどな。


お読み頂き、ありがとうございます。

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