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第011話 話し合い


「ちょっと俺の話を聞いてくれるか?」

「もちろんです」

「どうぞ、どうぞ」


 2人が笑顔で勧めてくる。


「俺はずっと暗くて狭い中で考えていた。そうしないと精神が壊れそうだったからだ」


 眠ることもできなかったし、とにかく、考えることで気を紛らわしていたのだ。


「なんかすみません……」

「私達、窓から外を眺め、キャッキャしてました……」


 まあ、それはいい。


「俺は前世でつまらない出世争いをした結果、身体を壊し、そのつまらない人生を終えた。死ぬ時はもっと楽に生きれば良かったと思ったものだ」

「それで今世では出世しないことにしたんですよね?」

「ああ。争ってもしょうもないし、ましてや、イラドは貴族社会だった。戦っても待っているのは破滅だけ。ならば争わずにほどほどに仕事をし、平穏な生活を送ろうと思っていた」


 だからあの無能な部長のもとでへらへらと笑いながら仕事をし、横領なんかの手伝いをしていたのだ。


「昔から言っていましたね。私もそう思ったので先輩についていったんです。平民の孤児である私達が争ったらダメな相手ですし、貴族は適当におだてていれば木に登ります」

「あなたも言いますね……」


 ウェンディが呆れる。


「いや、前に先輩が言ってたこと」

「あ、なるほど」


 納得するんだな、お前。


「仕方がないことだ。もうイラドを出たからおおっぴらに言えるが、あいつら、マジで使えない無能だぞ。頭も悪い、錬金術も下手くそ。何ができるんだってんだ」

「先輩の言う通りだと思いますー」

「あ、わかった。この人、ただの太鼓持ちだ……」


 ドンドン。


「貴族はな、家の力で成功が約束されているんだ。どれだけ才能がなかろうが、どれだけ勉強しなくてもある程度の地位には行ける。そして、そのある程度の地位は俺やエルシィがどれだけ頑張っても到達できない地位なんだ。部長が良い例だな……そして、そんなぬるま湯に生きている奴らが努力なんかするものか。結果、無能しかいないわけだ」


 競争を失った社会など破滅しかない。


「まったくもってその通りですね」


 ドンドン。


「あ、太鼓はもういいわ。話を戻すぞ」

「どうぞー」

「俺達はそんなところで働いていたわけだが、これは失敗だった」


 カバンの中で今世を振り返ったのだが、その結論に至った。


「と言いますと?」

「出世を目指さない。これはいい。だが、そもそも俺はなんで宮仕えを選んでしまったのかということだ」


 バカだった。


「給料が良いからでは?」

「そうなんだ。50万ゼルに惹かれた。しかし、これが間違いだった。俺が思っていた平穏は金じゃない。多少、慎ましやかでもいいから本当の意味で争いもストレスもない生活を送りたかったんだ。俺は今回の件でミスをした。しかし、この件がなくてもいずれ破滅したんじゃないかと思う」

「部長、ですか?」


 エルシィもわかるらしい。


「ああ。あの無能は相当だ。俺達がミスをしなくてもあいつがミスをする。そして、その罪は誰が被る?」

「私達でしょうね。あの人は平気で私達を切るでしょう」


 あいつの目には欲しかない。

 だから欲に直結する俺達を重宝した。

 しかし、あの無能は泥船もいいところだ。


「これは良い教訓になった。無能と争ってもダメだが、無能の下についてもダメだ。要は無能と関わってはダメなんだ。だから俺は宮仕えをしないことにした」

「イラドではない別の国で宮廷錬金術師を目指さないということですか?」


 金を儲けるならその道になる。


「ああ。イラドは極端だと思うが、それでも他所の国もそういった面はあるだろう」


 他所の国でも貴族はいるのだ。


「でも、そうすると、どうするんですか? 私達、無職ですよ?」


 せめて流浪の旅人と言ってくれ。


「俺は自分のアトリエを開こうと思う。別に都会でなくてもいいし、小さな町でもいいから誰にも仕えない道を選びたいと思う」

「自分で店を開くってことですか?」

「ああ。赤字にならない程度でいいから適当に稼いで静かに暮らしたい。それこそが平穏だろう?」


 権力争いとは無縁な生活を送りたい。

 朝、希望と共に目覚め、仕事をする。

 そして、夜、幸福と共に就寝する。

 そんな人生を送りたい。


「良いと思います!」

「エルシィ、ついてきてくれるか?」

「もちろんです! 一生ついていきます!」


 そうか、そうか。


「そういうわけで俺は今後、店を開くための資金集めと永住の地を探す旅をしたいと思っている」

「お供します!」

「私もー」


 んー?


「なあ、ウェンディ、お前も来るのか? というか、帰らなくていいのか?」


 お前、天使だろ。

 天使が何なのか知らないけど。


「私は別世界に転生してしまったレスターさんを見守らないといけません。それに神が与えたギフトのせいでこんなことになってしまったのですからお手伝いをしましょう。それが天使の役目です」


 どうでもいいけど、こいつ、ついに神1人のせいにしたぞ……

 大丈夫か?


「そうか。じゃあまあ、頼む」

「お任せください。色んなところに行って、ご飯を食べましょう……じゃない、永住できる良いところを探しましょう」


 ……そうだな。

 まあ、食は大事だよ。

 特に今日でそれがよくわかったし。


お読み頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
腰巾着系ヒロイン可愛い。太鼓持ちとか可愛げがないと務まらないもんな
権力者の目にとまれは、あんまり変わらないと思うよ。
ことあるごとに結婚アピールしてくるなこの後輩ww
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